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 スイス麻薬会議 コカイン配給制度の是非

医師が麻薬重症患者にコカインを処方する日が来るのだろうか。 swissinfo C Helmle

3日から本日まで、2日間にわたってベルンで開催されているスイス麻薬会議では、専門家によるコカイン配給制度の是非が問われた。

スイスでは,10年来重症の麻薬中毒患者に対する医師の監視下でのヘロイン配給制度が浸透し、成果を上げている。新たにコカインを配給することはどうなのか。

スイス国内でのコカイン消費者の数は9万人にのぼると見られる。違法手段でコカインは入手され消費されるが、「パーティー・ドラック」とも称され、常習より、時々使ってみるという人が多く、ちょっとした遊びというイメージがある。よって、スイスでは重症中毒患者への配給制度が浸透しているヘロインとは異なり、コカインの配給に踏み切るにはまだ抵抗がある。しかし、患者の健康はヘロイン同様、害されることに変りはなく、生活環境が改善されるという面で、コカインの配給は成果を上げるだろうと支持する専門家もいる。
 一方、連邦内務省健康局(BAG)はコカイン配給制度を性急に進めることには反対である。特にいまは、タイミングが悪い。現在、マリワナなどの「軽い麻薬」の合法化の動きがり、健康局は合法化を支持している。しかし、コカインまで配給されることになると、麻薬全体を開放する前兆ではないかという懸念から、マリワナ合法の動きにブレーキがかかってしまいかねないと健康局は警戒する。

複数の麻薬に侵されている人たちの実態は複雑

 麻薬中毒患者の実態は、複雑だ。チューリヒのヘロイン配給計画を指導する医師のダニエル・マイリ氏は、「配給の対象となるべき人は複数の麻薬に侵されている人だ。自分が診察しているヘロイン中毒患者150人の3分の1はヘロインのほか、コカインも消費する。コカインを買うための費用が1カ月に1万フランから2万フラン(およそ90万円から180万円)に上る。しかし、盗みなどをしない限り、買えない。よって、コカインの配給制度が実施されれば、ヘロイン患者の一部も恩恵を受けるだろう」と複雑な実態を語る。

 コカイン配給制度を支持する専門家は、それでも麻薬患者の生活環境が向上するから効果があるとするが、マイリ医師はもろ手を挙げて支持するわけではない。「ヘロイン患者がコカインも摂取するなら逆効果」と見る。

死亡率も高いコカイン患者を助ける

 さらにマイリ医師は「コカインによる死亡率は高いほうだ。治療を受けず10年間消費したら死に至るので、深刻な問題」と、コカイン患者を助けるには、配給制度も一つの案と考える。連邦内務省健康局(BAG)のマルクス・ヤン氏は、「成功するかどうかの裏付けはない」と、麻薬問題が医師の監視下におけるコカイン配給で解決するとは思っていない。

 連邦政府のコカイン配給制度に対するサポートは「消極的なものに留まるだろう」と言う。「今は、アルコール中毒問題や喫煙問題などの解決が優先される」と語り、夏季の議会でマリワナなど軽い麻薬の合法化問題についての審議があることも踏まえ、二つの違った麻薬の問題が交錯する可能性があり、まだ議論の余地があるコカイン配給制度について語るのはタイミングが悪いとの意見である。

連邦政府が費用を負担するのか

 コカインの配給制度については、各州が決定権をもっている。たとえばチューリヒ州は積極的なほうで、連邦政府の補助も期待している。前出のヤンス氏は、「チューリヒ配給を始めることに反対しないし、むしろその結果には興味がある。とはいえ、連邦政府の補助を期待するのは間違い」と言う。

 麻薬会議では、チューリヒで営業する医師とソーシャルワーカーがコカイン患者20人に対して行う配給計画案が提示された。対象となる患者の半分が、コカインで健康を大きく害しているという。「10年前のヘロイン配給制度の導入に際しても反対意見はあったが、成功したではないか。コカイン配給でも患者は死ななくて済むようになる」と、前出のマイリ医師は、コカイン配給制度を導入することを強く支持している。

スイス国際放送 イモゲン・フォーカス (佐藤夕美 (さとうゆうみ)意訳) 

スイス国内のコカイン消費者およそ9万人。
常習ではなく時々消費する人が多い。
チューリヒの専門家がコカインの配給制度案を提示。
患者の生活環境の向上を目的とする。
コカインとヘロインを併用する患者をターゲットとする。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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