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明るい話題より懸念が多い、2014年ダボス会議

ダボス会議の参加者は経済成長の妨げを取り除こうとしている Keystone

2013年は株式市場が非常に好調で、経済成長についても明るい見通しが語られた。しかし、その余韻さめやらぬ中で開催される世界経済フォーラム年次総会では、景気回復を脅かす世界的大変動という厳しい状況が話し合われる見通しだ。

 スイス・アルプスの高原リゾート地ダボスで、22日から5日間にわたり、世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)が開催される。チャンスにもトラブルにもなりそうなそうなさまざまな根本的課題について話し合われる予定だ。

 株価の上昇は、急速に変わりつつある世界の様相のほんの一部を表しているにすぎない。

 米国のバラク・オバマ大統領は、昨年著しく改善した米国経済にとって、2014年が「飛躍の年」になると予測した。連邦準備銀行は、低金利による景気刺激策の縮小を発表した。

 世界銀行は、世界経済の成長率が昨年の2.4%から2014年には3.2%に上昇すると見ている。一方、国際通貨基金(IMF)は、2014年は3.7%、2015年は3.9%上昇すると予測する。

 スイスでも、輸出増によって成長率が2013年の1.9%から2.3%に増加するだろうと連邦経済省経済管轄局は予測している。

 「2010年以来初めて、世界経済の持続可能な回復の兆しが見えている」と話すのは、ジュリアス・ベア銀行の主任経済学者ヤンヴィレム・アッケット氏だ。「好転が最も顕著なのは先進国。中国という巨大経済は減速しているが、それでも相当な成長を続けている」

 しかし、こういった派手な数字の裏に潜む改革への熱意不足という問題は、景気回復の芽を摘んでしまいかねない。外の世界から隔絶された美しいスイス・アルプスに世界中から集まった政界、ビジネス界のエリートは、この問題に取り組まなければならない。

既得権益?

 ノーベル賞を受賞した経済学者ジョゼフ・E・スティグリッツ氏は、現在の経済の状況をWEFのための記事の中で「大きな低迷」と表現した。スティグリッツ氏は、一般市民の暮らしが悪くなっていて、その結果ブラジルなどの国々で社会不安が生じていることへの懸念を述べた。「このシステムでは、社会の大部分には利益が行き届かない。国レベルでも世界レベルでも、政治は明るい未来への見通しを生み出せる改革を導入できずにいる」

 WEFの創設者クラウス・シュワブ氏も、WEFウェブサイトに掲載した記事で「期待が下がる時代」(少ないものでやりくりしなければならなくなる時代)を予想し、悲観的な見方をしている。シュワブ氏は、貿易障壁や腐敗に立ち向かおうとする改革が「強力な既得権益に阻まれる」ことを懸念している。

 シュワブ氏はこれらの「既得権益」が具体的にどんなものか言及はしていない。だが、おそらく首脳、閣僚、ビジネスや金融界のリーダーなど、今年ダボスに集まる予定の強力な人々の一部が握っていると考えられている。

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オムレツ

 もう一つの懸念事項は、欧州、米国、中国、日本の経済が政府や中央銀行の低金利政策によって人工的にかさ上げされていることだ。多くの場合、これほど低い金利は持続不可能だ。

 巨額の公的債務と高い失業率は、「欧州を覆う二つの大きな影」だとアッケット氏は話す。また、政府は「怠惰になり」、支出を削減し雇用市場を刺激する改革の導入が進んでいないとも言う。

 「欧州では、皆オムレツは食べたいが、卵を割るのは面倒だという状況」と苦言を呈する。困難な改革は短期的には痛みをもたらすかもしれないが、その後には利益が得られる。

 昨年のダボス会議では、金融機関への規制が断片的で局所的だという不満が渦巻き、規制当局、金融関係者、経済学者が、さまざまなルールによって問題が解決するよりむしろ混乱が生じたと揃って不満を述べた。

 それから1年。各国では銀行発の不況の再発防止を目的とするさまざまな方策が導入される状態が続き、同じ議論が再燃する可能性がある。

 その一方で、日中の外交的緊張関係がある。いつ爆発して世界経済の回復を揺るがすか分からない地政学的な問題地域の一つだ。

紛争への警戒

 オーストラリア、シンガポール、クウェートに駐在した経験を持つ元スイス大使ダニエル・ヴォーカー氏は、2014年のアジア太平洋地域と1914年の欧州には共通点があると考えている。

 ヴォーカー氏は、現代の中国をプロイセンが支配していた100年前のドイツになぞらえ、こうした国の興隆が既存の世界秩序を揺るがす様子が似ているとする。また、この地域における北朝鮮のような予測不可能な国、「ワイルド・カード」の存在が、火薬のたるに火花が散る可能性をさらに上げていると言う。

 

 「世界中どの国も紛争など望んでいないが、1914年もそれは同じだった。紛争は合理的な始まり方をするとは限らない。小さく始まって、悪化して手が付けられなくなることもある」

 また、中東や北アフリカでは紛争は基本的には地域内に収まってきたが、アジア太平洋地域は世界経済にとって途方もない重要性を持つようになっているため、問題が地域を超えて広がる危険はずっと高いとヴォーカー氏は付け加えた。

世界経済フォーラム(WEF)の第44回年次総合、ダボス会議のテーマは、「世界の再形成—社会、政治、ビジネスにとっての影響」だ。

1月22日から25日まで、2500人の参加者が政治、ビジネス、金融、市民社会、宗教、文化、科学の各分野のリーダーの話に耳を傾ける。

首脳としては、日本の安倍晋三首相、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相、イランのハサン・ロハニ大統領、英国のデーヴィッド・キャメロン首相、オーストラリアのトニー・アボット首相、韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領など約50人が出席する予定。

WEFは1971年にクラウス・シュワブ氏がダボスで初めて開催。当初は「欧州マネジメント・シンポジウム(European Management Symposium)」という名称だった。

これは、欧州と米国のビジネス界のリーダーをつなぎ、関係を強め問題解決の方法を探ることを目的にしていた。

その後、国際紛争の解決策を探る基盤の提供へとシンポジウムの内容を拡大し、1987年に今の名称となった。

ジュネーブに本部を置く非営利組織であり、一律ではない会費によって運営されている。

1月15日に行われた記者会見によると、例年ダボス会議に参加しているドイツのアンゲラ・メルケル首相が今年は出席しない。メルケル首相は今年、スイスでスキー中に転倒し、骨盤を骨折した。

また、ロシアのエネルギー業界の大物で、最近釈放された「政治犯」であり、現在スイスに滞在しているミハイル・ホドルコフスキー氏も出席しない。クラウス・シュワブ氏によると、ホドルコフスキー氏の「将来」がはっきりすれば、来年は招待されるかもしれないとのことだ。

WEFは、いわゆる「官民連携」の方向へとわずかに方針転換をしていることを認めた。そのためには規則を一部変更する必要があるかもしれない。WEFが非営利組織であることには変わりないが、新戦略についてそれ以上のことは発表されなかった。

会見では、大勢の富裕層がやってくることを「利用して」値段を吊り上げていると批判されたホテルやレストランも少数だがあった。参加者から苦情が出ており、サービスの改善が求められた。

(英語からの翻訳 西田英恵)

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