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「みんなのクリスマス」

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キリスト教国であるスイスに住み始め、子を持つ身になってから、この季節、強く感じることがある。それは、家族のいない独身者にとってのクリスマスはさぞ淋しいものだろうということだ。誰もが知っているように、クリスマスはイエス・キリストの誕生を祝う宗教的行事で、スイスに於いては、信仰厚き者かどうかにかかわらず、家族でお祝いする。幸い、私はスイス到着時から夫の家族が温かく迎えてくれた。家族は子供の誕生によって年々増え、クリスマス、復活祭そして誕生日や記念日にはお互いに招き合い、楽しいひとときを分かち合っている。しかし、私のような境遇の外国人はむしろ幸運なのだと感謝しなければならない。いや、スイス生まれの生粋のスイス人であっても、少子化・高齢化が進む現代に於いては、迫り来る孤独の波に脅かされている。

    ジュラ州ポラントリュイ市では、地元の赤十字社、アジョワ及びクロ・ドュ・ドゥー支部(Croix-Rouge Ajoie et Clos-du-Doubs)が「みんなのクリスマス」というイベントを毎年12月24日の夜に催す。もともとは1975年に航空郵便配達会社によって始められたパーティで、「クリスマスを一人ぼっちで過ごすことがないように」という趣旨から成り立つ。当初は病院のカフェテリアで行われ、100人足らずの参加者だったが、核家族化傾向が強まり、一人身のお年寄りを隣近所が招いてあげるというスイス特有の優しい習慣も薄れたことから、年々、参加者が増え続け、毎年220人以上の応募があるまでになった。そのため、場所はスイスの大手スーパーCOOP(コープ)が経営するCOOPレストランへと引っ越した。しかし、COOP改装後、レストランの収容人数が減ってしまったため、今年は州立高校の施設の一部であるイベントホールが用意され、学生食堂のシェフが腕を振るうことになった。

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 様々な団体の寄付が運営を助けているため、参加は無料。例えば、2011年10月のブログでご紹介したサン・マルタン祭の収益金は、この会に贈られる。また、申し込みさえすれば、ライオンズクラブの運転手による無料送迎があるので、車を運転しない人でも安心して参加することができる。ボランティアグループの采配で、地元の音楽グループによる生演奏を聴きながらアペリティヴ、そして地域の肉職人協会が提供する肉を堪能することができる。食事の後には小司教区教会代表者と市長から挨拶があり、サンタクロースがプレゼントを配りに来る。「その他、数々のサプライズあり!」と宣伝チラシは謳っており、こんなに楽しい会なのなら、一人身でなくても伴侶や家族と一緒に参加したいと思わせるような内容である。新聞に掲載された写真を見ると、大半は高齢者だが、中には外国人とおぼしき、子連れの家族もいる。そう、参加資格や条件などはまったくなく、正真正銘の「みんなのクリスマス」なのである。

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 毎年恒例になっている我が家のクリスマス行事を少し紹介しよう。クリスマスイヴ、夫の末の妹の家に家族全員が集まって食事をいただき、プレゼント交換をする。そして翌日、クリスマスは夫の母方の家族が一同に会し、末の妹夫婦が住む村のボーイ&ガールスカウト施設で食事をする。夫の母方は7人兄弟姉妹。テーブルの準備や肉の注文などのオーガナイズは、7人が毎年順番に担当すると取り決めている。毎年40人前後集まるので(今後も人数は増え続けるであろう)なるべく準備を簡素化しようと、メインディッシュの肉とじゃがいものグラタンはその年の担当者が肉屋に注文する。サラダとデザートは皆それぞれお得意の一品を持ち寄ることになっている。様々な種類の野菜サラダとバラエティに富んだデザート。栄養満点の上、各家庭の味を存分に楽しむことができる。もちろん、一番大切なことは、一年に一度、7人の兄弟姉妹が子供と孫達を招き、互いに近況報告をし、世代を越えて交流をすることである。

 さて、クリスマスの頃、娘達の学校と夫の会社が冬期休暇に入ると、私達家族はスキーリゾート地にて週単位で貸しているアパートの一室を借り、過ごすことが多い。もったいぶるようだが、長くなってしまうので、この話は次回に持ち越すとしよう。

マルキ明子

大阪生まれ。イギリス語学留学を経て1993年よりスイス・ジュラ州ポラントリュイ市に在住。スイス人の夫と二人の娘の、四人家族。ポラントリュイガイド協会所属。2003年以降、「ラ・ヴィ・アン・ローズ」など、ジュラを舞台にした小説三作を発表し、執筆活動を始める。趣味は読書、音楽鑑賞。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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