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国連人権理事会は必須?それとも根本的に欠陥あり?

国連人権理事会
国連人権理事会は年に3回、ジュネーブ(新型コロナウイルス流行時はオンライン開催)で開かれる。理事国は47カ国。立候補後、国連総会で選ばれる Keystone / Salvatore Di Nolfi

国連人権理事会が13日まで、ジュネーブで開かれている。同理事会は米中対立に巻き込まれる一方で、途上国からはたびたび不当な人権侵害の標的になっていると批判される。理事会の機能や実績、現在行われている改革の訴えにスポットを当てた。

人権理事会の活動は、世界の地政学的な緊張を反映する傾向がある。

同理事会は6月21日に開会。そのわずか1日後、新疆ウイグル自治区のイスラム教徒少数民族に対する中国の人権侵害に「重大な懸念」を表明する、という声明を米国が支持した。声明はカナダ主導で、ほかに40カ国超が加わっている。声明では中国に「独立したオブザーバーへの即時かつ意味のある自由なアクセスを、新疆ウイルグル地区に認める」よう求めた。

米国はさらに「民主的な統治形態だけが、長期的な平和と安全に寄与する環境を提供できる」が、一部の国は「民主主義の基本的な柱」に挑んでいる、という声明も支持した。

独立系人権シンクタンク、ユニバーサル・ライツ・グループ外部リンクの創設者兼ディレクター、マーク・リモン氏は、ジョー・バイデン米政権誕生後、米国が理事会に復帰し「大国外交への回帰」が見られると指摘。同理事会の冒頭の動向にこの兆候が「集約されている」と話す。

中国と親中派の国々は、この声明による攻撃に対し、国家主権は尊重されるべきであり、民主主義は地域の状況に応じて行われるべきだとの声明を出した。リモン氏は「中国が提唱する『管理された民主主義』は、アフリカやアジアの一部の指導者には非常に人気がある」と言い、その理由を「彼らの下に権力がずっととどまることを意味するからだ」と説明する。同氏によれば、現在の世界のあつれきは資本主義対共産主義ではなく「民主主義対独裁主義」であり、それが人権理事会に反映されている。

ミシュリン・カルミ・レ元スイス外相は2005年9月、すでに信用を失っていた政治色の強い国連人権委員会(1946年設立)の代替組織として、人権理事会の構想を発表。国連は同月、この構想を正式に受け入れた。

第1回会合は06年6月、ジュネーブの国連本部で開催。国連人権理事会は国連総会の下部機関。

国連人権理事会は、国連総会の絶対過半数によって選出された47の理事国で構成。理事国は地域ブロックごとに選出される(アフリカ諸国13、アジア太平洋諸国13、中南米・カリブ諸国8、西欧諸国等7、東欧諸国6)。現在の議長はフィジーのナザ・シャミーム・カーン氏。

人権の状況が比較的良好な小国の立候補を奨励するなど、競争を増やすことを求める動きもある。

人権理事会は少なくとも年3回開催される。危機的状況を議論する特別会合を開くことも可能。人権理事会は、シリア、北朝鮮、ミャンマー、南スーダンの情勢や、障害者、LGBTの権利などの分野別に、独立した調査官や報告者を任命している。決議に法的拘束力はないが、道徳的な権限を持つ。

シリアやミャンマー、スリランカの人権問題を国際刑事裁判所に付託するなど、人権理事会が国連に厳しい対応を取るよう求めた場合は、最終的には常任理事国の米国、ロシア、中国、フランス、英国が拒否権を持つ国連安全保障理事会で採決される。

欧米対その他の世界

中国の反発は、特にアフリカの発展途上国が、人権理事会の「名指しで恥をかかせる」政策が選択的・政治的で、不公平に自分たちが標的にされていると考えていることが背景にある。途上国の中には、人権侵害を指摘されても仕方ないと考える国も少なくないが、リモン氏は、途上国の主張にも一定の意味があると話す。

リモン氏のシンクタンクの年次報告書外部リンクに掲載された地図を見ると「イスラエル・パレスチナとアフリカに焦点を当てることが圧倒的に多い」ことが分かる。中国や米国などへの決議は皆無だ。新疆ウイグル自治区に関する声明は出たものの、リモン氏は中国が「あまりにも強力」で、あまりにも多くの同盟国を持つため、今理事会で中国への決議が出る可能性は低いとみる。

