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「カランダッシュは国外移転の戦略を選択せず」

Keystone / Gaetan Bally

1915年創業の筆記具・画材メーカー「カランダッシュ」は、90カ国に製品を輸出する。従業員300人からなる家族経営の同企業のキャロル・ユブシェール会長は、工場をジュネーブにとどめると約束するものの、エネルギーコストの高騰を懸念する。

スイス経済の上層部で女性が占める割合はまだまだ低い。例えばスイスの主要株式指数SMIを構成する大手企業20社で、女性管理職の割合はわずか13%。国際比較ではスイスはこの点において劣っている。swissinfo.chでは今年1年間、世界に展開するスイス企業の女性経営者の意見に耳を傾けていく。スイス経済の代表たちが、エネルギー価格、欧州との関係から世界経済におけるスイスの立ち位置まで、現在の最も差し迫った課題について語る。

swissinfo.ch過去10年間でカランダッシュにはどんな大きな発展がありましたか?

キャロル・ユブシェール:まず、たった1つのロゴとブランド、つまりカランダッシュに依拠することにしました。これは簡単な決断ではありませんでした。なぜなら、製品の価格は2フランから1千フラン超まで、さまざまだからです。しかし、全製品カテゴリーで卓越性を重視しているため、この単一ブランド戦略は妥当であると考えます。

2つ目には、デジタル化に大きく力を入れました。これには、社内ツールの開発、Eコマース(電子商取引)の展開、ソーシャルネットワーク上での存在感の発揮が含まれます。

swissinfo.ch:世界でブランド知名度をよりいっそう高めるため、どのような行動を取っていますか?

ユブシェール:大きな発展はこれで3度目になります。基本方針は、すべての行動がブランドを培わなければならない、ということ。卓越した品質の商品を作り出すほか、デザイナー、芸術家、建築家、そしてごく最近ではアンバサダーたちと、さまざまなパートナーシップを確立しました。その際、一般大衆に広く知られた有名人よりも、むしろ我々の分野の専門家とのコラボレーションを選択したのです。私たちのブランドが持つこうした強みはまた、当社の発明を保護するための最良の切り札でもあります。

swissinfo.chEコマースとソーシャルネットワークはどうですか?

ユブシェール:2012年よりスイスでオンライン販売を開始し、その後、欧州、最終的には米国と日本にまで拡大しました。パンデミック(世界的大流行)はインターネット販売を大いに促進し、私たちの外部小売業者の多くが最近、オンラインショップを開設しています。

ソーシャルネットワークに関しては、インスタグラム、フェイスブック、LinkedIn(リンクトイン)に専念しています。そのおかげで、自社のブランドを目立たせ、消費者の期待をよりよく理解することができるのです。そして、YouTube上でオンライン授業を提案しています。

swissinfo.ch:すべてがデジタルのスマートフォン時代に、筆記具に対する需要が大きく減少するおそれはありますか

ユブシェール:そう思うかもしれませんが、現実はその反対を証明しています。それに21年は、史上2番目にいい年でした。文字を書く消費者はきっと以前より減っています。しかし、製品は消費者の創造力を発達させることができ、この優れた性質の価値はますます高まっているのです。

2002年、自身の家族の企業であるカランダッシュの取締役会に加入。12年に会長職を引き継ぎ、21年からCEO(最高経営責任者)も務める。

過去にはニューヨークのカランダッシュ米国販売業者内、同社のジュネーブ本社で、さまざまな責務に従事。また、スウォッチ・グループ従業員、ブランディング会社のコンサルタント、プレミアムおよび高級ブランドの建築業で活動する企業のパートナーを務めた。

ジュネーブ・ホテルスクール( l’École Hôtelière de Genève)卒、ハーバードビジネススクールの経営開発プログラム修了。既婚者、3人の子供の母親。

swissinfo.ch:しかしカランダッシュは財務データの開示には非常に慎重です。

ユブシェール:実際、それらの数字に関心を抱くのは競合他社くらいですから。

swissinfo.ch:カランダッシュの筆記具および画材製品は1915年以来、ジュネーブの工場で製造されています。国外移転することにした場合、これらの商品は引き続きスイスの商品として認識されるのでしょうか?

