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スイス当局、ICOの指針策定 トークンを3分類

輝くビットコイン
スイスは仮想通貨を使った資金調達「イニシャル・コイン・オファリング(ICO)」が世界で最も活発な国の一つだ Keystone

スイス金融当局は仮想通貨による資金調達「イニシャル・コイン・オファリング(ICO)」に関する指針を策定した。発行されるトークンの機能に注目して3分類し、資金洗浄防止(マネーロンダリング)や証券取引法の規制対象になるかを分けた。

 連邦金融市場監査局(FINMA)が先月16日にホームページで指針を公表外部リンクした。指針は、ICOにどのような既存の金融規制が適用されるかを解説。ICOの申請にはどのような情報をFINMAに提供する必要があるか、FINMAがどのような原則に基づいてこれらの申請を処理するかを定義した。

 FINMAは「市場が活発化しICOのニーズが増えている今、これらのルールを明確にすることは大切だ」と強調した。ビットコインをはじめとする仮想通貨の隆盛とともに、ICOの案件も増えている。FINMAにICOがどのような法規制に抵触するかといった問い合わせが殺到したため、指針をまとめることになった。

 FINMAは「金融規制は全てのICOを許容するわけではない」とする。「ICOがどのように設計されているかによるが、必ずしも規制の定める要件を前提にしていない。個別の案件をケース・バイ・ケースで検討することになる」

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トークンを3分類

 ICOでは資金調達する企業・団体がトークンと呼ばれる独自の仮想通貨を発行し、投資家がそのトークンをビットコインなどの仮想通貨で購入する。トークンの発行主は獲得した仮想通貨を法定通貨に交換して資金を調達する仕組みだ。

 指針はICOをトークンの持つ機能により分類し、反資金洗浄法および証券取引法との関連を明記した。

▼トークンの機能

 指針はトークンを3分類した。ICOの組成当初から取引や譲渡ができるかどうかがポイントだ。

  1. 支払い型トークン:純粋な仮想通貨と交換され、その他の機能やプロジェクトとは結びついていない。場合によっては、トークンは一定期間後に始めて支払い手段としての機能を得る
  2. 効用型トークン:他の電子利用・サービスへの橋渡しの役割を持つ
  3. 資産型トークン:不動産持分や会社、配当金や利払い収入またはその請求権などの資産価値を表す。トークンは株式や債券、デリバティブのような経済的機能に関して評価される

▼反資金洗浄法と証券取引法

 スイスの資金洗浄防止法は、資金洗浄やテロ資金に関わらないよう、経済的な所有者の明確化など金融機関に対する義務を規定する。匿名で送金できるブロックチェーンでは、資金洗浄リスクが特に高い。またスイスの証券取引法は、市場参加者が信頼できる情報に基づいて株や債券を取引できるようにする。取引の公正さや信頼性、効率性を保証する狙いもある。

 これらの観点から、FINMAは発行されるトークンにより、ICOも同様に次の3種類に分類する。

  1. 支払い型ICO:FINMAはトークンが支払い機能を持ち既に交換可能なICOを、資金洗浄防止法の規制対象であるとみなす。一方、有価証券としては扱わない
  2. 効用型ICO:効用型トークンが他の電子利用・サービスへの橋渡しとしてのみ機能し、発行する時点でこうした利用ができる場合は、このトークンは有価証券とはみなさない。投資として経済的な機能を持つ場合は、他の機能を併せ持つ場合も含め、FINMAは全てのトークンを有価証券とみなす
  3. 資産型ICO:FINMAは資産型トークンが取引の観点から金融市場に相応の影響をもたらすものとみなす。この観点から目論見書の提出など、適切な義務に従うこととなる
発行するトークンの種類資金洗浄防止法の対象有価証券としての取り扱い
支払い型×
効用型×△(潜在的に支払い機能があれば対象に)
資産型×

 ICOは複数の類型が混合するICOもありうる。例えば効用型トークンが支払い手段として広く利用されている、または利用されうる状態にある場合は、資金洗浄防止法の規制対象となる可能性がある。各ICOがどの類型に当てはまるかは、「個別の案件をケース・バイ・ケースで検討する」という。

 FINMAは引き続き個別事例を監督し、ICOに関する金融関連法の解釈を随時公表する方針だ。ブロックチェーン技術に技術革新の潜在力があると明言し、政府のブロックチェーン・ICO作業部会にも参画する。同部会では新たな立法措置が必要かも含め今後の既成のありかたを議論している。FINMAは「スイスで同技術が廃れずに成功を収めるには、法律上の枠組みが明確になっていることが前提条件だ」とする。

 FINMAの最高経営責任者(CEO)マーク・ブランソン氏は「指針内容はバランスが取れている。投資家は、投資家や金融システムの健全性を守る法律に即した形で、ICO案件を組成することが可能になった」と胸を張った。

勇気ある行動

 国を挙げてフィンテック企業を呼び込んでいるスイスではICOも盛んだ。昨年はツーク州に本社を置くテゾス財団が、同年の世界最高額ICOとなる2億3200万ドル(約250億円)を調達し話題を呼んだ。だがこのICOに関しては、資金が還元されないとして米国で複数の集団訴訟が起こるなど問題も抱えている。

 独語圏の日刊紙NZZは、こうした問題にも関わらずFINMAがICOを禁止せず指針策定に踏み切ったことを「歓迎すべき決断だ」と評した。法学も判例も未熟な現時点で、世界に先行して指針を策定するのは「勇気ある行動」だという。中国や韓国はICOを禁止している。

 ロイター通信は「当局はICOをこれまで重視してこなかったが、スイスがICOで世界のリーダーになっている現実に直面し姿勢を明らかにした」と報じた外部リンク

 経済紙ハンデルス・ツァイトゥングは、指針は「まだ具体的ではない部分があり、問題になる」と解説外部リンク。効用型トークンに関しては、潜在的な支払い機能があるかどうかをFINMAが個別ケースごとに判断するため、ICOの申請者にとって明確な指針が不在の状況が続く。「指針により、法的な不透明性があることがよりはっきりした」とする専門家のコメントを引用した。

 スイスの2大仮想通貨取引業者の一つビティの共同創業者でCEOのアレクシス・ルーセル氏は、同社ブログ外部リンクで「FINMAは国際的な仮想通貨市場において世界標準を取り決めた。他の規制当局者が追随する枠組みとなるだろう」とコメント。「ルールが明確になり、FINMAが仮想通貨を新しい金融システムの一部だと認めたことに我々は感銘を覚える」と指針を歓迎した。「指針は当社のプラットフォームで安全上どの仮想通貨を取り扱うべきかがはっきりした」とも述べた。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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