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Izakaya・Okonomiyakiも 身近な存在になった日本食

チューリヒの日本居酒屋で乾杯するスイス人グループ
枝豆をおつまみに日本酒で「カンパイ!」。チューリヒの和風居酒屋「OOKI」は仕事帰りのサラリーマンらで毎晩満席だ swissinfo.ch

スイスで和食が身近な日常食として浸透しつつある。寿司や天ぷら、鉄板焼きと言った高級食だけではなく、うどんやお好み焼きなどの知名度も上がってきた。スーパーでもおにぎりや枝豆が買えるようになり、気軽に楽しめる存在になっている。

 「いらっしゃいませ!」

 チューリヒ中央駅からトラムで15分。カフェやレストラン、小売店などが立ち並ぶヴィエディコン(Wiedikon)の一角にその店はある。外見は周りと同じ欧州風アパートだが、ドアを開け「のれん」をくぐると木札に日本語で書かれたメニューやマンガキャラクターのお面、レトロなポスターが目に飛び込む。

 「Japanese Izakaya OOKI外部リンク」ができたのは2016年10月。経営する大木広行さん(65)はそれまでチューリヒでラーメン屋を営んでいたが、スイス人共同経営者と対立したのを機に「何か目新しいことをやりたい」とうどんをメーンにした居酒屋を立ち上げた。メニューには枝豆やから揚げ、揚げ出し豆腐など「おつまみ」も並ぶ。

 うどんには当初、日本から取り寄せた乾麺を使っていたが、コシが弱く日本人客には不評。山口県産の冷凍の生麺を使うようにしたところ、日本人だけでなくスイス人にもファンが増えた。今は売り上げの4割をうどんが稼ぐ。

 客は大半がスイス人だ。職場仲間、女子会、カップルなど客層も幅広い。火~日の営業日は48席が毎晩満席。さらに一晩で3回転する人気店となり、今月には「ベスト・オブ・スイス・ガストロ」のインターナショナル部門を受賞した。

 「日本食だけでなく、『日本』そのものへの人気がすごい」。大木さんはこう語る。日本へ旅行するスイス人は2016年に約4万4千人と5年連続で増え、17年も8月までで8.1%伸びている。牛丼屋やカレー屋など旅行者も気軽に入れる店がどこにでもあり、寿司以外の日本食の知名度もぐっと高まっている。

保守的なスイス「ブームはこれから」

 独仏との国境の街、バーゼルにも今年9月、日本の「B級グルメ」が登場した。繁華街クライン・バーゼルのフードコート「クライン」に店を構えるお好み焼き屋「OKOs(オコス)外部リンク」だ。国際時計見本市バーゼル・ワールドの会場となるメッセプラッツが近くにあるだけに、地元のビジネスマンはもちろんスイス外からの訪問客も足を運ぶ。

 OKOsを営むのはオレル・アキラ・シュトラウブさん(39)とパウル・バッスィングさん(32)の2人。シュトラウブさんは母、パウルさんは妻が日本人だ。2人ともずっとスイスに住んでいるが、普段から日本の家庭料理になじんでいる。メニューはお好み焼きに牛丼、焼きそば、餃子、週替わりのお弁当などで、レシピはシュトラウブさんの母が考案。ランチはすぐに出る牛丼が人気で、看板のお好み焼きは夜が主戦場だ。

 お弁当の白飯には黒ゴマを振り、牛丼に添えるサラダに丁寧にスプラウトを乗せる手間は省かない。隣に陣取るタイ料理店に速さ・安さではどうしても負けるが、それでも「ちゃんとした日本食を出したい」(シュトラウブさん)と手を抜かない。焼きそばは日本から麺やソースを取り寄せる。

 バッスィングさんは電気技師として働く傍ら、15年にスイス各地で始まった食イベント「ストリート・フード・フェスティバル」でお好み焼きを売り始めた。家に友人を招いてお好み焼きパーティーを何度も開くうち、商機があると感じたからだ。「質が高いだけでなく、味わいも豊か」(バッスィングさん)。各地を回るうち、お好み焼きも少しずつ馴染みが出てきた。旅行や仕事で日本を訪れた人からも人気があるという。

 シュトラウブさんは「スイス人は食にも保守的なところがある。パリやロンドンに比べれば、和食ブームはまだまだこれから」と期待する。

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スイスで親しまれる和食

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 農林水産省によると外部リンク、スイスの日本食レストランは17年10月時点で約290軒。2年前の前回調査(180軒)から100軒近く増えた。割合にすると6割増で、海外全体の増加ペース(3割)を上回る勢いだ。日本人が経営しているレストランだけでなく、ヨージズ(Yooji’s)外部リンクネギシ(Negishi)外部リンクなど、スイス資本の寿司チェーンも広がっている。

右肩上がりのニーズ

 小売業界でも日本食は日常的な存在になりつつある。大手スーパーのコープ外部リンクは現在、おにぎりや枝豆、わかめサラダなど100種類以上の日本の食料品を取り揃える。10年前はしょうゆなど10種程度に過ぎなかった。

 おにぎりを投入したのは12年ごろ。提携するスイスの料理専門の出版社ベティ・ボッシ (Betty Bossi)外部リンクの市場調査で「トレンドを先取りした」(コープ)。おいしくて健康に良く、持ち運びに適した形が消費者のニーズに合うと読んだ。乾燥を防ぐため酢飯を使う工夫もしている。

スーパーの寿司・おにぎりコーナー
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 ミグロ外部リンクは昨年末、日本・アジア食品製造スシマニア(Sushi Mania外部リンク、フリブール州ヴアダン)を買収。ミグロの生鮮部門をてこ入れすると同時に、スシマニアの展開する寿司バーを介して消費者ニーズをいち早く掴むためだ。

 02年から一部店舗でスシマニアの寿司を販売していたが、全国各地の店舗で同社のブランドを前面に出し、マグロやサケの握りなど10フラン(約1100円)以下で買える手ごろな寿司セットを販売する。海のないスイスは生魚を食べる習慣はないが、「日本食、特に寿司への消費者ニーズは右肩上がり。のりやわさびなど、手作りのための材料も売れ行きが良い」(ミグロ)という。

 普段着で食べられる料理としてスイス人の食生活に溶け込みつつある日本食。本場の味を知るスイス人も増えてきただけに、味や盛り付けもごまかせない。多文化国家でありながら保守的なスイスで、和食はゆっくりと、だが確実に足固めをしている。

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