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フェザーコインは軽量級?

Bitcoin sticker together withe other payment options on a shop door
従来の支払い方法と競う前に、仮想通貨には解決すべき技術的な問題が山積みだ Keystone

羽根のように軽い仮想通貨を目指す「フェザーコイン」は、取引量ではビットコインのはるか足元にも及ばない。だがスイス・ツークを拠点とする「フェザーコイン開発財団外部リンク」は、ビットコインの欠陥を補い仮想通貨全体を盛り上げるべく、ひたむきな研究開発を支える。

 フェザーコイン開発財団の設立は、2013年にこのアルトコイン(ビットコインの代替となるコイン)を公開したイギリス人、ピーター・ブッシュネル氏の経歴の中でもひと際重要な節目だ。「最初は熱狂者が集まってわいわいできる仮想通貨コミュニティを作るつもりだった。ところが、このプロジェクトは急成長して、当初よりかなりシリアスになった」と、ブッシュネル氏はスイスインフォのインタビューで語る。同財団を後方支援しているのは、億万長者ライナー・マルク・フレイ氏などの富裕層を客層とするスイスの投資会社ハイペリオン・キャピタル外部リンク。同社は、より使いやすいウォレットなどのアプリケーション開発を手掛ける3人の開発者への金銭的報酬を一手に引き受けているのだ。

 「大量の仮想通貨を保管したいときなど、オフラインで仮想通貨を扱う環境は、理想的と言うにはほど遠い」と語るのは、財団の会長を務めるルーカス・ベッチャルト氏だ。

 この開発は、フェザーコインの元であるコア開発チームの手に余るものだとブッシュネル氏は言う。「経験豊かな開発者をプロジェクトに引き込むのがまず大変だったうえ、金銭的な見返りを提示できないまま仕事を続けてもらわなければならず、これも同じように大変だった」と過去を振り返る。「仮想通貨は構造が複雑で、とても単純だとは言い難い。初めは第三者ソフトウエアをうまく動かしてやろうとやる気満々だった人も、仕事の大変さがわかってくるとあきらめて投げ出してしまう」

ルーカス・ベッチャルト氏
ルーカス・ベッチャルト氏はフェザーコイン開発財団とスイス・ビットコイン協会の会長を務める Keystone

好機を迎える

 ブッシュネル氏は、最近ほかのプロジェクトに気を取られている隙に、「アルトコイン」であるフェザーコインが「置き去りに」されてしまったことを認める。ビットコインは昨年急激に価値が上がり、仮想通貨業界全体がその恩恵に与った。これがブッシュネル氏にとってはずみとなった。今年に入って価格が下がり始めたことでさらに勢いづいた。

 「この機会を逃さないようにというのが私の懸念だった。ビットコインが1千ドル(約10万円)以下に値下がりしたら、アルトコインは甚大な被害を受け、手を引く人が出てきて多くの仮想通貨が完全消滅するに違いない。ビットコインが今年初めに4千ポンド(約60万円)まで値下がりしたとき、フェザーコインがこの好機を逃しはしまいかと心配した」

 そのフェザーコインは今、新たな資本や開発者を得た。これで何をしようとしているのか。そして、千種を超える仮想通貨の中でどのように差別化を図るのか。フェザーコインはライトコインの一つ。ライトコインとは、決済のスピード化と取引額の増加を目的に、2011年にビットコインから分離されたアルトコインだ。

 フェザーコインは取引速度の向上を目指したビットコインの軽量版であり、システムの略奪や無効化といった攻撃を予防する独自の対策も備えている。ビットコインでは第三者機関を通さずに個人同士で取り引きすることが可能になったが、従来の金融システムに比べて取引速度が遅く、扱いにくいと指摘されている。

ウィン・ウィン

 しかし、ブッシュネル氏はフェザーコインをビットコインに取って代わらせようとしているわけではないと言う。

 「フェザーコインは高速のコインであり、ビットコインよりも安価だ。それにほとんどのアルトコインにない保護機能もある。これらの長所を踏まえると、フェザーコインが仮想通貨のトップになるかどうかということよりも、このコインに埋められる経済のニッチ(隙間)を探すことが一番だ」

 1コイン0.30ドル、総価額約5650万ドルのフェザーコインは、仮想通貨の中でビットコインが占めている支配的な地位(1コイン8700ドル、株式時価総額1500億ドル)には遠く及ばない。時価総額では仮想通貨のトップ10にすら入っていないが、ブッシュネル氏はいずれ変化が訪れると信じている。「いつかフェザーコインが幅広く使われ、認められるようになって欲しい」

 スイス・ビットコイン協会の会長でもあるベッチャルト氏は、フェザーコインがどれだけ市場を支配するかではなく、仮想通貨の競合にどれだけ恩恵をもたらすかということに注目している。財団が開発研究の内容を公開している目的もここにある。

 「フェザーコインでなされた改善はすべて、業界のビジネスモデル全体に適用される技術的な知恵袋として利用される。これはウィン・ウィンだ」とベッチャルト氏は確信する。

(英語からの翻訳・小山千早)

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