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20周年を迎える放射能廃棄物試験所

グリムゼル試験場の入り口。中では、日本を含む世界各国の研究プロジェクトが進められている。 PSI

放射性廃棄物の処分方法を研究する試験場がグリンデルヴァルトの近く、グリムゼルにある。山奥の地下に大型の施設を持った同試験場は今年で20周年を迎えた。

国内にある5基の原子力発電所から毎年排出される高レベルの放射性廃棄物の量はおよそ60�d。放射能が十分衰退して危険でないレベルになるまでの長い間には、廃棄物を保管する容器が腐食し地層に放射能が放出される可能性もある。長期間に耐える保管方法や放射能が水源に届かないような地層を研究しているのがグリムゼル試験場だ。他国との情報交換も行われ、日本との関係も深い。

グリムゼルへ向かうため乗車した電車は、インターラーケンに向かう観光客でにぎわっていた。マイリンゲンの駅から車でおよそ30分。放射性廃棄物の処理方法を研究するグリムゼル試験場に行くには、山間にあるダムの横の斜面に見えるトンネルに入る。トンネルをミニバスで1km行くと試験場の入り口に到達する。ここから450�b下方に試験場はある。スイスの放射性廃棄物管理組合(NAGRA)が運営する。放射性廃棄物処分についての研究は、枝のように分かれて掘られた全長1.3キロメートルのトンネル内で行われている。実際に放射性物質を使っての研究もあるため、岩盤がしっかりしていることからグリムセルが選ばれたが、この試験場が最終処分場になることはない。

地下試験場で各国が協力しあう

 NAGRAの国際支援・協力本部のプロジェクトマネージャーである加来謙一氏は、「スイスは放射性廃棄物の研究では歴史があるものの、投資できる資金が限られている。試験場で国際的な共同研究を促進しながら、研究を進めている」と語る。グリムゼル試験所のような大規模な試験場はヨーロッパではスウェーデンとベルギーの2カ所のみで、主に自国のための研究がされているが、スイスは他国との情報交換に積極的という。

 このため、9つの国と地域からの研究の依頼も受けており、たとえば、国内でこうした実験をすることが法律で禁止されているスペインが、放射能の保管における熱の影響を知るために大規模な実験をしている。また、日本の核燃料サイクル開発機構(JNC)、原子力環境整備促進・資金管理センター(RWMC)、大林組なども参加している。

 NAGRAのプロジェクトマネージャーであるストラティス・フォンフォリス氏によると、グリムゼル試験場の年間総予算は300万フランから400万フラン(約2億5,500万円から3億4,000万円)。ひとつの試験の年間平均予算は100万フラン(約8,500万円)で、試験により3年から9年かかるという。

 日本からの出資で行っているのは「ガス移行試験」といわれる研究だ。放射性廃棄物はベントナイトという特殊な粘土で囲って地下に埋めて処分される予定だ。長い年月が経つと、廃棄物中の金属が腐食し水素ガスが発生する。研究ではこのガスがベントナイトなどの中をどのように移行するかにつて調べている。7年間の試験が終了し、得られたデータは、処分された廃棄物の長期間の安全性についてを予測する資料として分析される。 

最終処分場はまだ決まっていない

 太陽や風力など再生可能なエネルギーの実用化研究が進むスイスでも、原子力発電所があるので、放射性廃棄物が毎年排出される。たとえ、原子力発電所が操業停止になったとしても抱える大きな問題だ。 

 低中レベルの放射性廃棄物の処理場に適すると判断されたニトヴァルデン州のヴェレンベルクは、州民投票でその建設が中止された。低中レベルの放射性廃棄物とは原子力発電所で使われたフィルター、掃除に使われた布、ビニールシートなどで、現在は、中間貯蔵施設(ZWILAG)にコンクリートやアスファルトなどに混ぜてドラム缶に詰めて保管されている。

 また、発電の際に排出する、燃えかすの核分裂生成物といった高レベルの放射性廃棄物については、グリムゼル試験場とジュラ州にあるモンテーリ試験場で処分方法が研究されている段階である。現在のところ、オパリナス粘土層が地下およそ600メートルにある、ザンクトガレン付近のチューリヒ・ワインラント地方が最適といわれている。

 放射性物質は水に溶けた状態で移行する。オパリナス粘土は水を通しにくい性質を持っているため、放射性物質を放出しにくい。粘土といっても固い岩盤で、過去2億5000万年間比較的安定しているということも理由のひとつだ。

 スイスとドイツの国境近く、経済開発協力機構(OECD)の原子力機関(NEA)が本年4月行った調査では、チューリヒ・ワインラント地方は放射性廃棄物の処分に適していると評価したものの、ドイツとスイスの住民から反対の声も上がっている。もし、順調に施設が認められたとしても、最終処分施設が実際に機能するのは2040年以降になる模様だ。

スイス国際放送 佐藤夕美 (さとうゆうみ) グリムゼルにて

スイスの原子力発電所 
スイス 5基 / 日本 52基
スイスでは総発電量の38.2%が原発で賄われる。日本は33.8%。(2000年IAEA資料などによる)
スイスの場合、残り6割は水力発電。
高レベルの放射性廃棄物はスイスで年間、およそ60�d排出される。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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