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フィンテックでスイスの金融業界は生まれ変わるのか

世界初の仮想通貨銀行 透けて見えるスイスの意地

各種クレジットカードとビットコインが利用可能なことを示すショーウィンドウ
仮想通貨と旧来の金融業が融合する日が近づいている © Keystone / Christian Beutler

スイス金融当局から銀行業の許可を得て、世界初の仮想通貨銀行への一歩を踏み出したSygnum。仮想通貨と従来型金融の世界をつなぐ架け橋になる、と創業者たちは業界の盛り上がりに期待を寄せる。暗号資産分野で世界の主導権を握りたいスイスにとっても大きな節目となりそうだ。

Sygnum外部リンクSEBA外部リンクは26日、スイス金融市場監督局(FINMA)から暫定的に銀行・証券業の営業許可を得た。ともにいくつかの規制対応を済ませれば、正式な銀行としての営業を開始できる。

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スイス、仮想通貨企業に初の銀行業の許可

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの金融当局は26日、暗号資産の取り扱い企業SEBAとSygnumの 2社に初めて銀行業の許可を与えた。両社がホームページで発表した。

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「こうした営業許可が承認されたのは世界初。スイスは先導的な役割を果たしている」。Sygnumの創業者の1人、マヌエル・クリーガー外部リンク最高経営責任者(CEO)はスイスインフォの取材にこう胸を張った。先行者の動きが後発者の背中を押すことにもなるとみる。「我々は現在、銀行や他の金融機関がデジタル資産の世界に飛び込むのを応援するプラットフォームとしての責任を負っている」

共同創業者でシンガポール支社CEOのマティアス・イムバッハ外部リンク氏は「スイスや分散型台帳技術(DLT)の国際的な評価を上げる」と語った。DLTはブロックチェーンと並び、仮想通貨の根本を為す技術だ。

「当局の求める厳しい規制水準に則り、法に100%準拠してデジタル資産を取り扱うことで、仮想通貨にも日の光が当たるだろう。これまでの流れが一変する」

世界的な評価

スイスは、トークン(デジタル権利証)に置き換えられたデジタル資産やDLTの推進国の1つだ。これらの新技術を積極的に取り入れるため、金融法規制の改定作業が進んでいる。

フェイスブックが仮想通貨を手がける子会社リブラ・アソシエーションをジュネーブの地に置いたのもそのためだ。スイス証券取引所や国営通信事業社のスイスコムも仮想通貨への参入意欲を示していることも、新興企業が続々とスイスに生まれ育っている背景にある。

だがこれまで、暗号資産事業者はFINMAの信頼を勝ち取れずにいた。仮想通貨と主流の金融事業を安全かつ確実に一体化できると説得できなかった。

SygnumとSEBAは今回、規制当局の満足のいく水準に達することが可能だと証明した。Sygnumは、スイスの法定通貨フランに裏付けられた独自の決済トークンを発行した。同社の取引プラットフォームで売買できる。

あらゆる種類の金融資産をトークンに変え、完全に電子的に取引する利点は多岐にわたる。仲介者を経ずに売り主・買い主が直接取引できるようになり、より速く安い決済が可能になる。決済までに取引相手が破綻するリスクも減る。

批判的な声

「DLTには、金融インフラ全体をより安定・強固にする可能性がある」とクリーガー氏は話す。

だが広く実証されていない他の新技術と同じく、懐疑的な目を向ける人もいる。ビットコインなどの仮想通貨は犯罪やマネーロンダリング(資金洗浄)に使われるリスクがあるとして、取引を禁止する国もある。FINMAは2社が資金洗浄防止法を順守外部リンクすると判断して銀行業の許可を与えるに至った。

米国内ではリブラ発行計画によって金融システムが制御不能になるとして、フェイスブックに対する批判の声が高まっている。国際決済銀行(BIS)外部リンクなどの国際機関も仮想通貨に懸念を示す。

会計士や銀行員がお金の流れを追跡しなくてもよくなるという「魔法の」電子帳簿システムは、話がうますぎると案じる声もある。少なくとも世界中で日々高速決済が実行されるようになれば、その重みがシステムダウンを招くリスクがあると批判する。

だが懐疑的な声が強まろうと、ゲームを有利に進めようとするスイスの戦略は揺るがない。イムバッハ氏の言葉を借りれば、むしろ国際的なライバルに後れを取ることを恐れている。「リヒテンシュタインやルクセンブルグなども、DLGを取り込んでいく方向に進んでいる(ただ仮想通貨企業に銀行許可が与えられた例はまだない)。スイスが少なくとも同じ戦線に立っていることが重要だ」

(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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