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スイス・インドネシアFTA「持続可能で公正な経済基盤を」

抱き合うクマとトラ
スイス・インドネシア自由貿易協定(FTA)の支援委員会のポスターには、スイスのクマがインドネシアのトラを抱擁する様子が描かれている。スローガンは、「持続可能な貿易のための強力なパートナーシップ」だ indonesie-oui.ch

スイスでは来月7日、スイス・インドネシア間の自由貿易協定(FTA)の是非が有権者に問われる。貿易に持続可能性の基準を課す初めての協定だ、とFTA支援委員会のシモーヌ・ド・モンモラン氏は強調する。

スイスはインドネシアとの間で締結した自由貿易協定(FTA)を実施すべきか?来月7日の国民投票で、スイスの有権者はこの問題に答えを出す。

この協定は、大部分の関税を引き下げ、特定の技術的障害を撤廃し、スイスの輸出を容易にする。スイスに輸入されるインドネシアの工業製品についても関税が撤廃される。また、インドネシアが世界第1位の輸出国であるパーム油など、一部の農産品の関税も引き下げられる予定だ。

協定には、持続可能な開発に関する明確な条項が盛り込まれており、締約国は環境を保全し、人権や労働者の権利を尊重する義務を負う。パーム油が関税引き下げの対象となるのは、持続可能な方法で生産された場合に限られることが明記されている。

急進民主党の国民議会(下院)議員であるシモーヌ・ド・モンモラン氏は、中道・右派政党や経済界の代表らから成るスイス・インドネシアFTA支援委員会のメンバーだ。同氏は、この協定をより持続可能な貿易への第一歩と考えている。

swissinfo.ch:スイス・インドネシアFTAには、スイスにとってどのような利点がありますか?

シモーヌ・ド・モンモラン氏:協定案の交渉には9年近く掛かりました。協定は安定的で予見可能な経済協力の基盤を築きます。その結果、スイス企業の投資やサービスを含む市場へのアクセスが向上し、法的安全性が強化されます。

swissinfo.ch:協定は中小企業の利益になりますか?

モンモラン:約9万6千社の中小企業が既にこの地域と経済的な関係を持っていますが、関税は調和のとれた発展を確保する上で大きな障害となっています。特にチョコレート製品では、関税が最大25%に上ります。

インドネシアと交渉する大企業のような資金を持たない中小企業にとって、この協定はプラスとなります。

swissinfo.ch:なぜインドネシアはスイスにとって重要な経済パートナーなのでしょう?

モンモラン:インドネシアは人口2億7千万人、国内総生産(GDP)1兆ドル(約104兆6800万円)超の大国です。そのポテンシャルは米国を遥かにしのぎます。2050年には、インドネシアは世界第4位の経済大国になる見込みです。

女性のポートレート
シモーヌ・ド・モンモラン氏は、国民議会(スイス連邦議会の下院)議員。ジュネーブ州選出で急進民主党(中道右派)所属 © Keystone / Alessandro Della Valle

swissinfo.ch:協定には持続可能性に関する一連の要件が定められています。これらの要件は、環境破壊の防止に十分でしょうか?

モンモラン:パーム油生産の問題に携わる多くの非政府組織(NGO)が指摘するように、貿易の条件として持続可能性の基準を課す初めての協定です。より持続可能で公正な経済基盤を築く、貿易協定交渉における画期的な出来事です。

インドネシア政府は、同国で新たな基準を定める必要性がでてくるでしょう。これを第一歩として、今後の貿易協定には、同様の基準を盛り込んでいって欲しいです。

もちろんスイスだけでインドネシアの熱帯雨林を救えるわけではありません。しかし、協定は、要件を満たすパーム油だけに特恵関税が適用される仕組みを導入し、持続可能な生産を推進する基盤を築くものとなっています。環境的・社会的要件が課されることで生じた追加コストは、この仕組みによって補填できます。

swissinfo.ch:協定には紛争の際の仲裁手続きが定められていますが、持続可能性に関する条項は除外されています。持続可能性の要件について、どのように監視し、制裁を加えるのでしょう?

モンモラン:これらのチェックは認証機関が行います。合同委員会が基準に適合しているかを審査しますが、協定が国際法に基づく拘束力を持つことに変わりはありません。認証済みの有機産品を輸入する場合と原則は同じです。ラベルはその製品が作業指示書に沿ったものであることを証明するものです。もし、違反が判明した場合には、法律上の罰則が適用され、輸入者が責任を負うことになります。

認証基準はNGOも参加する合同委員会によって定期的に再評価されます。その一番の目的は、さまざまなパートナーを同じテーブルに着かせ、改善策を見つけることです。

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swissinfo.ch 国民投票でこの協定が否決された場合、スイスにどのような影響がありますか?

モンモラン:スイス経済にとって不利になるでしょう。困難で不確かな今の状況下で、スイス企業はこの協定によって、欧州連合(EU)の企業よりも実質的に有利になります。EUにはまだこのような協定はないからです。協定がなければ、パーム油の持続可能な生産について何も解決できません。FTAを取り巻く将来の議論に、誤ったシグナルを送ることになるでしょう。

swissinfo.ch:レファレンダムの支持者は自由貿易のメカニズム自体に反対しています。スイスにとってFTAは本当に必要なのでしょうか?

モンモラン:自由貿易とは、あらゆる条件と制約から自由になるという意味ではありません。全ての人にとって有利な共通ルールについて合意することが基本となります。パートナー諸国と議論する場を設け、持続可能な開発などの課題について要件を定義することができるため、このような協定は重要です。

パーム油の場合、当局や企業に対して公正性や持続可能性の向上を求めた活動が報われ、これらの基準を考慮した協定ができました。そのような理由から、この協定を過去に見られた無法な自由貿易の象徴だと非難することはできません。そうではなく、私たちは今、転換点に立っているのです。今後は、持続可能性、生産方法、地域農業が優遇されないFTAは成立しないでしょう。

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swissinfo.ch:スイスはさまざまな種類の上質な油を生産しているにもかかわらず、なぜインドネシアからパーム油を輸入するのですか?

モンモラン:過去15年間でスイスは菜種油の生産量を2倍に増やし、過去8年間でパーム油の輸入量を約35%減らしました。可能な限りの調整は行われています。自国で手に入るものを世界の果てまで求めるのは理想的ではないと、消費者、農産品加工業、外食産業が認識したからです。それでも、パーム油が特定の製品を製造するために便利な特性を備えているのは事実です。

世界自然保護基金(WWF)自体、パーム油はその他の採油植物よりも生産性が高く、何百万の生産者の収入源となっているため、栽培を禁止するべきではないとしています。戦うべきは、環境や社会への悪影響です。

swissinfo.ch:スイスの農家にとって不正な競争形態ではありませんか?

モンモラン:スイス産の油やバターと競合するパーム油は取るに足りない量です。菜種油の生産量の1.1%です。

不正競争になるのは、純粋に経済的な理由で、ある製品が別の製品に取って代わる場合です。持続可能と認証されたパーム油は、その価値を重視する特恵関税によって、価格がより高くなります。私たちが追求するのは、スイスに輸入されるモノとサービスにとって公正な環境です。

(仏語からの翻訳・江藤真理)

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