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航空機の新規購入と雇用の拡大へ

新しい9機の航空機にもうすぐSWISSのマークが付けられる Keystone

航空業界の緩やかな回復の兆しが見える中、「スイスインターナショナルエアラインズ ( Swiss International Air Lines / SWISS ) 」が、10億フラン ( 約857億円 ) を投入して旅客機9機の購入に乗り出した。

2012年から始まる航空機の新規導入は、スイスに2000人分の雇用を創出し、その3分の1はスイス国内での直接雇用になる。SWISSは2002年の設立後から間もなくして縮小を余儀なくされたが、現在は成長に向かっている。

一人勝ち

 世界経済の回復により、2010年のスイスの航空業界は、業界全体では当初の予想よりも高い利益が見込まれている。先週、航空業界の規制機関「国際航空運送協会 ( The International Air Transport Association/IATA ) 」は、航空業界全体の年間利益の予想を3倍の89億ドル ( 約7500億円 ) に訂正した。

 しかし来年に世界経済が失速した場合、この利益の大半が消滅することが予想される。また、利益の大半を生み出すのはアジアの航空会社で、ヨーロッパの航空会社は全体的に損失を計上すると予想されている。

 一方SWISSは、アイスランドの火山噴火による飛行停止で3000万フラン ( 約25億8970万円 ) の損失を被ったにもかかわらず、今年上半期の6カ月間で600万フラン ( 約5億1400万円 ) の利益を計上し、ヨーロッパの不調傾向を振り切った。

需要拡大

 「チューリヒ州立銀行 ( Zurich Cantonal Bank ) 」の航空業界アナリスト、ミヒャエル・ヴィンクラー氏は、SWISSの業績の好調は長期的にも持続する可能性があると考える。
 「航空業界には非常に周期的な波がありますが、景気が良いときは非常に大きな利益が見込まれる市場です。長期的には年間約5%の成長があるはずです」

 かつて国を代表する航空会社だった「スイス航空 ( Swissair ) 」を引き継いだSWISSは、2005年に「ルフトハンザドイツ航空 ( Deutsche Lufthansa AG ) 」に買収された。その結果、SWISSは以前には得られなかった安定を享受している。大手航空会社の後ろ盾を得ることは、メンテナンスや燃料などのコストの削減を伴ったが、それによってSWISSは成功への階段を与えられたと見る向きは多い。

 新規導入の結果、SWISSの保有する航空機は合計で90機になる。新しい航空機の購入は、フライトの需要が将来継続的に高まる見込みがあるためだとSWISSは説明する。
 「SWISSは常に市場の状況に順応するよう努力しています。ビジネス界と一般人の需要が成長しつつあります。SWISSは将来の需要に応えるよう着実に供給を拡大しています」
 とSWISSの広報担当者は語った。

前方には乱気流

 ヴィンクラー氏は、大型旅客機9機の導入戦略はSWISSにとって正しい選択だと言う。飛行目的地はまだ決まっていないが、最低2機の導入は確定している。
「SWISSはビジネスの旅行者を対象にしており、一般的にそれらの旅行者は目的地へ直通の旅を求めています。従って、経済が回復するときにフライトを増やすのは自然な戦略です」

 さらにヴィンクラー氏は、
「特にアジアへの長距離フライトが回復しつつあり、数年前よりもずっと利益が上がっています」
 と付け加えた。

 しかしSWISSの成長過程には乱気流が待ち受けている。長い間スイス人パイロットは、ルフトハンザ航空のパイロットより低い給与に憤慨し、給与水準と労働条件についての新しい協約を来年実施するよう労働組合を交えて交渉を進めている。

コストの問題

 航空業界の専門家ゼップ・モーザー氏は、航空業界は最悪の嵐にさらされたが、現在SWISSの経営はうまくいっていると考えている。

 しかしモーザー氏は、経営コストの上昇が始まった場合、親会社のルフトハンザ航空にとって長期的にはSWISSを傘下に抱えておく利点が減少する可能性があると憂慮している。

 「SWISSの運営は、ルフトハンザ・グループに利益をもたらすものであることが期待されています。運営コストが安く済むという優位性がある限りにおいて、SWISSの存在が許されるのです。給与が高くなりすぎた場合、こうしたビジネスの形態が成り立たなくなります」

 また、SWISSの本拠地であるチューリヒ空港の周辺にも問題がある。長年続いている南ドイツの夜間飛行規制、そして航空機が方向転換をする際に発生する雑音に対する住人からの苦情によって、チューリヒ空港の稼働率は損なわれている。

 今月初めに欧州裁判所は、ドイツの飛行規制撤廃に関するSWISSの上訴を棄却した。

 モーザー氏は、待ち望まれていたフランクフルト空港とミュンヘン空港の滑走路が完成して以来特に、ハブ空港 ( 航空ネットワークの中心になる空港 ) としてのチューリヒ空港の生存能力に疑念を感じていた。一方ヴィンクラー氏は、ルフトハンザが複数のハブ空港を運営する戦略をそう簡単にあきらめるとは考えていない。

  さらに、ヴィンクラー氏は、航空機の新規導入は、燃費の効率化とメインテナンスコストの低下をもたらすため、長期的には節約になると信じている。

破綻した「スイス航空 ( Swissair ) 」をそのグループ航空会社「クロスエアー ( Crossair ) 」が2002年に継承して誕生した。

2005年までに従業員の解雇と航空機の削減 ( 合計74機へ削減 ) を余儀なくされ、苦境にあったが、2005年に「ルフトハンザドイツ航空 ( Deutsche Lufthansa AG ) 」によって買収された。

しかしSWISSは、今年年初に発生したアイスランドの火山噴火による飛行停止にもかかわらず、今年上半期に6100万フラン ( 約52億2500万円 ) の利益を計上し、堅実な地盤を築いたと見なされている。また、今年は、昨年度2009年の年間利益1億4600万フラン ( 約125億1000万円 ) を達成することを目標にしている。

2010年の上半期に、2009年を2%上回る664万人の利用者があった。座席利用率は4.2%上昇して80.1%になった。

SWISSは現在79機の航空機を所有しているが、今年年末までにさらに2機が導入される。

2012年からは、5機のエアバス330-300s、2機のエアバス221s、2機のエアバス320sが導入される。

( 英語からの翻訳 笠原浩美 )

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