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ダボス会議 マンネリ感から抜け出せるか

AFP

経済的にも政治的にも閉塞感が漂った昨年に引き続き、今年もスイスのダボスで世界経済フォーラム年次会議(通称ダボス会議)が23日から開かれる。すでになじみの解決困難な諸問題について、世界の有力者たちが話し合う。

 ダボス会議は今年で43回目。億万長者のカクテルパーティーとからかわれることもあるこの世界会議では、各国の政治・経済分野のリーダーが債務危機や失業、環境、財政問題などについて議論を交わす。

 前回の会議から1年がたつが、こうした問題が解決に向かっているという兆しはあまりみられず、ダボス会議の創設者クラウス・シュワブ氏はいら立ちを隠せない。グローバルな解決策を見つけるよりも、自国の利益を追い求める国が増えており、「我々はなかなか前進できない状態にある」と、先日開かれた記者会見で不満を漏らした。

 さらに「世界的な問題により楽観的な見方で取り組むことが私の望みだ。会議の参加者は、社会全体に対する責任をしっかりと認識して、自国へ戻ってほしい」と続けた。

 今年のダボス会議のテーマは「Resilient Dynamism(弾力性ある活力)」。しかし、グリーンピース・スイスはこのテーマを不適切だ批判する。同団体は、ダボス会議の開催期間と同じ期間にダボスで開かれる「パブリック・アイ賞」を共同主催し、「今年最悪の会社」を選出する。

世界経済フォーラム(World Economic Forum/ WEF)は1971年、クラウス・シュワブ氏がダボスで設立。そのきっかけとなったのが、「European Management Symposium(欧州マネジメント・シンポジウム)」だった。

目的は、ヨーロッパと米国のビジネスリーダーたちのつながりを強め、さまざまな問題を解決すること。

非営利団体であり、本部はジュネーブ州コロニー(Cologny)。運営資金は会員企業の会費で賄われる。

名称が現在のWEFになったのは1987年。国際紛争の解決策を探るプラットフォームとなるために活動の幅を広げたのがきっかけ。WEFはこれまで数々の国際紛争の解決の手助けになってきたと主張している(トルコ対ギリシャ、南北朝鮮半島、東西ドイツ、アパルトヘイト時代の南アフリカなど)。

WEFでは世界の動向や各国の状況などの詳細なレポートを発表しており、会員向けに他のリサーチも行っている。年始の年次総会(ダボス会議)以外にも、数々の年次会議を主催。

2001年9月11日にテロに見舞われたニューヨークを支援しようと、翌年の2002年にはニューヨークで例外的にダボス会議が開かれた。

ダボス会議にはこれまで世界の有力者が参加。過去には、ネルソン・マンデラ元南ア大統領、ビル・クリントン元米大統領、トニー・ブレア元英首相、ボノ(歌手)、アンゲラ・メルケル独首相、ビル・ゲーツ(米マイクロソフト社共同創業者)、シャロン・ストーン(女優)などが出席。

今年は1月23日から27日まで開催。世界の政治・経済・金融・市民社会・宗教・文化・科学の代表者らの話を聞きに、約2500人が参加予定。

また、約50カ国から国のトップが集まる。デービッド・キャメロン英首相、ドミトリー・メドベージェフ露首相、アンゲラ・メルケル独首相、マリオ・モンティ伊首相など。

課題は残る

 「政界や経済界は変化に対して強い弾力性を示してきたが、活力はほとんどみられない」と、グリーンピース・スイスで企業の説明責任(アカウンタビリティ)を担当するミハエル・バウムガルトナーさんは言う。

 「もし企業が、世界最大の社会・環境問題のいくつかをこれ以上生み出さないようにすれば、残りの我々はこうした問題を解決しなくても済むようになる。問題を解決するには、人々が声を上げて解決に乗り出すといった、ボトムアップのアプローチしかない」

 世界は2012年、政治・経済的に停滞していたようにみえる。2年前、ダボス会議の議題に「アラブの春」が上がったが、リビアやエジプトではいまだ重大な課題が山積み状態であり、特にシリアでは深刻な状況が続いている。

 世界銀行によれば、世界経済は昨年2.3%とわずかに成長。しかし、経済成長のけん引役である中国の成長は減速。欧州連合(EU)はいまだ債務危機から抜け出せず、政策決定も滞っている。他方、財政破綻への道に向かいつつある米国では、政治家らが口論を続けている。

 また、スイスに限らずさまざまな国々で、大手銀行が金融スキャンダルに巻き込まれている。

 暗いニュースはまだある。ダボス会議を主催する世界経済フォーラム(WEF)は今月初旬、経済成長をてこ上げするために環境保護に背を向ける国が出てきたことで、自然大災害が発生するリスクが上昇したという報告書を発表した。

世界の手本?

 ダボス会議のホスト国であるスイスは、世界経済が混乱している中で安定性を維持している「島国」であり、打撃からどう立ち直ればよいのかを示す代表例だという人もいる。

 実際、金融危機と経済の停滞を多大な努力で乗り越えたスイスは、今年約1.3%の経済成長が見込まれている。また、失業率も他の先進国に比べ明らかに低い水準を維持すると予想されている。

 金融業界で著名なナシム・ニコラス・タレブ氏も、最近出版した自著『Antifragile(アンチ脆弱性)』で、スイスは世界で最も安定した場所だと評している。

大胆に

 しかし、先のWEFの報告書にもあるが、スイスも数多くの問題を抱えている。

 例えば年収格差。この問題は年々深刻になっており、今年3月には法外な高額報酬の抑制を目指すイニシアチブが国民投票にかけられる予定だ。また、クレディ・スイス(Credit Suisse)が昨年公表した「心配事バロメーター(Worry Barometer)」では、スイス人の心配事第1位に失業が上がった。

 また、国内銀行最大手のUBSでは外国人顧客の脱税問題などのスキャンダルが続いており、銀行業に対する規制も厳しくなっている。そのため、金融業界に回復力があるのかと危惧する声もある。

 「リスクと向き合うには、リスクを背負わなくてはならない。リーダーたちはより革新的に、より大胆になる必要がある」。WEFマネージング・ディレクターのリー・ハウエル氏はジュネーブ州コロニー(Cologny)のWEF本部での記者会見でそう語った。

 この発言の根底にあるメッセージははっきりしている。世界の政治・経済界のリーダーたちは自らの利益を追い求めるのではなく、互いに協力しながら問題解決する必要があるということだ。

(英語からの翻訳・編集 鹿島田芙美)

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