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「サッカー観戦をより楽しく」スピンオフ企業が教えます

サッカーファンが高じて、ビジネスを展開するに至る。シュテファン・ヴュルムリン社長 ( 右 ) とクリストフ・ニーダーベルガー技術部長 ( 左 ) Yumi von Reding

チューリヒ連邦工科大学 ( ETHZ ) のスピンオフ企業、リベロビジョン社 ( LiberoVision AG ) は、サッカー戦のオフサイドなど微妙な瞬間を、他のアングルでとらえた映像を作り上げる「マジック・カメラ」の開発で今年のスイス・テクノロジー賞の準優勝を獲得した。

これまでは、イラストでしかシーン再現ができなかった。しかし、リベロビジョンの技術は、ジダンやロナルディーニョの顔をばっちりとらえることができる。

 リベロビジョンは昨年9月、それぞれコンピュータ・グラフィック分野の博士号を持つシュテファン・ヴュルムリン氏 ( 31歳 ) とクリストフ・ニーダーベルガー氏 ( 31歳 ) が起こした企業。創立から半年にも満たないが、スイス国内に与えられる数々の企業賞を受賞し有望視されている。

信用に耐える映像

 スポーツファンがテレビでゲームを観戦するとき、ペナルティになるのかどうかといった緊張する瞬間を、別のアングルから観たいと思うのは当然だろう。そのためにはカメラが何台も必要だが、リベロビジョンの技術を使うとその必要はない。カメラがとらえた映像をリベロビジョンボックスという機械が読み取り、コンピュータ・グラフィックを応用し、別のアングルからも見える映像を作りだす。

 ヴュルムリン社長は「リベロビジョンの案は、特に新しい発想ではない」と認める。コンピュータの世界では10年以上前にすでに試みられていた。しかし技術が伴わず、選手は、アニメーション漫画に登場する人物のようにイラストでしか表現できず、視聴者に不信感を与えてしまうようなものだった。テレビのスポーツ中継で使われるこの種のサービスは、いまのところオフサイドの場面で、画面にラインを引いて選手の位置を確認する程度にとどまる。

 リベロビジョンボックスが選手の基本的データーを機械で読み取るので、選手の姿も識別できるという。「コンピュータ・グラフィックを使っている。映像に手を入れるのだから、バーチャル・リアリティー。しかし、現実との誤差は5〜10センチメートルくらいだろう」とヴュルムリン社長は、映像の信憑性を視聴者は納得すると確信している。

新商品が成功するには

 現在、あとはスイスの民放との契約にサインするだけ、というところまで漕ぎ着けた。スイスのスーパーリーグ戦でこの春、初めて使われる予定だ。「4年かけた博士号論文の理論を使い、1年半でプロトタイプを作り上げ、投資家を見つけ出し、オフィスを作り…。長い道のりだった」とヴュルムリン社長はこれまでを振り返る。ビジネスの知識がまったくなかった2人にとって大学院で作り上げた学術論を顧客のニーズに対応できるよう変換することが、一番難しいことだったという。

 「現在不完全であるスポーツ番組を完全にすること」がヴュルムリン氏の夢 ( ビジョン ) だ。完全な番組とはゲームをより魅力的にし、分かりやすくすること。「まずは、次世代テレビの3D・インタラクティブテレビを目指す。映画業界やセキュリティ産業でも使われる可能性がある」リベロビジョンのビジョンは大きく広がっていく。

swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ )

<リベロビジョン>
2006年9月チューリヒ連邦工科大学 ( ETHZ ) からスピンオフ
最高経営責任者 シュテファン・ヴュルムリン
技術部長 クリストフ・ニーダーベルガー
アドバイザーマルクス・グロッスETHZ教授 以上の3人が社員。

2006年ベンチャー賞入賞
2006年ベンチャーリーダー賞の青年企業家賞
2007年スイス・テクノロジー賞 準優勝などを受賞

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