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「人という資源を扱う人事部が好き」

シャンタル・ガンペルル氏(43歳)は家族とともにパリに引っ越す。 lvmh

ローザンヌのネスレからパリのLVMHに移った人事部長のシャンタル・ガンペルル氏。スイス人が、フランスを象徴する最大手高級ブランドグループへの転身を語る。

巨大なLVMHグループの人事部の責任者として、また執行委員会のメンバーとして今年の3月から新しい冒険が始まった。成功するキャリアウーマンへのインタビュー。

 LVMH(モエへネシー・ルイヴィトン)はファッション界でフェンディ、クリスチャン・ディオール、酒ではドン・ペリニヨンやヘネシー、時計ではタグ・ホイヤーなどあらゆる分野での高級ブランドを統轄する。スイスでは1000人、世界では6万5000人の従業員を抱える大グループだ。

swissinfo : ネスレ社からLVMH社に移った理由を教えてください。

ガンペルル : ネスレ社での任務を果たしたので、また新しい素敵なチャレンジへの良い機会でした。

ネスレの本社があるヴェヴェでは、グループ内で新しい人材を見つけ出すメカニズムを設置しました。役員の前進を助け、重要なポストの継続を強化し、ヒエラルキー(上下関係)を緩やかにし、成果を重視する方向への移行を手助けしました。

LVMHではリクルートされた時に会った多くの人々に魅了されました。同グループ内での人事部の重要性と会長に近い位置も決め手となりました。高級ブランドの世界では人材が他の分野よりもより差がつく要因となります。

swissinfo : LVMH社ではどのように役立つつもりですか?

ガンペルル : LVMHグループ内の人事部の施策を指揮することによって、豊かな人材を引き込み、定着させ、彼らの能力を発展させることを狙っています。

5つの分野での60のブランドを持つグループの中で相互作用を促進させることです。それぞれのブランドの創造性と自主性を尊重しながらそれぞれの会社を繋げることです。

私にとってのチャレンジは6万5000人の職員がいるグループ内で新しい風と変化を持ち込みながらも、強さの原点となっている伝統とのバランスを保つことです。

swissinfo : LVMHとネスレとでは人事運営にどのような違いがありますか。

ガンペルル : 2つの違った文化があります。新しい製品の開発と関連するビジネスのリズムはLVMHの方がスピードが速いです。LVMHグループは大変に競争力の激しい分野で活動しているからです。

ネスレではもっと長期的な方向でコンセンサスを大事にします。商品と技術がもっとも重要視されます。他方、LVMHでは人材が決め手となります。

swissinfo : 多大な権力を持つ社長( CEOのベルナール・アルノー )が率いるフランスの代表的な高級品ブランドの会社でスイス人として重要なポストにつくことをどう考えますか。

ガンペルル : 違うものを持っていながら、同化することができるので、武器だと考えます。フランス語圏のスイス人としてローザンヌに生まれ、4つの文化と言語のある国でフランスの文化のもとで育てられました。異なった言語と文化がスイスを作ります。この多種多様のバランスが力となっています。

高級といえば質、伝統や開放性を思い浮かべますが、スイスもその特質を備えています。スイス人であることが、新しい変化や提案をする力になります。有名な多国籍企業での経験で得たプロ精神で、私は新しい目と実用主義を持ち込むことにします。

swissinfo : あなたは仕事に対して、倫理的もしくは道徳的な視野を持っていますか。

ガンペルル : 批判的な精神を保つように努力しています。自分の行動だけではなく、一般的に会社経営そのものに対してもです。

人事部の仕事は謙虚であることが重要で、自らを問い質すことができなければなりません。また、客観的であることが必要です。企業と同一化すると同時に批判精神を持たなければなりません。

私の子供たちには根本的な価値観である家族、友達を持つといった財産を大切にすることを教えています。これらの基本的な価値観は自らが誰であるのか、迷わずにいられる軸となります。

私は現実的な人間で、このチャレンジを成功させるために闘うつもりです。でも、何もかもを捨ててでもということではありません。順応するつもりですが、私が固く信じているいくつかのことを犠牲にしてまでというわけにはいきません。

swissinfo : 毎朝、起きる力の源はなんでしょうか。

ガンペルル : プロジェクトやアイディアを進め、実現したいという気持ちです。自分の仕事が好きです。企業の心臓である人事部は組織の特権的な観察場所です。企業を成功に導く人間という、もっとも素晴らしい資源を扱う仕事ですから。

swissinfo 、 聞き手 ピエール・フランソワ・ブソン  屋山 明乃 ( ややま あけの ) 意訳

フランス人のベルナール・アルノー氏がCEO( 47%の株主 )である世界最大の高級ブランドグループで、世界中に従業員が6万5000人。

同グループはファッション、革製品、ワインなどのアルコール飲料、時計、化粧用品から流通まで幅広く手掛ける。

2006年の同グループの総売上額は153億ユーロ( 約2兆5000億円、前年比10%増 )。純益は18億7000万ユーロ( 約3000億円、前年比30%増 )。

- 1964年生まれ、ローザンヌ大学卒業。

- フィリップモリス社に勤めた後、米メリルリンチ銀行のスイスの人事部長に転職。

- 2001年から2007年2月までネスレ社の人事部長を務めた。

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