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開発援助を脱植民地化するには?

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1954年、ガボンの町ランバレネにあるアルバート・シュバイツァー病院で © Eugene Smith/magnum Photos

開発援助は植民地主義的――。グローバル・サウス(南半球の途上国)と欧米諸国の右派はそう主張する。では何を変えればよいだろうか?この点については様々な意見が対立している。

誰でも1度は、頬に涙が伝う褐色の肌の子どもの写真に、寄付を求める文字が載ったポスターやチラシを見たことがあるだろう。

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多くのNGOはこうした写真を用いて人々の同情心に訴え、寄付を促す。写真は2007年にマダガスカルの孤児院で撮影された4歳の女の子 Keystone / Kim Ludbrook

現地の平和活動家を支援する英NGO「ピースダイレクト」のディラン・マシューズ氏は、こうした広告は構造的な人種差別の表れだと考える。「多くの国際NGOは今もなお、『困窮した』アフリカの子供たちという、問題の多いステレオタイプを用いて寄付金を募集している。そしてグローバル・ノース(北の先進国)の人々があたかも南の人たちを『救う』かのような印象を作り出している」

ピースダイレクトはグローバル・サウスの他のNGOと共同で、開発援助、平和構築、人道援助の分野に従事する150人以上を対象に、数日間のオンラインコンサルテーションを通してアンケートを行った。その後、開発援助を脱植民地化するためのアドバイスと提言をまとめた報告書外部リンクを発表した。

泣いている子供のポスターは一例に過ぎない。様々なジャーナリストや団体は、ドナー国は開発協力や人道支援の分野で往々にして植民地主義的な態度を取っていると批判する。スイス連邦外務省によると、一部の途上国は国連の議論でもこの問題を議題として提出している。

グローバル・サウスの人々の訴えは、意外にも欧米の右派から支持を受けている。右派保守の国民党に所属するバルバラ・シュタイネマン下院議員は、開発援助にはパトロンぶった、相手の尊厳を傷つける側面があると語る。開発援助の基本的な問題点には「開発援助は、『南の人たち』はどうせ自力では解決できないだろう、という考えに基づいている」点があると指摘する。

開発援助を廃止すべき?

右派保守の考えに従えば、開発援助を廃止すれば問題は簡単に解決する。

シュタイネマン氏も、ベトナムや韓国など、西欧からの支援をほとんど、または全く受けずに急速に発展した国に目を向けるべきだと語る。一方で、国家予算の大部分が欧米からの開発援助を占めるアフリカ諸国もあると指摘する。「これほど巨額の支援金が費やされても、多くの目標は達成されなかった。政治的な結論としては、こうした分野から撤退することが望ましいだろう」

一方、グローバル・サウスでは違う捉え方がされている。ピースダイレクトのマシューズ氏は「私たちが開催したグローバルなオンラインコンサルテーションに参加した活動家たちは、国際協力の廃止は求めていない」と明言する。彼らはむしろ、開発支援者の態度や考え方の変化を求めているという。

シュタイネマン氏も、すべての援助を廃止するよう求めているわけではない。資金を開発援助や国際機関に投入するよりも、戦争被害者のための緊急支援や災害救助に用いる方が賢明だと考える。「私たちは残念ながら研究、協議、ワークショップ、円卓会議、国連事務所の家賃補助などに膨大な金額を費やしている」。同氏は、多くの資金は危機的状況にある地域ではなく、文化やイデオロギーに流れてしまっていると指摘し、「投資先がマリやウズベキスタンの若い演劇関係者や画家だったり、ボスニア・ヘルツェゴビナにあるロックミュージックの学校だったりする」と揶揄(やゆ)する。実際、連邦外務省開発協力局のプロジェクト・データベース外部リンクを見ると、スイスは国の経済発展との関連性が不透明な分野に支援金を投入していることが分かる。

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スイスはマリの首都バマコの図書館を支援した。写真は、当時のサミュエル・シュミート・スイス連邦大統領(左から2番目)と、図書館の創設者ママドゥ・クラジィ・シスマ教授(左端)。05年撮影 Keystone / Monika Flueckiger

ここで、根本的な問いが浮かぶ。どういう援助が有益なのかを知っているのは、実は現地住民の方ではないだろうか?

決定権のシフト

Eine Frau
フェイ・エコン氏 zvg

英国系ナイジェリア人の経営コンサルタントであり、ガーナ出身の政治学者であるフェイ・エコン外部リンク氏は、開発援助を脱植民地化する方法の1つとして、被援助国が資金の使い道を自ら決めることを挙げる。

それは物語を変え、権力を移すことでもあるという。エコン氏は、これを「あなたたちが私の家に来て模様替えを手伝ってくれるとしても、どういう配置にするかは私に決めさせてほしい、というのと同じことだ」と述べ、開発協力には対等なパートナーシップが欠かせないと強調する。

