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遺伝子組み換え食品 スイス事情

チューリヒ工科大学(ETH)で初めて、囲われた場所で遺伝子組み換えとうもろこしが実験栽培された Keystone

世界保健機関(WHO)は6月末、遺伝子組み換え(GM)食品に関する研究を発表し、「現在、厳しい安全審査を通過し、商品化されているGM食品に危険はない」との見解を出した。

遺伝子組み換え食品は欧州で、その是非について大論争を呼んでいる。スイスでも近い将来、国民投票で「GM栽培の5年間凍結」が問われる。現在、スイスではどのような取り決めが行われているのかを探ってみる。

背景

 欧州では一般に遺伝子組み換え食品について不信感が強い。「人間・環境に対する安全性が保障されていない」と、これまでも輸入を拒んできた。このため、米国はカナダなどとともにEUの認可凍結が不当な輸入制限に当たるとして世界貿易機関(WTO)に提訴している。

遺伝子組み換え食品の賛否

 WHOのヨルゲン・シュルント博士は「GM作物による農薬の節約や、乾いた土地での食料確保などといった利点にも目を向けるべきだ。今のところ、GM食品が健康や環境に危険をもたらすといった証拠がない」とGM食品に対する考え方を改める必要があるとの見解だ。しかし、「今後も、新種は全て厳しい審査を受け続けなければいけない」と慎重な立場も示した。

 欧州諸国を始め、多くの国で遺伝子組み換え食品の導入への抵抗が強い原因に関して同氏は「自然に手を加えていいのか?」といった倫理的問題だけでなく、新種の特許を受けたバイオテクノロジー大手の利益独占、バイオ大手への途上国の依存、自国の食品安全対策や制度への不信、大規模農家のみに有利などといった広範な問題が存在するからだと分析する。

スイスの現状

 市場調査によると「スイスでは国民の70%から80%が遺伝子組み換え食品を食べたくないと答えています」と連邦衛生局、科学食品課のマルチン・ショット氏。このため、コープやミグロ などの大手スーパーが輸入していないので市場では見かけない。

 スイスで輸入が認められている品目は大豆1種、トウモロコシ3種、ビタミン2種にチーズ加工に使う凝乳酵素(レンニン)のみだ。加工品を含む全ての組み替え食品(0.9%以上)にラベルの表示が義務付けられている。加工された食品にはチョコレートに含まれるレシチンやチーズ発酵を促すレンニンなどがある。ショット氏は「私の知る限り、GMレンニンをチーズ作りに使っているところはない」と語る。

スイス国民不信のGM食品

 スイスでは現在のところ遺伝子組み換え作物の生産・栽培はされていないうえ、栽培許可申請もされていない。それでも、2003年9月に「GM作物栽培の5年間凍結」を求めるイニシアチブで12万人の署名が集まった。これは今年の3月、6月に上院、下院の両議会で否決されたものの、今年の11月に国民投票で問われる予定だ。

 同イニシアチブ導入を支える世界自然保護基金(WWF)が発表したバイオ農業研究所FiBLの研究調査によると、「土地が小さすぎるスイスでは遺伝子組み換え作物と伝統的な作物の両者の栽培は共存できない」と結論付けている。遺伝子組み換え品種が強いため、伝統的な品種を駆逐する恐れがあるからだ。

 WWFのグルデニッズ・ウルゲン氏によると「雑草に強いとか害虫に強いとかいう品種も何年か経つとその特性がなくなる。その間に雑草や害虫は免疫を付けるからだ。このような農業で土の要素も変化してしまったり、生物の多様性への侵害など自然への影響は分かっていない」と警鐘をならす。

今後の問題

 「スイスでは輸入するには抵抗が少なくても、栽培するのは多くの人が反対している」と前述のショット氏。「例えば、ブラジルのトウモロコシを輸入したら国土の狭いスイスでは国中、同種で一杯になってしまうといった心配がある」。また、 “GMフリー”を前に押し出す経済的要因もあるようだと分析する。WWFのウルゲン氏は米国と欧州ではGM食品に対する見方に隔たりがあるという。「米国では他の植物と全く同じに扱っているのです」 
 
 ともあれ、遺伝子組み換え食品の議論は今後も食卓を賑わすことには違いない。


swissinfo  屋山明乃(ややまあけの)

<遺伝子組み換え食品について>

– Genetically Modified Organism (GMO) とは遺伝子組み換え技術によって改良された生物を指す。

– 遺伝子組み換え農作物を作るには、まず植物から目的とする(成長が早いとか病気、害虫に強いなど)有用な遺伝子を見つけ、その遺伝子を取り出し、改良したい作物に導入することによって、品種改良が行われる。

– 米国で初めて日持ちを良くしたトマトが1994年に商品化された。

– 遺伝子組み換え作物の商業生産を行っている国は、米国、アルゼンチン、カナダやブラジルなど。日本やスイスの畑ではまだ行われていない。

– 現在、作られている遺伝子組み換え作物にはとうもろこし、大豆、綿、ジャガイモなどがある。

– スイスで遺伝子組み換え作物の輸入が認められている対象品目は大豆1種、とうもろこし3種、ビタミン2種、凝乳酵素(レンニン)など。

– スイス国民はEU諸国と同様、遺伝子組み換え食品の人間や環境への安全性について懐疑的なため、コープやミグロなどスーパーの大手が扱っていない。このため、GM商品はあまり出回っていない。

– バイオテクノロジー企業の大手には米のモンサント社、スイスのシンジェンタ社などがある。 

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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