ユブシェール:欧州の競合他社の一部は、工場の大半をインドネシアまたは南米に移転し、もとの国には少数の小規模生産施設のみ保持することを決定しました。それにもかかわらず、これら競合他社の製品は、部分的に欧州の製品であると認識されています。

しかしながら、カランダッシュはこの国外移転戦略という選択をしませんでした。ジュネーブ州ベルネに将来の工場を建設することは、その証です。言い換えれば、私たちは「SWISS MADE」の刻印の真実性、ブランドの真正性、そして顧客の信頼を保持したいと考えているのです。もし国外に移転すれば、何10年にもわたり養成されてきた従業員たちの多大なノウハウを失うでしょう。

また、スイスおよびその近隣に拠点を置くいくつかの主要サプライヤーとの結びつきもあります。当然、スイスで製造するという戦略的選択によりコストは上昇します。しかし、革新能力のおかげでこの短所を補っているのです。

swissinfo.ch:ジュネーブの労働力は世界の他の地域の労働力よりも、本当に革新的なのでしょうか?

ユブシェール:スイスには素晴らしい大学だけでなく、応用科学芸術大学および優れた見習い研修もあります。こうした異なる教育の組み合わせは、非常に革新的なチームを養成するための重大な切り札です。当社では破壊的革新よりもむしろ、(たとえば製造過程における)持続的革新に重点を置いています。

swissinfo.ch:世界には無数の時計メーカーがありますが、筆記具・画材のセクターは一握りしかありません。このことを、どう説明しますか?

ユブシェール:鉛筆の製造は非常にシンプルだと思えるかもしれませんが、現実はそれよりも限りなく複雑です。非常に大規模な生産設備は言うまでもなく、独特なスキルを要します。色鉛筆の生産には35を超える工程が必要で、グラファイト鉛筆ではこの工程数が50にもなります。言い換えれば、私たちの業界の参入障壁は相当なもので、サプライヤーの数が非常に限られていることからなおさらです。私たちの工場は世界で唯一、全種類の製品を社内でコントロールしています。その意味で、直接的な競争相手がいません。

swissinfo.ch:スイスにおける枠組み条件には満足していますか?

ユブシェール:根本的には満足しています。特に、この国の並外れた安定性に価値を感じます。その反面、最近4倍になったエネルギーコストについて懸念しています。隣国の欧州との枠組み条約(スイスで働く欧州の労働者に同等の条件・権利を与える保護措置を含む)の決裂状況は、もう1つの懸念事項です。

「私は女性のクオータ制に全く賛成していない。スキルや機会均等を重視するほうがいい

swissinfo.ch:あなたは、カランダッシュの最高経営に関わる一族の4代目にあたります。家族経営の中小企業でどのように後継者を確保しますか?

ユブシェール:これは極めて重要なテーマです!次世代の家族の関心を非常に早いうちに呼び覚ますことが大切です。しかし、決して強制してはなりません。個人的には、次世代の1人か2人が、家業を継いでくれればいいなと考えています。また、争いのリスクを最小化するため、家族の権利と義務を定めた証書を作成しました。

swissinfo.ch:株式公開を検討していますか?

ユブシェール:検討していません。私たちは独立性を尊重しているからです。このアプローチにより機敏でいることができ、また長期的な戦略を採用することができます。100年にわたってこの運営方法はうまく機能しており、変える必要があると考えていません。たとえ、証券取引での資金調達によって一部の拡大戦略をより迅速に導入し得るとしてもです。

swissinfo.ch:クオータ制役職の一定割合を女性に割り当てる制度には賛成ですか?

ユブシェール:全く賛成していません。スキルや、特に機会均等を重視するほうが私はいいです。ちなみに、カランダッシュの経営陣の大多数は女性です。

(仏語からの翻訳・奥村真以子)

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