援助ではなく無条件の賠償金

ピースダイレクトによると、欧米諸国に植民地時代の不当な行為の代償として無条件の賠償を求める活動家が増えている。ケニアのNGO「ADESO外部リンク」のデガン・アリ氏は、オンラインコンサルテーションで次のように述べた。「もし人道支援や開発支援の融資を賠償金という形に変えれば、それは権利となり、厚意ではなくなる。厚意の場合、能力がないという理由で現地の団体に資金が渡されないこともありえる」

宗主国の歴史地図
swissinfo.ch

モザンビーク出身で、アフリカ地域研究を専門とするバーゼル大学のエリシオ・マカモ教授(社会学)も、賠償金に賛成だ。

マカモ氏はこの点を短い例え話で説明する。「酒に入り浸り、子どもの面倒を見ない父親がいる家庭があるとする。ある日、強盗が押し入り、家の中から貴重品を盗んでいった。警察は犯人を見つけたが、犯人はこう言った。『貴重品を返すのは、父親が生活習慣を改めた時だけだ』」

Ein Mann vor der Universität Basel
エリシオ・マカモ・バーゼル大学教授 Universität Basel

マカモ氏は、過去にあれだけのことが起きたのに、欧米がアフリカ諸国に後ろ指を指すことは傲慢であり、不誠実だと考える。

一方、活動家の一部は懐疑的だ。旧宗主国がいまだに損害を認める気配がないからだ。「もちろん宗主国でなかった国もある」(マシューズ氏)。例えば、スイスは植民地を持ったことがない。

マシューズ氏は賠償金の支払いではなく、途上国の債務免除を提案する。そして何よりも重要なのは、開発援助を「違った形」で行うことであり、私たちの考え方をまず「脱植民地化」することだという。

慈善事業ではなくビジネス

解決のカギは、寄付ではなく投資という全く違うアプローチ方法にあるかもしれない。この点では中国が先行している。

中国の影響力がアフリカで強まっている理由は、中国が欧米諸国のように人権状況を改善しようとしているのではなく、単に経済的な動機からアフリカに関与しているからだと、エコン氏は考える。「中国は利益を得るためにインフラを整備している。中国の関与でアフリカのインフラは大きく変わった。国際的な開発援助がこれまで成し得たレベルをはるかに超えている」

インフラの改善で訪れた変化は、エコン氏が身をもって感じている。経営コンサルタントの同氏は、今後の働き方について、つまり人が積極的に企業で働くのに必要なことについて大きな関心を寄せる。同氏がケニアで経営する企業Ravelworks Africa外部リンクは、当初はサブサハラ・アフリカ市場をターゲットにしていたが、現在は米国や欧州の顧客が主な顧客だ。「時代の変化と言えるだろう。欧米企業が、アフリカ企業に助言を求めている」

現地人を雇用し、公正な報酬を支払う

ピースダイレクトはNGOや政府の開発機関に対して、国外のすべてのポジションを現地スタッフで埋めるよう助言する。ピースダイレクトによれば、国際NGOの多くは、十分な資格を持った現地スタッフがいるにもかかわらず、管理職を中心に白人の駐在員を採用している。現地スタッフと欧米スタッフの大幅な賃金格差も構造的な人種差別を象徴しているという。

一方、マカモ氏はそうした見方とは少し距離を置く。「現地スタッフにスイス並みの賃金が支払われるとなれば、新たな不均衡が生じるだろう。現地の一般的な給料水準はそれよりもはるかに低いのだ」

シュタイネマン氏は、欧米の仕事の多くは開発援助金に依存していると指摘する。「開発援助産業を維持する目的で公的資金を費やしてはならない」と強調し、連邦外務省開発協力局で高い給料が支払われている点を批判する。

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開発協力局のパトリシア・ダンジ局長は、スイスは同局の活動地域におけるニーズに常に注意を払うべきだと考える。「スイスの国際協力機関として、私たちが他の機関に比べてより良く提供できる付加価値とは何か?この問いを私たちはいつも自らに問わなければならない」 © Keystone / Christian Beutler

スイスの対応は?

開発援助の脱植民地化についての議論は、スイス当局にも及ぶ。連邦外務省の広報担当官は書面取材に対し、開発協力局は「開発援助の脱植民地化」という用語を使っているわけではないものの、アプローチ方法を適応させていると回答した。また、「開発協力局は職員の異文化対応能力を促進」しており、「同局は定期的に言葉使いを見直している。『開発援助』よりも『国際協力』を使うことが増えている」と述べ、同局は評価や査定も行っているとした。

こうした取り組みだけでは、抜本的な改革が行われているとはあまり言えないだろう。連邦工科大学チューリヒ校開発協力センター(NADEL)のキモン・シュナイダー講師もこう話す。「開発協力局は脱植民地化に関する様々な問題に間接的に取り組んではいるが、もっと体系的かつ明確に取り組むことは可能であり、そうすべきだ」

しかし公平を期すために言うと、スイスは他国よりも、参加型の手法をかなり重視している。直接的な共同決定、マイノリティーの包含、文化間の対話など、国内で培われた手法や価値観を土台として、スイスが植民地主義的な態度の見直しをリードしていくかもしれない。

(独語からの翻訳・鹿島田芙美)

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