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「再稼動反対」と「福島を返せ」を訴え続けた5年

飯館村の除染された表土などの仮置き場 zVg

福島第一原発事故から5年。この節目の年の3月9日、スイス・ブルックで映画祭「半減期」外部リンクが開催された。上演後に講演した人見やよいさん(54)は、福島県郡山市在住。福島の現状をさまざまな形で訴えながら、反原発の活動行ってきた。福島は山あり海あり、冬には白鳥も飛んでくる美しいところ。この「福島を返せ」と「再稼動反対」の二つは、この5年間一番口にしてきた言葉だったと語った。

 5年間福島で何が起こり、これから何が起ころうとしているのかを、スライドを見せながら淡々と語り始めた人見さん。だが、子どもたちの被爆の現状を語るところなどでは、涙を拭きながらの講演になった。

 そんな人見さんが最後に、「今日は、高浜原発の3、4号機の運転停止(の仮処分決定)があった日。動いている原発を止めろという判決は日本では初めて。こんなうれしい日に皆さんにお会いできて、本当にうれしいです」と、顔を上げ初めて笑顔を見せた。会場からは拍手が沸いた。

 人見さんは、「原発いらない福島の女たち」、「フクシマ・アクション・プロジェクト」、そして「福島原発告訴団」のメンバー。母親と愛犬と一緒に郡山で暮らす。

人見やよいさん。スイスの後、フランスでも講演をする zVg

swissinfo.ch : まず、人見さんが講演で使われた言葉「安全キャンペーン」について教えてください。

人見やよい: 原発事故後すぐに長崎大の山下俊一さんが福島県立医科大学副学長に就任し、年間100ミリシーベルトを浴びても人体に影響はない、笑っていれば健康だといった講演を飯舘村や二本松などで行ったことは有名です。さらにラジオ福島がそうした情報を流しました。これが「安全キャンペーン」です。こうしたことを信じた県外の避難者が、4月から新学期が始まるとこもあって福島に戻ってくるという悲しいできごともありました。

福島とチェルノブイリの違いは人口密度。福島の方は、線量の高かった福島市と郡山市を併せると63万人もの人口になる。この人たちをどうやって避難させるのか?できないと判断した国と県は「いかに逃がさないか」を考えたのだと思います。安全キャンペーンはそのための一つの手段です。

そして今は、その流れの中で、「除染が終了したので安全。故郷に戻るように」という「復興キャンペーン」に繋がっている。

結局、一つは、原発は安全なもの、こんな大事故が起こってもどうにかなっているということをアピールし、再稼動に繋げたい。もう一つは、県民を県内に押し留めて、「低線量被爆のモルモット」にしたいと考えたのだと思います。

実際、「福島県民健康調査」というものが県民200万人に配られて、福島県立医大に提出するように言われました。でも私は、彼らの調査のためのモルモットになるという嫌悪感から提出しなかった。3、4割の人が出さなかったと思います。

子どもたちがつけているガラスバッジというのも、子どもや親は浴びている線量を知ることができないし、高くなったからといってアラームが鳴るわけでもない。ただ測定計をつけさせられているだけ。福島県立医大はデータが欲しいだけなのです。

swissinfo.ch : 除染ですが、今どういった状況ですか?

人見:  郡山市では、庭のある人は汚染表土を剥いでフレコンバッグに入れ、縦横高さ1.5メートルの穴を掘りそこに埋めるように指示が出ていてます。我が家はそうしています。コンクリートの筒状のものに汚染物を入れ、それをベランダに置く人もいます。でもその位置が、隣人宅の寝室のすぐ後ろにあたるかもしれない…。

行政は28年度に県内全部除染完了と言っていますが、それは無理だと思います。そして、帰還困難区域は国が、それ以外は県が担当しています。それも、除染は一度やったら「完了」になり、その後森からセシウムが再び降ってきて線量が高くなっても、「除染は今ある放射能を除くことだ。森から何度か降ってくることがあっても、それは管轄外」という扱いです。

それに、事故前の基準の「年間1ミリシーベルト」より高いのに、帰還させられたり、そのまま住まわせられたりするのは、納得がいかないです。

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フクシマ、その後

このコンテンツが公開されたのは、 スイス人写真家、ドミニック・ナール(Dominic Nahr)さんは東日本大震災と福島第一原発事故の現実を「現場」に近く、彼の対象に対する距離感で撮影する。風の音や波の音、人の泣き声などが聞こえるような気がする。スイスインフォは、ナールさんが5年の間に撮影したさまざまな「現場」をギャラリーにした。

