スイスの視点を10言語で

ダボス会議 現状改善に焦点を合わせる

スイス軍がヘリコプターの離着陸場に鉄条網を張り巡らす。これもダボス会議の安全対策の一環 Keystone

世界経済フォーラム ( WEF ) の第41回年次総会 ( ダボス会議 ) が1月26日から30日までの間ダボスで開催される。今回は、経済成長の拡大を狙う国々と経済問題の解決に努める国々との間に広がる大きな分断が背景としてある。

一段と速いスピードで変化していく環境の中、世界経済フォーラムはリスクとその解決法を事前に特定する先行型アプローチを採っている。今回のテーマは「新しい現実にむけた規範の共有」だ。

この新しい現実は何か

 新興国の継続的な急成長は、債務返済のため緊縮財政にあえぐ西欧諸国と対照的だ。この結果、経済面、そしておそらく政治面における各国の役割分担が再編成されつつある。また、世界諸国の通貨の流動性が高まり、経済、政治、社会面におけるそれぞれの目標達成を目指す国々に緊張が生じた。

 「世界は今までこのように多数の複雑な問題に一度に直面したことはない。わたしたちは新しい現実の中に生きている。従って知りたいのは『この新しい現実は何か』だ」

 と世界経済フォーラムの ( World Economic Forum / WEF ) 創設者クラウス・シュワブ会長は語った。

豪華な首脳陣

 ローザンヌのIMDビジネススクール ( IMD Business School ) で戦略・総括経営を教えるトム・マルナイト教授も、風向きが変わってきたと確信する。

 「変化の起きるペースが年々速くなり、以前よりも非常に大きな変化が現在起きている。これは金融危機よりもっと根本的なものだ」

 現在世界は矛盾した多数の圧力の集中攻撃を受けている。こうした問題について協議するために、今年もまたスイスの山岳リゾート地ダボスに政界、経済界、市民社会の有力者ら約2500人が世界中から集まる。

 イギリスのデヴィッド・キャメロン首相、南アフリカのジェイコブ・ズマ大統領、ドイツのアンゲラ・メルケル首相、フランスのニコラ・サルコジ大統領など政府首脳陣の顔ぶれは豪華だ。

 ロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領は、開会スピーチを行う予定になっていた。24日にモスクワ郊外で起きたドモジェドボ国際空港爆破テロ事件の後、ダボス入りが一時未定となったが、結局予定通り開会スピーチに臨む。一方日本の管直人首相は29日に出席する予定。

 これらの政治家は、経済界、金融界、産業界、美術界、宗教界、科学界の第一人者、NGO、圧力団体の代表やメディアと一堂に会する。

言うは易し、行うは難し

 「すべての問題は、これらの要人が一つのテーブルを囲んで話し合うことによってしか解決されない」

 と2010年に辞任するまでWEFの最高責任者を12年間勤めていたアンドレ・シュナイダー氏は言い切る。

 また

 「 ( 各国のトップレベルの要人が ) 毎回ダボスで会うことは一つの進歩だ。毎年期待されているほど迅速に事が進むわけではないが、前進はしている。これは、ダボス会議では最終的な決断を下さねばならないというプレッシャーがないためオープンに話し合うことができるためだ」

 と説明した。

 WEFは、変化をもたらしたという証拠を見出せなかったとして長年批判されてきた。批評家は、ダボス会議を「行動に移されることのない議論を行うだけの場」、あるいは「大物実業家が集まり取引をまとめる演壇」と冷笑してきた。

 2年前の金融危機の最中には、「参加者はカクテルパーティーや豪華なディナーを止め、腕まくりをして問題の解決法を生み出すべきだ」と批判された。

 今年シュワブ会長は、WEFを世界的な政策決定のテーブルに押し出そうと全力を傾けている。そのために、世界的な政策の作成に重要な役割を果たす影響力の大きな国々・地域のグループG20 の注意を引きつけることを狙っている。

 「G20の政策の作成過程において、多大な貢献を果たしたい」

 とシュワブ会長は語る。そして異分野の利害関係者を一堂に集めたWEFのスタイルを、世界の最有力政治家が集まる場で部分的にでも採用すべきだと付け加えた。

ダボス会議の発展

 シュワブ会長は、これらの考えをG20の議長を務めるフランスのサルコジ大統領に持ちかけるためにダボス会議を利用すると語る。

 またWEFは、昨年12月に「世界的なリスク対応網」を導入した。これは企業のリスク担当者と政府の政策当局者をまとめ、手遅れになる前に世界の安定を脅かす緊急の危険を発見し、緊急対策を提供する多様な分野の専門家600人から構成されているシステムだ。

 前述の問題のほかにWEFは、年報「グローバル・リスクレポート」で水やそのほかの資源の不足、サイバー・セキュリティー、人口増加、原子力兵器、生物兵器などの問題を社会に対する重要な脅威として取り上げている。

 「わたしがWEFに参加した1998年11月には、職員はわずか90人弱、そして年収は5000万フラン ( 約43億5000万円 ) しかなかった」

 とシュナイダー氏は語る。

 さらに

 「現在の職員数は400人以上。アメリカ、中国、日本にも事務所がある。年収はおよそ4倍になった。この12年の間、ダボス会議はその性格を変えてきた。初期のうちは年次総会で完結するような会議だったが、その後年次総会で生まれるイニシアチブやアイデアを発展させていけるような会議になっていった」

 とWEFの歴史を振り返った。

1971年に「ヨーロッパ経営フォーラム ( European Management Forum ) 」として発足。

ヨーロッパとアメリカの経済・産業界の指導者をつなぎ、問題解決と関係強化を目的としてドイツ生まれのスイス人大学教授クラウス・シュワブ氏が創設。

ジュネーブに本部を置く非営利組織で、会員 が納める年会費によって運営されている。

より良い世界情勢の実現を目的とし、世界の経済、および社会問題について論議する国際会議。毎年年初にダボスで年次総会 ( ダボス会議 ) を主催し、世界の経済に関連するさまざまな研究を行う。世界全体に関するレポートや国別のレポートなど詳細な報告書を発行するほか、会員のための特別調査も行う。最重要とされるダボス会議のほかにも、多数の年次総会を開催している。

現在の名称に変更されたのは1987年。活動の幅を広げ国際紛争の解決法を探るための場を提供。トルコとギリシャ、北朝鮮と韓国、旧東西ドイツ、アパルトヘイト時代の南アフリカなどの世界紛争の解決に寄与したと主張している。近年は、結核の撲滅、貧困の撲滅、環境保護などのプロジェクトを行ってきた。

年次総会 ( ダボス会議 ) は毎年1月下旬にスイスのリゾート地ダボス市で開催されているが、2002年は前年に起きた9.11米同時多発テロを考慮し、ニューヨーク市をサポートする目的で例外的にニューヨークで開催した。

会議の参加者は、ネルソン・マンデラ元南ア大統領、ビル・クリントン元米大統領、トニー・ブレア元英首相、ロックグループ「U2」のボノ、ドイツのアンゲラ・メルケル現首相、ビル・ゲイツ、女優のシャロン・ストーンなど各国首脳、企業や経済組織の代表者、NGOの代表者、ジャーナリスト、経済界、政界、学会、芸能界の著名人。

1990年代に規模が拡大され知名度が上がるにつれ、エリート主義や参加者による内輪の利益のみを追求する閉ざされた集団といったグローバル化に反対する団体からの批判が高まった。

2011年のダボス会議は1月26日から30日まで開催される。90カ国から約2500人が参加予定。

( 英語からの翻訳 笠原浩美 )

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部