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「憎まれっ子」の引退 「ヴァセラ氏は強い木を植えた」

17年間で3億フラン(約303億円)にも上る給与とボーナスを受け取ってきたダニエル・ヴァセラ氏は、22日に製薬大手ノバルティス(Novartis)のトップの座を降りる。後に残るのは、「法外な高給取り」というイメージだ。だが、それ以外にも大きな足跡を残している。

 「スーパー・マネージャー」そして「超貪欲な高給取り」。この20年間を振り返ってみても、これほど極端に分裂したイメージを持つ人物はスイスにはほとんど見当たらない。

 スイスの常識を超える高額報酬を受け取ってきたヴァセラ氏に、国民は怒りを覚えずにはいられなかった。ヴァセラ氏は、大銀行のUBSやクレイディ・スイス(Credit Suisse)のトップ・マネージャーと並んで、管理層の極端な高額報酬を禁止する「高額報酬制度反対イニシアチブ」の原因となった1人だ。有権者は、3月3日の国民投票でこのイニシアチブの賛否を決める。

 「個人的には、これまでの給与は喜んでもらってきた」。1月末、スイス国営テレビのインタビューでヴァセラ氏は満面に笑みを浮かべてこう語った。2月22日の会長引退を表明した直後のことだ。

「いかに」ではなく「いかに多く」

 経済ジャーナリストで経済紙「ビランツ(Bilanz)」の編集長を務めるルネ・リュヒンガーさんは、これまで経済界の舵取りをしてきたヴァセラ氏を高く評価する。医薬品の特許権の期間延長により、特許権保護の満了後もしばらくの間、続けて利益を得るための戦略を見つけ出したからだ。

 ヴァセラ氏はまた、安価な後発医薬品(ジェネリック医薬品)を幅広い市場に導入した。「後発医薬品の開発の必要性を認めたのみでなく、行動も起こした。タブーを破りながら」

ダニエル・ヴァセラ(Daniel Vasella)氏略歴

1953年、フリブールに生まれる。

ベルン大学で医学を学び、その後ベルンのインセル病院(Inselspital)の医師、主任医師を務める。

1978年、アンヌ・ローレンス・モレさんと結婚。当時のバーゼルの製薬会社サンド(Sandoz)で後に会長を務めるマルク・モレ氏の姪。

1988年、産業界に入り、サンドUSAへ。

ハーバード・ビジネス・スクールでマネジメントを学ぶ。

1996年、チバ・ガイギ(Ciba-Geigy)とサンドが合併してできたノバルティス(Novartis)の最高経営責任者(CEO)に就任。

1999年、ノバルティスの取締役会長を併任。厳しい批判の的になる。

2008年、取締役会長の退任を強制されないよう、任期制限を無くす。

2010年2月、CEOを辞任。

2013年2月22日、取締役会長を辞任する予定。

ノバルティスのトップ職に就いている間、ヴァセラ氏は推定3億フラン(約303億円)を稼いだ。経済紙「ビランツ(Bilanz)」の試算では、2012年の資産は約1億5000万フラン。

ヴァセラ氏は辞任にあたり、7200万フラン(約73億円)もの報酬を受け取ることになっていた。

競業避止義務(退職した従業員に同業他社への就職を禁止)と引き換えに、6年間にわたり、毎年1200万フランずつ受け取る予定だった。

この報酬が明らかにされたのは、22日のノバルティス年次総会の1週間前。轟々(ごうごう)たる非難の嵐が巻き起こった。

一般市民だけでなく、左派から右派にいたるまでの政治家も怒りを表明。

数日間におよぶ攻撃のあと、ヴァセラ氏と取締役会は最終的に7200万フランの報酬を取り止め、その代わりに競業避止義務も課さないことで合意した。

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アメリカ土産

 リュヒンガーさんは、「暴利をむさぼる高給取り」というイメージをヴァセラ氏の環境と照らし合わせる。そこから見ると、ヴァセラ氏は金儲けに走るマネージャーではないと言う。「スイスではよく高慢だと言われるが、実はそれは自分にはそれ相応の価値があるという、うそ偽りのない信念なのだ」