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swissinfo.ch : 健康被害も、一番大きな問題だと講演で言われました。

人見:  100万人に1人といわれる小児甲状腺がんが、福島では18歳以下の子どもたち約38万人の中に、疑いもふくめて167人確認されています。驚くような数です。それでも、はっきりとした事故との因果関係は認められていない。

例えば若い人が心筋梗塞で急に亡くなるなどの「震災関連死」も1900人を超えています。

swissinfo.ch: そんな健康被害や行政のやり方などを知り尽くしている、人見さん。なぜ郡山から逃げないのですか?

人見: 子どもがいたら、逃げていたと思います。子どもは県外に逃げて欲しいとずっと思っています。

でも子どもがいず、10基もの原発を許してきて、それとともに大きくなった私には、郡山に留まって声を上げていく責任があるのではないか?そうすることで役に立つのではないか?と思うからです。

swissinfo.ch:  「福島原発告訴団」のメンバーですが、メンバーになった動機や今の現状を教えてください。

人見:  河合弘之弁護士が、「福島原発告訴団」の説明に福島に来られたときとき、「誰も事故の責任を取らない中で東京電力の幹部が起訴されれば、原発再稼動反対に繋がる」と言われました。

裁判とか、それまで縁のなかった私ですが、そんなことを言っていられないと思いメンバーになりました。

実は紆余曲折を経てこの2月29日、東京電力の勝俣恒久元会長や元幹部3人が東京地裁に強制起訴されました。事故当時の、双葉病院の入院患者44人(死亡)や消火作業を行った自衛官ら13人(負傷)に対する「業務上過失致死傷の罪」です。津波に対し、対策を怠っていたからこの方たちが亡くなったという責任が問われる。

もし判決が出たらこれはすごいことになると思います。

現在、原子力規制委員会は、安全の規則にのっとって調べているだけだと言い、政府は原子力規制委員会がOKを出したから再稼動できると言って責任逃れをし、最終的には電力会社が決定するという流れになっている。そこで、この裁判で事故責任が電力会社にあるということが明らかにされると、電力会社は再稼動にそう簡単に踏み切れなくなるからです。

でも刑事裁判なので恐らく10年はかかるのではないかと思っています。仲間と10年しっかり生きて裁判を見つめていこうと誓い合っています。

swissinfo.ch: 活動を続けながらこの5年で考えたこと、これからやっていきたいこと、ないしは、他の人たちにやって欲しいと思うことは何でしょう。

人見: そもそも、この国は地震大国なのに54基もの「無差別破壊兵器」を作ったということをもう一度、皆さんに認識して欲しいです。また福島に原発を建てたことは、(沖縄の基地も含め)過疎への押し付けであり、過疎への差別だったということも。

そのうえで、原発事故は、日本が変わっていくための「チャンス」かもしれないし、チャンスにしていかないと何の罪もない福島の子どもたちに申し訳が立たないと思っています。

霞ヶ関に出かけたり、議員さんとかけあったりなどは無縁と思っていたこの私が、今それを普通にやっている。自分の問題は、自分で考え調べ、ノーを発信していくことがとても大切。そして、自分の(電気消費も含め)ライフスタイルを変えていく。今のままではうまく行かないと思うからです。

そして、欧州の反原発日本人ネットワーク「よそ者ネットワーク」やスイスの「スイスアジサイの会」外部リンクの方々、反原発に真剣に取り組んでいるスイスの方々には、民主主義がうまく機能しない日本に対し、「どうか圧力をかけてください」とお願いしたいです。

スイスで映画祭「半減期」外部リンク

チューリヒ州と市、グリーンピース、ag-filmなどが主催する映画祭。2012年から毎年開催されているが、今年は福島第一原発事故から5年、チェルノブイリ事故から30年の節目の年であるため、大型企画になった。スイスで反原発を訴える「スイスアジサイの会」も、2012年から積極的に協力している。

3月9日、スイス・ブルック、映画「首相官邸の前で」

3月10日、チューリヒ、映画「首相官邸の前で」、「Radioaktive Wölf」

3月11日、チューリヒ、「Radioaktive Wölf」、「Hinter dem Ural」ほか

3月13日、バーゼル、「Atom&Animation」、「Die Kinder von Fukushima」ほか  

3月14日、ベルン、「Atom&Animation」、ほか

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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