イスラエルの問題もしかりだ。ドナルド・トランプ元米大統領は、人権理事会を反イスラエルだと非難した。トランプ氏の主張はある程度的を射ているかもしれない。というのも、人権理事会の「議題7」は、イスラエルとパレスチナにのみ焦点を当てているからだ。つまり他の国とは異なり、イスラエルは毎回理事会で取り上げられ、そこでは特にイスラム諸国が一丸となってイスラエルを攻撃している。その結果、イスラエルにはパレスチナでの人権侵害を理由に、70以上の決議が出された。リモン氏はこれを不公平だと言うが、イスラエルは占領国であるため、別の枠で扱うべきだという意見もある。

改革の必要性

3年前に脱退を発表したトランプ前米政権は、人権理事会を「反イスラエル」「偽善的」「政治的偏向の巣窟」と呼んだ。トランプ氏は、米国の3年間の理事国任期途中で脱退し、資金援助を打ち切った。現在は、バイデン政権の下でオブザーバー復帰したが、改革を依然として求めている。オブザーバーは、議事には参加できるが投票権はない。

トランプ政権時のニッキー・ヘイリー元国連大使は、人権理事会を「人権侵害者の保護者」と批判した。過激な発言と思われるかもしれないが、現在の理事会メンバーは実際、中国、ロシア、キューバ、ベネズエラ、エリトリアなど、人権問題では良い印象を持たれていない国が入っている。

理事会で重大な人権侵害者への懸念が指摘されるのは、何も新しい話ではない。人権理事会の前身である国連人権委員会は第二次世界大戦後に設立され、1948年の世界人権宣言を支持することを任務としていた。しかし、人権侵害者が人権委員会に影響を及ぼしているとの懸念が生まれ、スイス主導での改革につながり、2006年に現在の人権理事会が誕生した。理事国の監督、選出はより厳しくなるとされた。

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バイデン政権は国連人権理事会にどう取り組むべきか?

このコンテンツが公開されたのは、 国連人権理事会(本部ジュネーブ)に復帰するとの米政府の決定は、ジョー・バイデン米大統領が公約する人権の多国間支援への大きな1歩だ。しかし、肝心の詳細はこれからだと国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのケネス・ロス代表は指摘する。

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その成果は

国連人権理事会は、協議の場としてだけでなく、行動を起こす場としても機能するよう設計されている。国際ジャーナリスト連盟のジェレミー・ディア副事務局長は以前、swissinfo.chとのインタビューで「侵害に責任があるとされる国と、彼らに影響力を持つ可能性のある他の国の両方が同じ国連ビルに同時に集まる。それは、すぐに解決策を得るのではなく、解決に向けたプロセスを開始するまたとないチャンスだ」と語った。

もちろん、新型コロナウイルスの感染流行の影響で、理事会のセッションがオンライン化し、対面での協議がほぼできなくなってしまったことは事実だ。国際都市ジュネーブや世界中にあるほかの組織と同様、いつ「通常」に戻るのかはまだ分からない。現在のセッションは「ハイブリッド」、つまりオンラインと対面を組み合わせている

賛否両論はあるが、人権理事会は世界中の人権侵害について、貴重な報告書を多数作ってきた。国内・国際的な司法機能が存在しない中で、人権理事会はシリア、ミャンマー、また最近ではスリランカにおいて、ジェノサイド(大量虐殺)、戦争犯罪、人道に対する罪に関し、法廷での利用を視野に入れた証拠収集の仕組みを構築した。人権NGOからはたびたび批判的な意見が上がるが、人権理事会は隠れた人権侵害を掘り起こし、世界に知らしめている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのケネス・ロス事務局長はswissinfo.chのインタビューで「人権理事会の丹念な調査が即時の変化をもたらすことは全く、あるいはほぼないかもしれない。だがそれによって誰も知らなかった、ということがなくなる」と語る。「違反の証拠は保存される。シリアに関する理事会の調査委員会の場合では、戦争犯罪の訴追につながる可能性もある」と語っている。人権理事会は欠陥付きだが不可欠な組織であることは間違いない。しかし、改革を求める声や内部の政治的な動きが続く間は、改善の余地が残る。

(英語からの翻訳・宇田薫)

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