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「物価高のスイス」まもなく過去の遺物に?

商品の値下がりで得をするスイスの買い物客 Keystone

ドイツの大手ディスカウントスーパー「リドゥル ( Lidl ) 」が間もなくスイスに進出する。スイスの小売販売業者は、これからますます価格競争に力を入れなければならないようだ。

年明け、大手スーパー「コープ ( Coop ) 」は数多くの商品を値下げし、ほかの販売業者もそれに倣い出した。すでにスイスの物価高の終焉 ( しゅうえん ) を予見する専門家もいる。

ライオンは目を覚ますか

 関係者は、スイスのリドゥル第1号店のオープンを緊張しながら待っている。今後、各地に20店舗から30店舗が続々と作られる予定だ。このため、スイスの小売業者にかかる圧力は増すばかりだ。

 スイス第2大手のスーパー、コープ は1月初旬、600品目以上の商品を平均12%値下げした。続いて大手デパートの「マノール ( Manor ) 」、そしてスイス最大のスーパー「ミグロ ( Migros ) 」も150品目の値下げに踏み切った。また、1月中旬には「スパー ( Spar ) 」も青果物の値段を15%から20%下げると発表した。

 2005年、同じくドイツのディスカウントスーパー「アルディ ( Aldi ) 」がスイスに進出したが、現在の値下げ商戦はその直前の状況を思い起こさせる。ミグロとコープは当時も、自社の低価格商品の種類を増やすなどの対抗策を打ったのだ。

 フリブール大学財政学教授のライナー・アイヒェンベルガー氏によると、昨年、物価は約10%下落した。だがアイヒェンベルガー氏は、今回のディスカウントスーパーの進出により、より大幅な物価の下落が引き起こされるのではないかと予測している。
「ミグロとコープという2匹の大きな『ライオン』は、小さな『ライオン』 ( アルディ ) が現れたときに片目を開けた。しかし、2匹の小さな『ライオン』が市場をめぐって争い出すと、大きい『ライオン』は完全に目を覚ますのではないだろうか」

強圧手段

 一般的に、スイスはとりわけ物価が高いというイメージがあり、国境を越えて買い物に行く消費者も大勢いる。アルディがスイスに進出する以前、スイスの物価はドイツよりおよそ4割高かった。消費者は今でもまだ約3割多く支払っている。

 「スイスの市場は小さい。そして、この市場では価格の低さよりどちらかというと品質の方が重要視されている。そのため、納入業者は他国と異なる価格を設定することができた。スイスには本物の競争が欠けていたのだ。ミグロとコープは互いにバランスを取っていて、価格戦争を始める理由はなかった。しかし、これでスイスとドイツの物価の差はもう少し小さくなるはずだ」
 とアイヒェンベルガー氏は言う。

 アルディとリドゥルはドイツの市場をリードするスーパーだ。資金的にも余裕があり、そのため市場における権力も強大だ。「ネスレ ( Nestlé ) 」や「ユニリーバ ( Unilever ) 」といった納入業者にもっと圧力をかけて価格を下げることもできる。

 「特にリドゥルはヨーロッパの各地で仕入れた有名商品をたくさん販売しており、スイス向けの価格について考え直すよう、製造元に圧力をかけることも可能だ」
 と言うのは、ザンクトガレン大学経営学およびマーケティング教授のトマス・ルドルフ氏だ。

死滅はない

 しかし、長期的な価格戦争にもつれ込むと、コープやミグロにとっては反生産的な結果にしかならないとルドルフ氏は見る。ザンクトガレン大学が昨年行った調査では、値下げが続いてもスイスのスーパーマーケットに新しい消費者がもたらされることはなく、むしろ労働人員削減につながる恐れがあるという結果が出た。

 「短期的には、これらドイツのスーパーとも張り合うことができることを顧客に理解してもらえるようになるかもしれないが、長い目で見た場合には、サービスや品質、あるいは買い物のしやすい店舗といった要素を重視するべきだ」
 とルドルフ氏。

 しかし、ルドルフ氏もアイヒェンベルガー氏も、リドゥルの参入で市場がより厳しさを増すとしても、スイスの大手スーパーはどこも多かれ少なかれ無傷のまま存続すると確信している。

swissinfo、マシュー・アレン 小山千早 ( こやま ちはや ) 訳

ミグロとコープは、これまで何十年もの間にわたってスイスの小売業界を支配してきた。両社で市場の約3分の1を、食品および飲料水だけに絞ると全体の7割を占める。

スイスの物価の高さには、スイス人の高い品質意識も大きく関係している。ディスカウントスーパーの市場占有率はわずか5%にしかならない。この分野の最大手は「デナー ( Denner )」だ。ドイツではディスカウントスーパーの占める割合は40%に上る。

ドイツ第2大手のディスカウントスーパー「アルディ ( Aldi ) 」のスイス市場参入に続いて今回「リドゥル ( Lidl ) 」が進出し、これまでの構造に変化がもたらされそうだ。

アルディは2005年10月にスイスに進出。2008年末までに80店舗を開業した。市場占有率は1%。

2010年の終わりには、アルディとリドゥルを合わせて約220店舗が開業する予定。大手銀行「クレディ・スイス ( Credit Suisse ) 」が最近発表した調査によると、市場占有率は約5%になる見込み。

公正取引委員会 ( Weko ) のヴァルター・シュトッフェル委員長は、小売業者の今回の値下げは実質的なものであり、競争激化の現れであると見ている。

シュトッフェル氏は1月半ば、SDA通信社のインタビューで
「外国企業の市場参入や並行輸入によって、スイスの市場はさらにダイナミックになるかもしれない。今回の値下げで得をするのはまず消費者。納入業者や商業取引には圧力がかかるだろう」
と話した。

シュトッフェル氏はまた、この低価格は景気後退時の消費を支えることができると見ている。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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