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中国が見せたがらないアイ・ウェイウェイ映画、ジュネーブで上映

窓の外を見る男性
祖国・中国では「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましくない人物)」と呼ばれ、現在ポルトガルに住む艾氏。人類には明るい未来が見えないという © Camera Press

先月5~14日に開催された「ジュネーブ国際人権映画祭とフォーラム(FIFDH)」で、中国の現代美術家、艾未未(アイウェイウェイ)氏のドキュメンタリー映画「コロネーション(Coronation)」がプレミア上映された。新型コロナウイルスの感染拡大で封鎖された中国・武漢の数カ月間を記録した、衝撃的な長編ドキュメンタリーだ。

艾氏は現在、ポルトガルに住む。「ちょうど1年前に武漢で本当に起こったことを、世界が知る日はおそらく来ないだろう」と言う。

ドキュメンタリー映画「コロネーション」は、中国の衛生危機の貴重な情報を提供している。感染症発生当初の中国当局による隠ぺい、不意を突かれた医療システムの混乱、そして世界から切り離され、自力で生きることを余儀なくされた武漢の、3カ月以上に及ぶ完全封鎖―。

この作品はこれまで一度も公に上映されたことがなく、ストリーミング配信もなかった。艾氏は、国際映画界に対する中国側からの政治的圧力が理由だと話す。

だがスイスはその圧力に屈しなかった。艾氏の作品は、ジュネーブ国際人権映画祭外部リンクで上映された。上映前に行われたswisshinfwo.chのインタビューの中で艾氏は、過去40年間の民主主義の波が終わりを迎え、ポストコロナの世界では検閲が支配するだろうと語った。

▼ドキュメンタリー映画「コロネーション」予告編

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swissinfo.ch:あなたは中国では「歓迎されない人物」ですが、どうやって武漢で撮影を行ったのですか?

艾未未:私が最初にパンデミックを撮ったのは、2003年、中国でSARS(重症急性呼吸器症候群)が発生した時でした。ですからこのテーマを扱うのは初めてではありません。私はずっと前から中国で調査映画を作っていましたし、それは既に問題にもなっていました。私には何をどのように撮影すべきかが分かっていました。武漢には、封鎖で閉じ込められた同僚やアーティストがいました。劇的に悲しい記録になることは分かっていましたが、まさかこんな風に世界的に大流行し、今でも毎日何千人もの人が亡くなり、パンデミックが終わる気配のない状況が続くとは想像もしていませんでした。

私は信頼できる知り合いに連絡を取り、送られてきた映像を見て毎日彼らに指示を出しました。ロックダウン下にあったので、非常に困難な作業でした。誰も移動することができないのですから。ですが6つの病院と、緊急設置された患者受け入れの仮設病棟に知り合いがいました。

swissinfo.ch:何を見せたいと思いましたか?

艾:様々な視点です。病院の状況だけではなく、人々の生活や、見捨てられ忘れられた人たちのことも。(中国では)多くの人が声を失っています。声を持たないということはカウントされないということです。ただの数字なのです。感情や価値観はもはや関係ないのです。

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swissinfo.ch:この作品はジュネーブの映画祭で上映されますが、世界の映画祭やプラットフォームでは公開されませんでした。

艾:私たちが成し遂げたことをとても誇りに思っています。これはパンデミックと中国に関する最も重要な映画になるでしょう。私が見せたかったのは、中国が政治の世界でどのような役割を果たしているか、そして世界が中国をどう理解しているかということです。

皮肉なことに、私が最初に得た教訓は、中国からではなく西洋からのものでした。トロント、ニューヨークなどこの作品の上映を打診した世界の主要な映画祭、そしてネットフリックスやアマゾンなど大手ストリーミング配信企業はみな、最初はこの作品を気に入ってくれた。ですが最終的な答えは、「この作品は受け入れられない」でした。

swissinfo.ch:それに対するあなたの反応は?

