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魚を食べ続けるために

乱獲により、魚が食べられなくなる日がこないように Reuters

わたしたちの食生活にかかわる魚の乱獲は深刻だ。山国スイスでもこの問題に対する認識が高まってきている。大手スーパーに続き、冷凍食品の「フィンドゥス」も水産物エコラベル「MSC」の魚に全商品を移行すると発表した。

国連食糧農業機関 ( FAO ) によると、世界の食源となる魚の約半分が枯渇寸前まで獲られ、4分の1はすでに枯渇しているか乱獲されている。また、漁獲されても8%は利用されることなく破棄される運命にあるという統計もある。乱獲は自然界のサイクルが崩壊する危機を招き、漁業に携わる人々の生活も深刻に侵す。

アラスカ産のMSC

 スイスの食生活は近年大きく変化し、寿司や刺身という言葉が定着してきたことからもわかるように、多様化し魚の消費量も増加の傾向にある。

 スイスに本社を置く食品メーカーの世界最大手「ネスレ ( Nestlé ) 」の冷凍食品ブランド「ネスレ・フィンドゥス ( Nestlé Findus ) 」は、魚の消費量の増加と乱獲の現状を問題視し、絶滅の危機にある魚はまったく使わないと宣言した。2008年末までに、同社の小売向け冷凍魚加工商品9品目すべてMSC ( Marine Stewardship Council ) の認証した魚に移行する。MSCは国際的に水産エコラベルの認証を行っている唯一の機関だ。

 ネスレの冷凍食品部門のマネージャー、アンドレアス・バンワルト氏によると、フィンドゥスが加工するタラは、特に乱獲の対象になっていることもあり、昨年から今後の対策を検討していたという。
「絶滅の危機にある魚は購入しないという目標を達成するために、MSCとパートナーになったことは幸運だった。MSCは魚の乱獲の解決策を世界的レベルで提供している機関だ」
 今後フィンドゥスが加工する魚は、MSC規格を保持する大手漁業者が漁獲するアラスカ産のシロイトダラになる。

 MSCのラベルを通して、消費者に食品に対する安心感を与えることも、フィンドゥスの狙いでもある。販売価格の0.5%をラベル使用量としてMSCに支払うことになるが
「すでに、今年に入って石油価格の高騰などで20%の値上げを強いられている」
 とバンヴァルト氏はMSCラベルによる直接的な値段への影響は微々たるものだと言う。

スイスは優等生

 スイスの大手スーパー「ミグロ ( Migros )」と「コープ ( Coop ) 」も以前からMSCラベルの魚やその加工品をすでに導入しているが、スイスの冷凍の加工魚市場で5000トンのシェアで最大手のフィンドゥスが、MSC認証の魚にすべての商品を移行するインパクトは大きい。
「2007年のMSCラベルの品目数で見ると、小国ながらもスイスは現在7位にある。今回さらに、大手企業がMSCと協力することになり、非常に歓迎している」
 とMSCのドイツ・スイス・オーストリア地域担当のマーニー・バンメルト氏は満足げだ。

 MSCが創立されて11年になるが、これまでMSC規格を取得した漁業者は、京都の漁業者1件を含む32件で、総生産量は約500万トン。世界で漁獲される量の8%を占める。金額にすると約5億1000万ドル ( 約537億円 ) だ ( 2006/7年 ) 。品目数で見ると2001年には約400品目だったのが2008年にはすでに1万4000品目に急増している。
「長い間、MSCラベルの取得漁業者を見つけることや、商品を扱う流通機関との提携にこぎつけるまで厳しい状況にあったが、MSCの知名度も上がり、最近はその数が大きく飛躍した」
 とバンメルト氏。

 魚の乱獲は、漁業者、流通業界、消費者の3者が揃って解決すべき問題であるという認識が高まれば、MSCの活動にも拍車がかかる。現在、およそ100の漁業者のMSC認証が検討されているという。

swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ )

<世界の漁業>
2002年の総漁獲量は金額にして810億ドルにのぼり、魚の市場取り引き総額は550億ドルだった。魚の消費量は1998年の9360万トンから2002年には1億70万トンに上昇。漁業従事者数は約2億人と推定されている。( FOA資料 )

スイス国内で消費される魚の9割以上は輸入物だ。2007年の総輸入量は約5万トンで、国内で生産された魚の量は3000トンだった。( スイス連邦環境局統計 )

日本が漁業や養殖業で生産する水産物の量は年間約608万トン。金額にして1兆6000億円になる。また、日本へ輸入される水産物の量は毎年348万トン、金額にして1兆6000億円になる。( 日本外務省サイトから)

1997年、世界自然保護基金 ( WWF ) と世界最大の消費財メーカー「ユニリーバ ( Unilever ) 」により創立された。非営利組織として水産資源の保護や環境保全のために独立した活動を行う。本部ロンドンのほか、アメリカ、オーストラリア、オランダ、ベルリン、日本などに活動拠点を持つ。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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