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輪で勝負!

(swissinfo.ch)

20世紀初頭ドイツで考案されたが、一時忘れ去られていた体操競技「ラート 」が、スイスでも徐々にその知名度を上げている。

スイスのバール市で5月20日から23日まで開催された「09年ラート世界選手権」では、スイスを始めヨーロッパ諸国、アメリカ、イスラエルなど12カ国に交じり、日本からも12人の選手が参加し、優雅な演技を披露した。

斜転で宇宙遊泳

 2つの直径2メートルから2.3メートルの鉄製のリングを平行につないだラートを使った体操競技の世界選手権は、直転、斜転、跳躍の3種目で競われる。

 直転は2本のリングが両方とも地面に着いたまま、選手がラートの中や外を動き、自らの体重を使うなどして、ラートを転がしながら、美しい動きを披露する。特に音楽に合わせての直転は、男女を問わず優雅で、フィギュアスケートにも比較できる競技といえよう。

 今年は直転男子で江塚和哉 ( えづかかずや ) 選手が、メダルを取ることを目標に掲げていた通り、銅メダルを獲得。
「いい経験ができました。2011年を目指して直転に磨きをかけたい。今回メダルは取れましたが、最後、少しやり切れなかったので次回を目指したいと思います」
と語り、表彰式では嬉し涙を流し続けた。直転はラートの基本的な種目でもあり、観客も選手もその優雅さに魅了される。

 斜転はラートを斜めに傾け、リングの1本だけで地面を回る。リングの傾斜度は60度や30度とあり、傾斜度が少ないほど選手の筋力が問われる。以前、日本ではパイロットのバランス感覚を養うために使われたという。宇宙遊泳をしているような動きができるのが魅力の1つ。
「仰向けで回るのは難しい技です。バランスと、リングの勢いに逆らわず、それをうまく利用するのがコツです」
 と吉田望 ( よしだのぞみ ) 選手は説明する。リングから足を踏み外すと失点となる。吉田選手は2年前からラートのパーフォーマーとして舞台でも活躍する。

 2年前の「ザルツブルク世界選手権」で日本の田村元延 ( たむらもとのぶ ) 選手が、ラート競技で世界初めて「転回飛び一回ひねり」で金メダルを獲得した種目が跳躍だ。跳躍は、ラートを前方に真っすぐ押しやるようにして転がし、選手はいったんラートから離れた後、走って追いつきその上に乗り、最高地に達した瞬間、地上に飛び降りる。飛び降り方の難易度や美しさが競われる。今年も田村選手は跳躍で銅メダルを獲得した。

なぜ日本?

 今回の世界選手権でも、発祥地ドイツの選手は女子の跳躍以外メダルを総なめ。ドイツの国歌が6回会場に流れた。

 今年からルールの変更があり、難度の高い技をより高く評価するようになった。
「難度が高ければよいのか。美しさをどう評価するのか。危険なことをすることに対する疑問などもありますが、今後ラートは難度を求める傾向に進むようです」 
 と審査員の1人で筑波大学人間総合研究科・体育学専攻講師の本谷聡 ( もとやさとし ) 氏は指摘する。本谷氏は15年前からラートの日本普及に携わっている。

 ルールの変更や浅い歴史など不利な条件にもかかわらず日本の男子は、直転、斜転、跳躍の3種目でいずれも銅メダルを獲得し、女子の森更紗 ( もりさらさ ) 選手を含む6人の選手が出場した団体でも銅メダルを獲得し、好成績を上げた。
「ほかの国の選手は小さい時からラートに慣れ親しんでいます。一方、日本の選手は大学生になってから始めるのですが、たった3年間で国際レベルに到達します。なぜなのかと問われるが『なんででしょう?』 としか言いようがありません」
本谷氏も日本人選手の好成績に驚いている様子だ。

 バール ( Baar ) の体育館の床が、日本と比べて弾力性に富み、跳躍では良い成績が出せないのではないかと心配を語っていたコーチの松本陽一さんは
「失敗もありましたが、今の状態でのベストが出せました。日本は、全国大会の優勝者が世界大会に出場しています。( 全種目をカバーする ) 6人の選手を出せたことが記録につながったと思います。強豪ドイツに勝つのは難しいですが、日本でのラート人口を増やし、技術を向上させることが今後の課題です」
 と語った。

