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ワクチンパスの範囲拡大でスイス観光業界に波紋

© Keystone / Gaetan Bally

スイスでは13日から日常の広い範囲でワクチン接種済みなどを示すCOVID証明書の提示が必要になる。だが、スイスでは承認されていないアストラゼネカやスプートニク、シノファーム製のワクチンを接種した駐在員や観光客、在外スイス人が袋小路に追いやられそうだ。

「私たちは2階級社会になろうとしている」。生活基盤のあるスコットランドで新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のアストラゼネカ製ワクチンを接種したフランツ・ハイムさんはこう話す。現在はスイスに滞在中だ。同国では13日から、ハイムさんら数千人が恐れていた事態が現実になる。

スイスでは数千人がアストラゼネカ製ワクチンの2回接種を済ませ生活しているが、スイスは同社製ワクチンを承認していない。そのため、13日から彼らの日常生活は非常に堅苦しくなる。レストランや文化施設、フィットネスセンターなどを利用するには有料の検査を受けなければならない。ワクチン接種、陰性かり患済みであることを示すCOVID証明書の提示を求められるからだ。

それは当面、以下のワクチンを接種した人全員に降りかかる運命となる。

  • アストラゼネカ(181カ国でワクチン接種)
  • シノバック(39カ国)
  • スプートニクV(70カ国)
  • シノファーム(65カ国)

数週間前に浮上したこの問題は、在外スイス人協会(ASO)などの団体が対策を求めている。ASOは世界保健機関(WHO)が承認したワクチンを全てスイスのCOVID証明書でも認めるよう連邦政府に要請した。ホテル・レストラン業界のロビー団体「スイス・ツーリズム」も、外国人観光客との間で証明書を巡りトラブルが起きると主張している。         

アストラゼネカ製には希望も

夏の間は何も対応がなかった。連邦保健庁は8日、証明書の提示要件の詳細を発表外部リンク。その末尾で、欧州医薬品庁(EMA)によって承認されたワクチンを接種した人は、スイスのCOVID証明書を取得できるようになると説明した。正確に言えば、アストラゼネカのワクチンを受けた人々は、中期的には証明書を得られるようになりそうだ。だがいつになるかは現時点で分からない。14日まで連邦案に対する州政府の意見聴取が行われている。

一方、中国またはロシア製ワクチンを接種した人は今後、スイスではワクチンを接種していない人と同じように扱われ、不利益を被ることになる。保健庁は「スイスの証明書の取得対象を全てのWHO承認ワクチンに広げるべきではない」と明記した。

ASOのアリアンヌ・ルスティシェリ事務局長は、「良い方向に向かっているか、我々は主張を続ける」と話す。これまでのところ、連邦内閣はまだASOの要求に回答していない。

一方、レストラン・観光業界では既に混乱が生じている。観光の専門家は、外国人観光客は13日以降、自分の部屋や別室で食事をとるか、食事の度に検査をしなければならないと指摘する。

ホテリエ・スイスのアンドレアス・ツェーリック会長は大衆紙ブリックに「スイスへの入国自体を止めてしまう観光客もいるだろう」との見方を示した。スイスにとって重要な中国や湾岸諸国、インドからの観光客が不便を被る可能性がある。

ユングフラウヨッホを訪れるインド人観光客 Keystone / Alessandro Della Bella

いずれも、政治的議論の的になりそうだ。ASOの理事を務めるローラン・ウェーリ下院議員(急進民主党)は、13日に始まった秋期国会でこの問題を取り扱おうとしている。同氏は連邦内閣が15日にワクチンリストを更新するのを待ち、「議会動議などの手段を取る」ことを検討している。

EUに歩調を合わせる

一方、スイス観光協会の会長を務めるニコロ・パガニーニ下院議員(中央党)は様子見姿勢だ。swissinfo.chの取材に「動議の提出は多くの時間を浪費する」と語り、もっと速やかに解決しなければならないと強調した。

パガニーニ氏は、焦点はスイス・EUの関係にあると考える。スイスの証明書がEUでも通用することは、スイスやスイスの観光業界にとって重要だ。「それを危険にさらすわけにはいかない」。EUが承認していないワクチンをスイスが認めることに否定的なのもそのためだ。パガニーニ氏は「それでも、改善が必要だ」と話し、同協会は対応策を練っているという。

(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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