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6月5日 国民投票で問われるスイスの将来

スイスとイタリアの国境。現在は入国チェックに車の列ができる。 swissinfo.ch

6月5日に行われる国民投票ではEUとのシェンゲン・ダブリン協定締結の是非と同性愛者同士の関係を公的に認める連邦政府によるパートナー法の是非について問われる。

外交と内政の二つのテーマが取り上げられた今回の国民投票だが、久しぶりに国民の関心も高く、投票率も上がりそうだ。

EUからのスイスへの入国を自由にし、一方で入国を拒否された人の情報をEUと共有することができるようになるシェンゲン・ダブリン協定への加盟の是非は、EUに加盟していないスイスにとって関心度が高い項目だ。
同性愛者の関係については、従来の家族の姿との関連が討議の中心となっている。二つのテーマは共に、昨年からすでに新聞などでも重要な議題として取り上げられ、国民投票前の現在に至るまで引き続き熱心な討論がされている。

人の行き来の自由化と情報交換

 シェンゲン協定は人とモノの移動に対する国境警備の安全管理に関する協定だが、加盟すると、加盟国間におけるパスポート・コントロールなどは省略される。シェンゲンの加盟が発行するビザで、3ヵ月の期限内なら加盟国内を自由に行き来できるようになる。また、加盟国と非加盟国との間の国境での、人の行き来の情報を共有することができるようにもなる。

 ダブリン協定は、入国管理と難民対応に関する取り決めで、加盟国以外の国籍所有者が亡命を望む場合、加盟国のいずれかが受け入れの是非を審査するだけで十分とするもの。受け入れを拒否された人の指紋がデーターバンクに登録されるようになっており、その情報は加盟国間で共有する。

EU加盟に近づいた?

 シェンゲン・ダブリン協定に対しては、スイスの「EU化」を懸念するグループが反対し、5万件の必要署名を集めレファレンダムが成立したため、今回の国民投票で協定の是非を問うことになった。

 彼らがEU加盟に反対する理由のひとつが「人の行き来の自由化による弊害」である。たとえば、賃金の高いスイスに外国から安い労働力が流入し、スイス人の失業が増加する。また、外国人が多くなることで、スイス人の生活の安全が危ぶまれるようになるなどといった理由を挙げ、対EU外交に関する国民投票が行われるたびに、国民党(SVP)を中心とするグループが「反EU加盟−スイス独立堅持」を主張してきた。

 当然、彼らは今回の国民投票でもシェンゲン・ダブリン協定に反対している。反対のポスターには「シェンゲンは国内により多くの犯罪者を招き、失業者を増やす。その果てにあるのはEU加盟だ」「シェンゲンは犯罪者のベルトコンベア」などのキャッチフレーズが書かれ、相変わらず過激だ。

 政府は、国境での入国管理は加盟国の国籍を有する人に対しては簡素化されるものの、パスポートを所持せずに入国することは許されないこと、簡素化された分だけ非加盟国からの入国は厳しくすること、モノに対する課税などはこれまで通り行われることなどを指摘し、国民が懸念するほど外国人が多く流入することはないと訴えている。

 スイス放送協会の4月末のアンケート調査では、62%が今回の締結を支持しているが、今後、反対グループの活動が活発になるにつれ、この数字も変動する可能性がある。政府は閣僚を地方自治体に積極的に派遣し、賛成運動を展開している。反対者グループの中心的存在であるSVP党出身のクリストフ・ブロッハー司法警察相も、入閣前の意見を翻し協定への賛成運動をしているのが今回の特徴でもある。

同性愛者と

 同性愛者同士が共同生活をするケースが、近年増加している一方で、こうした人たちが社会的に不利に立たされていることが問題となっている。

 連邦政府は現状を踏まえ、同性愛者が役所に同性パートナーとして届け出ることで異性同士で結婚している人と、税制、相続、年金などの面で同等の権利を認めるパートナー法を議会に提出した。

 ただし、結婚とは異なり、養子をもらったり妊娠促進手術などを受けることは認められず、苗字は届出後も変わらない。一方、パートナーの一人が外国人の場合、スイスに滞在する権利は、異性同士の婚姻と同じ条件で認められといった点が新法のポイントだ。

 政府は、新しい法律により同性愛者の社会的認知度も上がると主張。議会もパートナー法を承認した。

すでに十分認められていると主張する反対者

 新法に対し、従来の家族の姿を脅かすもので不要だと反対するグループがレファレンダムを起こしたため、今回の国民投票でその是非が問われることになった。

 反対者グループは、同性愛者はすでに社会で十分に受け入れられている上、現行法で十分に異性同士のパートナーと同じ権利が認められているとも主張している。また、すでに同じような法律を導入している外国の例を見ると、役所に届け出た人は該当者の1%に満たない上、同性愛者はその後、別居してしまうケースも多く、税金を使ってまで少数の人に配慮する必要があるかは疑問だと主張している。

 4月末のスイス放送協会の調査によると、66%が新法を支持すると答えている。

swissinfo  佐藤夕美(さとうゆうみ)

6月5日の国民投票
1.シェンゲン・ダブリン協定について
2.同性愛者のパートナーの地位保障について
いずれもレファレンダムが成立し国民に是非が問われることになった。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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