開催者の努力

 伝統のあるドイツ以外の国ではマイナーな競技で、スイスのラート人口は約1500人、日本では約300人だという。今回スイスが世界選手権大会を主催した中央スイスの小都市バールのスポーツ協会は約90年の伝統があるものの、ラートは4年前からクラブを作って促進しているに過ぎないという。
「それでも、2年前の世界大会のあったザルツブルクで、( 開催地として ) 立候補したところ、世界ラート協会が受け入れてくれたのは名誉あることです」
と主催責任者のルディ・フーク氏は語った。
 
 折しもの新型インフルエンザの流行により、日本の選手団はスイスへの渡航も危うくなった。しかし、現在インフルエンザは発生していないことのほか医療機関が充実していることを州の医師に書類で証明してもらうことで、参加を可能にした。
「ドイツに次ぐ2番目の日本が参加できなくなることはどうしても避けたかった」
 とフーク氏は、日本の参加がこの大会の成功のカギを握っていたことを明かした。

 開催予算は約24万フラン ( 約2100万円 ) 。多くのボランティアを募り大会が進行された。
「ボランティアの方々が多くて、大会を盛り上げようとしている温かい心を感じました。食事にもバラエティーがあり、競技を終えた選手にドリンクを提供してくれるなど、選手を中心に考えてくれていることが伝わりました」
と大会に参加した伹馬絵美子 ( きなえみこ ) 選手は、スイスの主催の手際良さを褒めた。

 2011年の世界大会はドイツのアルンスベルク ( Arnsberg ) での開催が決定した。スイスも日本も、ラートがより多くの人に親しまれるようになり、2年後にはよりレベル高い選手が世界大会で活躍することを目指している。

佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 、バールにて、swissinfo.ch 

ラート競技

ドイツ人、オットー・フェイクが1925年、子どもの遊び道具として考案した。ドイツのルーン地方で発祥地したことから、ルーンの輪「ルーンラート(Rhönrad)」と呼ばれるが、日本では一般に「ラート」と呼ぶ。ベルリンオリンピックでは競技種目として取り入れられたが、第2次世界大戦以降、活動が中断された。1960年、西ドイツで競技会が行われ、以降、ドイツを中心に普及した。
日本では第2次世界大戦時に「フープ(操転器)」として航空操縦士養成の訓練活動に用いられていたこともあるが、大戦後は一切姿を消した。1989年、東海大学の講師 ( 当時 ) 長谷川聖修氏 ( 現筑波大助教授 ) が留学先のドイツから持ち帰り、新しいスポーツとして再び普及活動が始まった。
現在は、小さな子ども達から障害を持つ人まで誰もが楽しむことのできる生涯スポーツとして、また、国際大会で活躍する選手達の競技スポーツとして幅広く親しまれている。 ( 日本ラート協会のサイト参照)

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09年ラート世界選手権成績

団体
1位ドイツ65.75点
2位オランダ 59.85点
3位日本 59.70点

男子
直転
1位 ドイツ マーザー・ロベルト
2位 ドイツ シュトラウス・ヘンドリック
3位 日本 江塚和哉
斜転
1位 ドイツ マーザー・ロベルト
2位 ドイツ マルヒン・コンスタンティン
3位 日本 護得久晋一郎
跳躍
1位 ドイツ マーザー・ロベルト
2位 ドイツ クラウゼン・クリストフ
3位 日本 田村元延

女子
直転
1位ドイツ ホフマン・イェニ
2位スイス メヒベルガー・セシル
3位ドイツ ボルン・アニカ
斜転
1位 ドイツ シャト・カタリン
2位 ドイツ ポーリンク・ユリア
3位 スイス メヒベルガー・セシル
跳躍
1位 オランダ ヘールディンク・キルスティン
2位 ノルウェー クロケイデ・ルート・カリ
3位 ドイツ トロッペ・スフェニア

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