 このような「アメリカン・マインドセット(アメリカ式の考え方や価値観)」を体得したのは、サンド(Sandoz)社のモレ元社長の命令でアメリカの「マネージャー短期集中コース」に送られたときだという。

 また功績においても、高給取りのもう1人の「憎まれっ子」マルセル・オスペル元UBS会長と比較すると、その違いが浮き上がる。「給与ではほとんど差はない。しかし、オスペル元会長は商品開発は一つもしていない。それどころか、UBSを破滅の淵に追い込み、結局国民の税金で助けてもらわなければならなくなった」

 それにひきかえヴァセラ氏は、「2人の年老いたおばさん」、チバ(Ciba)とサンドから一つの新しい企業を創り、製薬界ナンバー2にまで成長させた。「製薬業界に強い木を植え付けたのだ」とリュヒンガー氏は言う。

マネージャー・カーストの評判を落とす

 経済学者で社会民主党(SP/PS)の元国民議会(下院)議員ルドルフ・シュトラムさんも、ノバルティスが製薬業界でファイザー(Pfizer)に次ぐ世界第2の座を確保したのはヴァセラ氏の功績だと評価する。ヴァセラ氏の在任中には売り上げも倍増したと言う。

 だが、シュトラムさんの全体的な評価は一様ではない。「ヴァセラ氏はボーナス問題で目立ち過ぎ、スイスのマネージャー文化全体を汚染した」。そのため一般市民のみならず、工業関連の企業主までも怒らせてしまった。「あのような高額ボーナスの報いとして大企業の管理層に対する信頼が失われ、その信頼喪失が国政にも長い影響を及ぼすことになった」

 一方、ヴァセラ氏が17年もの間トップにとどまり続け、それによってノバルティスが安定したことは評価に値する。「そういう意味では、彼は『アメリカ人』ではなかった。あの国のマネージャーは、平均して4年半で職場を変えるから」

 と言いつつも、シュトラムさんはヴァセラ氏が犯した「重大なミス」の指摘も忘れない。「ヴァセラ氏は競合相手のロシュ(Roche)を手に入れようとした。だが、製薬複合企業がたった1社になってしまったら、深刻な影響が出たはずだ」

 ヴァセラ氏のビジネスモデルは、視野の広い商品および研究を戦略としていた。「この幅広さは一方でバランスを取り、また緩衝装置の役割を果たしたが、もう一方では高くついた。商品の幅がある程度あれば、マーケティングで相乗効果を得られるかもしれない。ノバルティスがこのモデルで成功するかどうかは、数年先にならないと分からないだろう」

NGOがインド訴訟を批判

 「マラリアやハンセン病の撲滅では、ノバルティスはずいぶん前進した。とりわけノバルティス基金は活発に活動しており、優れたプロジェクトをたくさん推進している」と言うのはNGO国境なき医師団(MSF)の薬剤師アンドレア・イーゼンエッガーさんだ。

 ただし、ノバルティスの研究はハンセン病を除き、観光産業が活発な北側諸国に集中している。結核やエイズ、あるいは睡眠病や黒熱病などの「おろそかにされている病気」の撲滅に消極的な姿勢は、特にイーゼンエッガーさんの気にかかる。

 ノバルティスがインドの特許法に対し異議を申立てたことにも納得がいかない。インドは2005年に法律を作り、医薬品の特許権の期間延長を阻止しようとしている。そのきっかけになったのは、ノバルティスが今後も独占販売を狙う抗がん剤グリベック(Glivec)だ。

 「中心となる作用物質に少し他の薬物を加えて医薬品の特許保護を20年延ばそうとするなど、もってのほか」とイーゼンエッガーさんは憤る。「貧しい患者の手に、後発医薬品が届きにくくなってしまう」

ノバルティス(Novartis)

2012年の年間売り上げは567億ドル(約5.7兆円)。

純利益は5%減の128億ドル。

為替の影響を考慮しなければ、2%減。

世界中で12万4000人が勤務。スイスの雇用数は1万3000人。

インフォボックス終わり


(独語からの翻訳・編集 小山千早), swissinfo.ch


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