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「アルプスにて展」完璧なる頂上

ピラトゥス山 水彩画 10.2 x 22 cm 1854年 ジョン・ルスキン. Ruskin Foundation, Ruskin Library, Lancaster University

スイスといえばアルプス。アルプスに向ける人々の情熱をテーマに現在、チューリヒのクンストハウス ( Kunsthaus ) で展覧会が開催されている。

芸術家、科学者、冒険家などのアルプスを300点以上の展示品を通して表現する試みだ。アルプスは何世紀にも渡って、人々に感動を与えたり畏怖の念を抱かせたりしてきた。

 「アルプスにて展 ( In den Alpen ) 」では、17世紀から現代に至るまでの人とアルプスのいろいろなかかわりを展示している。アルプスの立体模型、観光客用の昔の写真やポスターのほか、絵画はスイス人のホドラーやイギリス人のターナー、日曜画家だったチャーチルの絵も鑑賞できる。

畏怖の念から興味の対象として変化するまで

 「アルプスがヨーロッパの中心にあるというのは先入観です」と展覧会のキュレーター、カタリン・フクさん。アルプスといっても実は、フランスからスロバキアまでの長い山脈なのだ。そしてこの展覧会は、人間がいない月世界のようなアルプスの姿の紹介から始まる。

「18世紀に登山が始まりますが、それ以前の人々はアルプスに恐怖を感じていました。アルプスを登ることは神の意思に背くことだと考えられていたからです」とフクさんは説明する。人々がアルプスを美しいと感じるようになったのは、ごく最近になってからだ。

 長い間、人々に畏怖の念を抱かせ続けてきたアルプスだが、時代を経るにつれ人々は、アルプスに咲く花やそこに生息する動物などに興味を抱くようになる。こうした興味を代表する著作がコンラート・ゲスナーが17世紀に書いた『山鳥 ( Bergvögel )』だ。今回の展覧会で最も古い展示品である。

 朝焼けや夕焼けの中にあるアルプスの姿は、特に芸術家の創作意欲をそそり、多くの絵画になっている。そのほかアルプスでの人々の生活、ハイジ、マッターホルン、ウンシュプンネン祭 ( スイスの民族衣装と牧童の祭 ) の紹介もある。

あらゆるところで利用されるアルプス

 展覧会は絵画だけを展示しているわけではない。科学者、地理学者、地図製作者などのアルプス測定の業績についても詳しい説明がある。軍事的観点からアルプスは外部からの侵入を妨ぐ要塞としての役割も果たした。展覧会では、第2次世界大戦中軍事作戦に利用されたことを中心に紹介されている。アルプスは一方で、南北を結ぶ役割も果たした。このことは、トマス・シュッテルの彫刻『山のトンネル』で象徴されている。

 現在は観光と切り離せないアルプスも1つのコーナーとして取り上げられている。登山が始まった18世紀に観光が土地の経済に与えた影響とアルプスがどれほど国外にアピールしたかといった観点からのアプローチだ。観光業はあらゆるものを「食いもの」にしてきたことも紹介。1806年、400人の犠牲者をもたらした中央スイスのゴルダウ市で発生した大土砂崩れの後、物見遊山に多くの観光客が現地を訪れたことも取り上げている。そのほか、ハイキング、ウェルネス休暇を促すポスターなども展示されている。

 「観光振興などを通して、アルプスが地上の楽園としてアピールされるようになりました」とフクさん。アルプスの楽園神話は、今後も続きそうである。

swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 意訳

アルプスにて ( In den Alpen ) 展
クンストハウス、チューリヒ
2007年1月2日まで
出展数 300点以上
17世紀から現代に至るまでの美術品と科学研究の成果などを展示

全長1200キロメートルでおよそ30万平方メートルの広大な地域を指し、ヨーロッパの屋根と称される。アルプスがまたがる国々はスイス、オーストリア、ドイツ、リヒテンシュタイン、フランス、モナコ、イタリア、スロベニア。最高峰はモンブラン ( 標高4819メートル )。

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