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緑の党、脱原発しても「十分な再エネがスイスにはある」と主張

来年17年から再エネ100%の電力供給を行うジュネーブ州。同州の展示会場Palexpoの屋根4万5千平方メートルに、1万5千枚のソーラーパネルが2012年10月に設置された。これは、スイス最大のソーラーパークになる Keystone

いよいよ27日の国民投票でスイス国民は、緑の党提案の「脱原発」を求めるイニシアチブに対し意見を表明する。もし可決されれば、17年末には5基の原発のうち3基が稼動を停止。最終的には最後の原発が稼動停止する2029年にスイスは脱原発を達成する。だが、イニシアチブに反対する政府は「原発に取って代わる再エネの生産が追いつかない。外国から大量の電力を輸入しなくてはならない」と言う。それに対し緑の党は「十分な再エネがスイスにはある」と主張する。イニシアチブを立ち上げた中心人物、ロベール・クラメール下院議員に聞いた。

ロベール・クラメール下院議員 緑の党の党員で弁護士。現在、連邦議会の下院議員を務める。ジュネーブ州議会の議員と州政府の環境・エネルギー大臣を12年務め、ジュネーブ州に市内電車を再導入するなど、さまざまな環境問題に着手した。今回の「脱原発」のイニシアチブを立ち上げた中心的人物。 swissinfo.ch

 クラメール氏にとって、イニシアチブの目的はきわめてシンプルだ。「スイスに現存する5基の原発の運転期間を45年に限定する。原発に取って代わるのが再生可能エネルギー(以下、再エネ)と節電・省エネだ」

 45年に限定した理由は、もともとスイスの原発は寿命40年として設計されていたからで、「それをまるで古い自動車を修理するように、新しい修理技術を使って寿命を延ばしてきた。スイスの現在の法律では、運転期間に制限がない。60年や65年にするという意見を国会で聞いたこともある」。だが、古いコンセプトで作られた原発を動かし続けるのは、国民にとってあまりにリスクが大きいとクラメール氏は考えた。

 またもう一つの懸念は、スイスの原発がどれも都市に近いことだ。世界にある約200基の原発のうち「非常に人口密度の高い場所にある原発」に分類される9基の中に、スイスの原発5基がすっぽり含まれる。

 信頼できる研究によれば、人口800万人のスイスでもし過酷事故が起これば、100万人が避難しなければならないという。「それは言い換えれば、もし大規模事故が起きた場合、スイスという国は存在しなくなるということだ」。

 こうした事実に福島の原発事故が追い風となり、2011年5月に脱原発を求めるイニシアチブ案が作成され、同年11月に連邦内閣事務局に提出された。

スイスインフォ: 福島の原発事故はスイス国民にとっても衝撃で、それが今回の投票にも影響を与えると思いますか?

クラメール: 福島の原発事故が今回の国民投票に影響を与えるかどうかは分かりませんが、この事故がイニシアチブを立ち上げるきっかけになったことは確かです。

実は、福島の原発事故が起こる直前、三つの新たな原発建設計画が政府の専門機関に提出されていました。事故後、ドリス・ロイトハルト環境・エネルギー相は、こんな事故の後で新しい原発の建設はありえないと言い、直ちにこの計画を却下しました。

ここで理解できないことが起こりました。原発を動かしている電力会社は、原発事故の6カ月前には「原発が古くなり使えない。新しい原発を建設したい」と言ったのに、原発事故後は手のひらを返したように「新しい原発はすぐに必要ではない。むしろ古いものを修理してできるだけ長く使いたい」と言い出した。同じ原発が違うように解釈され、本当におかしいと感じ、原発産業に不信感を持つようになりました。

個人的意見を言えば、今日にでもスイスの原発を止めるべきだと思っています。しかし、そう極端なことはできないので、多くの人が納得できる方法をということで45年に寿命を限定。これで、関係者は予定を組むことができる。つまり17年に、1基の大型原発にあたる三つの小型原発を止め、3分の1(約33%)の原発の発電をストップする。24年にゲスゲン原発を止め33%を、29年に最後のライプシュタット原発を止め残りの33%の発電をストップするという、計画性のある提案です。これで、それぞれの関係者が準備でき、再エネで代替できるようになります。

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スイスインフォ: 2029年に原発を止めた場合に、再エネで十分カバーできるという緑の党と、できないというロイトハルト環境・エネルギー相との意見の相違をどう考えますか。