艾:状況はよく分かっています。映画市場は今や中国に支配されている。先月、中国は米国を抜いて世界最大の映画市場になったばかりです。映画祭は自主検閲をしているか、中国から圧力を受けているかのどちらかです。中国共産党の中央宣伝部から「お墨付き」を得た作品しか上映できないのです。

この許可を得るのは事実上不可能です。中国にいる同僚の多くが、何年も努力しているのに、この許可をもらうことができていません。

ですからたとえ私が中国を批判しなくても、彼ら(映画祭や配給会社)は私の名前を出すことができないのです。そうでなければ、国が映画買取の独占権を持つ中国でのビジネスチャンスに影響が出てしまいますから。

ですが、西洋のエンターテイメント界や映画産業でさえも、私の作品をベルリンで上映することを拒否しました。彼らにとって中国市場は重要で、どうしても上映できないということは理解できる。彼らはビジネスチャンスを失うわけにはいかないのです。それは正しいとか、間違っているとかではなく、事実なのです。西洋は、資本と利益のために自由を放棄したのです。

艾氏が監督を務めたドキュメンタリー映画「コロネーション」からのスクリーンショット
艾氏が監督を務めたドキュメンタリー映画「コロネーション」からのスクリーンショット screenshot/DW.com

swissinfo.ch:中国だけではなく西洋でも表現の自由が課題に直面しているということですね。この問題では、世界はパンデミックからどう抜け出すと思いますか?

艾:表現の自由に関して言うなら、私たちは皆、前よりもっと悪い状況で生きることになるだろうと分かっています。どこででもです。中国では、人々はまるでSF映画に出てくるような厳しい管理と監視下に置かれていますが、実際にそれが現実に起こっていることなのです。

一方、西洋では大企業がユーザーの個人情報を中国企業にリークしていたことが明らかになったばかりです。中国では全てが政府の管理下にあります。ですから当局は西洋の個人情報でさえもコントロールできるのです。

swissinfo.ch:それが永久に続くと思いますか?

艾:これが新しい現実です。グローバル化が進んだことにより、大企業は中国との関係が深まった。そこには国境もイデオロギーも議論も一切ありません。利害関係があるだけです。戦略的には、中国サイドが勝ち組なのです。

ここ30~40年の民主化の波は終わりを告げようとしています。米国やブラジルなどの多くの国で起きていることを見れば分かるように、民主主義や自由主義の国に対する反発が大きくなっています。これらの国の多くは国内危機に直面しており、権威主義的国家にとっては大いに好都合です。

ブラジルのボルソナロ大統領、ロシアのプーチン大統領、中国の習近平・国家主席のような指導者は、自分の欲しいものを巧みに手に入れてきた強者です。彼らの時代はまだ続くでしょうし、止める方法もなさそうです。

Law of the Journey, 2017 (detail)
艾氏の作品は常に、難民の窮状など差し迫った政治的・社会的問題を扱っている。巨大なゴム製の作品「Law of the Journey(旅の掟)」(2017年作)はチェコ・プラハ国立美術館の依頼で展示され、その後シドニービエンナーレの目玉作品の一つとしてオーストラリアのコカトゥー島に持ち込まれた Zan Wimberley

swissinfo.ch:この状況に対する西洋の反応をどう思いますか?

艾:西洋には明確な価値観がありません。大使館内でワシントン・ポスト紙のジャーナリストが殺害されたとき、米国政府は何事もなかったように振る舞った。西洋がそれを容認するのならば、守るべき道徳的立場はないということです。ジュリアン・アサンジは今も収監されている。国家機密を暴露するためのプラットフォームを提供したに過ぎないのに。このようなことが許されるのならば、いわゆる「言論の自由」は冗談だ。許可されることしか話せないということですから。本当に重要なことを話したり、体制に疑問を持つことは決して許されないのです。

swissinfo.ch:今年2月、世界保健機関(WHO)は武漢に調査団を派遣しました。1年前の武漢で実際に何が起こったのか、世界がいつか知る時が来ると思いますか?

艾:いいえ。そうは思いません。共産党政権は非常に強大で強力で、この秘密を守ることは彼らの最優先課題なのです。WHOの訪問はとても表面的なものだった。彼らもまた、同じ責任を負うべきでしょう。感染の拡大が始まった当初、このウイルスはヒトからヒトには感染しないと言っていたのですから。

swissinfo.ch:パンデミック後の地球上では何が起こると思いますか?

艾:私たちは今、とても脆弱な時代を生きています。今回のパンデミックで人々が、人類社会が将来直面することに対処するために明確な戦略を打ち立てるほど警戒心を抱くことはないと思います。様々な意味で、私たちは人類社会にとって前例のない事例に直面している。テクノロジー、中国のような強力な国家、そしてこの権威主義的国家に対処できない西洋諸国の無力さ、さらには膨大な気候問題。これら全てのことが、人類の未来に疑問を投げかけているのです。

(英語からの翻訳・由比かおり)

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