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輸入禁止の宝庫を覗く

象牙はもちろんのこと、巻き貝の一種やワニの革製品なども一切輸入禁止だ swissinfo.ch

旅先で浮かれた気分でいると、ワシントン条約で国際取引が禁止されている象牙やヘビの皮の製品にちょっと手を出したくなったりする。税関で没収されたものが、連邦獣医局(VET/DFA)の倉庫に眠っている。

倉庫に入るとすぐに、毛皮やなめし皮が発する匂いが鼻につく。そこにはありとあらゆる種類の、輸入が禁止された物品が並べられている。

 「今、倉庫には数千点ありますが、以前、もっとあったこともあります」と明かすのは、獣医局の保護動植物課のマティアス・レルシャー課長。多くは、ワシントン条約で規制されていることを知らずに、珍しさに誘惑されて旅行先で買ってきた旅行者から没収した植物や、動物から作られた品物だ。

芸術作品からガラクタまで

 国際取引が堅く禁じられているのは象牙、チンパンジー、ゴリラなどのサルの全種やリクガメ、ウミガメなどだ。象牙など、まさしく芸術品といえそうなものもあるが、大半はガラクタで安っぽい品が多い。

 レルシャー課長が「好みの問題ですが」と言って見せてくれたのは、サルの頭蓋骨。レルシャー課長がもっとも嫌っている品だ。刻みタバコの箱として売られている。頭骸骨には同じく100個の小さな頭蓋骨のレリーフが刻まれている。

 ワニやヘビの革製品や野生動物の毛皮がもっとも多い。輸入許可がないために没収されたものも多くある。没収された場合、輸入許可書を取り寄せなければ、買った人の手に渡ることはない。しかし、旅立つ前に、そのようなことを知る人は少ないし、店でも許可書が必要だと言ってくれることはまれだ。しかも「買ってしまった後でスイスから申請しても、許可はまず下りない」とレルシャー課長は警告する。

国際的取り決め

 ワシントン条約の正式名は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」。169カ国が締約し、絶滅が危ぶまれる野生動物や植物を守るために、輸出入の規制をしている。

 規制をくぐって対象となる商品が市場に出回るのは「裏に金儲けをたくらむ人がいるから」とレルシャー課長。管理して、ある程度の取り引き認めることは、途上国の資源活用という面で意味があるという。ワシントン条約の規制内で、象牙の合法的な取り引きを認めている国もある。しかし、実際は、条約が示す条件を満たす取り引きはなく、非合法な品物がはびこっているとレルシャー課長は断言する。

無知が理由の一つ

 毛皮は別だが、没収された品物のほとんどが外国旅行で買ったものだ。「故意に買うのではなく、ワシントン条約を知らないから」とレルシャー課長は言う。
 
 無知な旅行者が持ち帰った品物で、倉庫は一杯だ。昨年、大きい倉庫に移したが、すでに置く場所がないほど。1970年代に没収された山猫の毛皮は1000枚あまり。近い将来、処分されることになっている。

 倉庫にある品物は、関税局で働く職員の教材になっている。こうした内部教育は年に3、4回行われる。一般の人たちの訪問は、受け付けていない。その代わり、国際条約でこうした土産品をスイスに持って帰られないこと知ってもらうため、獣医局ではインターネット上で情報を流している。また、世界自然保護基金(WWF)と共同で、パンフレットを作成中で、2007年初頭から旅行者に配布する予定だ。

swissinfo、クリスティアン・ラーフラウブ 佐藤夕美(さとうゆうみ)意訳

<ワシントン条約>
1973年ワシントンで採択。169カ国が調印。動物5000種、植物2万8000種を希少性に応じて3ランクに分類し保護している。スイスでは1975年から発効、日本は1980年に締約国となった。

ワシントン条約で国際取引が禁止されているもの
- 象牙
- リクガメ、ウミガメ
- 珊瑚
- 生きた哺乳類、鳥、爬虫類など
- ワニ、ヘビの皮
- キャビア1人につき250グラム以上
- 保護されている動物の剥製(蝶、ヘビ、ワニ)など

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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