クラメール: スイスには、再エネが必要以上にあります。実際、まさに今、ロイトハルト氏の環境・エネルギー省では、1万件以上の再エネのプロジェクト、特にソーラーパネルを屋根に取り付けたい人たちのプロジェクトが机の上に積み上げられたままです。

これらのプロジェクトがすべて承認されれば、来年17年に原発3基が止まった場合の33%の発電量をカバーできるだけでなく、24年にゲスゲン原発が止まった場合の33%の発電量の半分をカバーできる。つまり原発の発電量の50%を再エネで補えるのです。

ですから、もしイニシアチブが可決されれば、こうしたプロジェクトが次々と承認されていくでしょう。それが良い点です。

プロジェクトを提出した人たちは、まじめに計画を練り、ゴーサインを待っているのです。そうした人たちに対し、「早く進みすぎる。もっとゆっくりやってください」などと言うのは、おかしい。

ですから、ロイトハルト氏は再エネプロジェクトを承認せず、同時に再エネが不足していると言っているのです。これはかなり矛盾しています。

スイスインフォ: つまりは再エネが足りないのではない。結局、政治の問題ですか。

クラメール: 純粋に政治の問題です。例えばジュネーブとバーゼルで起きていることを見れば明らかです。私が州議会の議員と州政府の環境・エネルギー大臣を12年務めたジュネーブ州では、電力配給会社が来年1月1日から100%再エネの電気を供給し始めます。

その3分の1がジュネーブで発電され、残りがヴァレー(ヴァリス)州の水力発電所から供給されます。後者は経済的に困難な状況なので今後新しい消費者を獲得できます。

バーゼルも同じく来年から再エネ100%の電力を供給します。なぜ、この二つの州はこうなのか?それは、この二つの州が、歴史的に原発のエネルギーを拒否してきたからです。

両州は州民投票を実施して州民に原発の是非を問い、否決された結果、再エネと省エネの道を選択したのです。

ですから、スイスの二つの州が選んだ道をその他の州ができないはずはないのです。また、再エネ100%の選択は経済的にも得なのです。ジュネーブでは、来年から電気代が下がるのです!

スイスインフォ: ではたとえイニシアチブが可決されなくても、スイスのエネルギー転換については楽観的に見ていますか?

クラメール: たとえイニシアチブが可決されなくても、スイスが変わることは避けられないと思います。

緑の党は、このイニシアチブで17年の終わりに3基の原発の停止(原子力での電力生産の33%)を提案していますが、イニシアチブの反対陣営も現在原発に頼れなくなっているのです。少なくとも来年2月までの一番エネルギーを使う寒い冬に、原子力発電の47%が使えないのです。35%の電力を生産している一番大型のライプシュタット原発が、故障が分かり来年2月まで稼動を停止し、12%の電力を生産している小型の原発が18カ月前からやはり故障点検のため止まっているからです。

つまり、これから4カ月はこれでもやっていけるとの判断です。ならば我々の言う、来年の3基の原発の停止など、まったく大したことではない。

そして、将来のスイスのエネルギーについての質問ですが、原発は過去のエネルギーだと断言できます。なぜ過去か?それは、非常に危険なエネルギーであるうえに、非常にコストが高い。再エネよりもっと高くつく。さらに多くの新しい再エネ技術が相当な早さで生み出されているからです。

どちらにしても、スイスがもう原発を建設しないことは確かですから、スイスからいつか原発は消えます。だから問題は、(政府が提案しているように)この脱原発を無計画に、つまり突然次から次に故障が起きたと言って、なし崩し的に脱原発にするのか、それとも(我々のように)計画的に、国民にも健康面での安全を保障し、しかも再エネで電力供給の保障もしながらやるのかです。言い換えれば、今回のイニシアチブは、脱原発が主眼というより、むしろ計画的な脱原発が主眼です。

スイスインフォ: しかしロイタルト氏も、段階的な脱原発の方向を目指し計画性を持って進めると同じような調子で言っています。

クラメール: 「計画的」とは、それぞれの原発の稼動停止の期日をはっきりと決め、それに合わせて再エネ生産も計画していくことです。ロイタルト氏がやろうとしているのは、無計画で無秩序です。電力会社が修理にお金がかかりすぎるというのを理由に稼動停止を決めるまで続ける、ないしは連邦核安全監督局(ENSI)が危ないから止めるようにと言うまで続ける。つまりは廃炉の期日をはっきりと決めないため、代替の再エネの設備も、送電線の整備も、何も計画できないということです。そこは、はっきりと違うのです。

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