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スイスの若手アーティストの登竜門「カイエダーティスト」

エジプトのファイユーム盆地のワディ・ヒタンにある「化石と気候変動の博物館」。2016年、ノハ・ムフタール Noha Mokhtar

スイスの芸術評議会「プロ・ヘルヴェティア文化財団(Pro Helvetia)」が2年ごとに発行する画集シリーズ「コレクション・カイエダーティスト」(仏語で「アーティストのノート」の意)は、スイスの有望なアーティストが初めて自分のモノグラフを出版できる絶好のチャンスだ。スイスのアート業界の最新動向が分かる一冊でもある。

このコンテンツは 2021/09/25 09:00

公募は2年に1度行われ、財団の外部審査員が応募者の中から若手アーティストを推薦。当選者には薄いモノグラフの出版が融資される。画集はアーティスト自身も交えて共同制作され、評論家の批評も同時に掲載される。

「アーティストにとって、これは国際的なアートシーンで自分の作品を評論家の評価付きで知ってもらえるまたとない機会だ。『カイエダーティスト他のサイトへ』の制作を通して新たな交流が生まれ、自分の作品を見つめ直したり、グラフィックアーティストや作家らと共同制作したりするきっかけにもなる」とプロ・ヘルヴェティアのビジュアルアート専門家、ジョシアン・イマスリー氏はswissinfo.chに語る。

35年前に始まったカイエダーティストは、ピピロッティ・リストやフィッシュリ&ヴァイス、クラウディア・コントなどの著名な芸術家も輩出した。今年出版のコレクションでは、以下の8人のアーティストが取り上げられた。

サンドラ・クネヒトにとって、料理は芸術だ。特別にバーゼルに運ばせて建てた納屋「クネヒト」で、長年に渡り多くの人々に料理を提供した経験を持つ。クネヒトは香りや味にアイデンティティーを求め、それを地域の歴史や政治と結びつけて考察する。私たちは誰なのか、なぜそうなのか、そして持続可能で平等に生きるためにはどうすべきなのか――。クネヒトはその問いに対する鍵が「食」にあると考える。サンドラ・クネヒト、1968年生まれ、バーゼル・ラント準州のブースを拠点に活動。 写真左:「My land is your land(仮訳:私の土地はあなたの土地)」2020年。撮影:エヴァ・クルツ。写真右:「Bœuf sous-vide(仮訳:真空パックの牛肉)」、2017年。撮影:カタリーナ・リューチャー
エレナ・モンテシノスの作品は物議を醸しやすい。だが彼女のアートや学芸員としてのプロジェクトは、いまだ実現されていないものも多い。例えばアナーキスト運動のロゴをプリントした巨大な旗をまとってスイスの駅で小銭を配るというパフォーマンスは取り締まりの対象となった。カイエダーティストでは「UNRELEASED(仮訳:未発表)」と題されたモンテシノス未発表プロジェクト20点が紹介されている。エレナ・モンテシノス、1971年生まれ、ジュネーブを拠点に活動。 写真:ローラン・ギロー/エレナ・モンテシノス
アイコンの失敗作のようなアンドレアス・ホッホウリの絵画の多くは哀愁を帯びている。人間や人間関係、そしてそのアイデンティティーに興味を持つホッホウリの作品には、社会学や音楽、美術史にまつわるメッセージが込められている。コンピューターの画像プログラムと絵筆を合体させた技法で描く絵画を通し、記号とその文化的背景を探求する。アンドレアス・ホッホウリ、1982年チューリヒ生まれ、ジュネーブを拠点に活動。 2021年版カイエダーティストより


マリー・マトゥスが白黒写真に収めたのは、彼女の曾祖母の家だ。所狭しと飾り付けられた部屋の壁のあちこちには、古典絵画のレプリカが掛けられている。写真の日付は1994年になっているが、この技術的なミスは、作品の中で時間と空間の消失に関する哲学的な問いに思いを巡らすマトゥスの心を引き付ける。マリー・マトゥス、1994年トゥールーズ生まれ、バーゼルとジュネーブを拠点に活動。 「To See and to Be Seen(仮訳:見ることと見られること)」、アナログ写真、2016年撮影


読書熱心なドロタ・ガウェッダとエグレ・クルボカイテは、創作活動に様々な情報源を利用する。現在のところ西洋の学術的な書籍とは距離を置き、口承文学やその他の一般的な情報源―例えば神話や魔法の実践に関する言い伝え、魔女裁判の記録などから―題材を得ているようだ。作品の主なテーマは、人間と自然やテクノロジーとの関係、及びジェンダー問題。ドロタ・ガウェッダ、1986年ポーランドのルブリン生まれ、エグレ・クルボカイテ、1987年リトアニアのカウナス生まれ。共にバーゼルを拠点に活動。 写真左:ビデオの静止画。写真右:インクジェットプリント、コピー用紙、©The arits
ローマン・ギシンは装飾品にこだわり、日常生活にあるキャンプ的な要素に美しさを見出す。作品の多くは、下書きの段階で突然変異したオートクチュールのデザインのような印象を受ける。カイエダーティストでは、ファッション誌やインテリア誌のデザインからインスピレーションを得て、器用に手作業で作った作品と写真が対話形式で紹介されている。ローマン・ギシン、1984年メーリン生まれ、チューリヒを拠点に活動。 「Hanging out with strangers 4(仮訳:見知らぬ人との交流 4)、2019年、木材、布、接着剤、チョーク、金属、195×115×10cm
ラマーヤ・テジェネの目標は、アーティストの労働条件を改善し、適切な報酬を実現することだ。それはテジェネのアートにも反映されている。アート業界における支配と権力構造のメカニズムを明らかにし、それに代わる公正な経済体系を求め活動を続ける。カイエダーティストでは、これまでのプロジェクトが実際の会計明細も併せて紹介され、テジェネの芸術活動の概要が分かる構成になっている。ラマーヤ・テジェネ、1985年ジュネーブ生まれ、ジュネーブを拠点に活動。 「Shermans (Drag)(仮訳:シャーマン)」、2018年、写真:アニック・ヴェッター、バージョン6:マイク・ケリー、トニー・アウスラー、アニータ・パーチェ、2014年、写真:アナイス・デファゴ
民族誌的な調査方法に触発されたというノハ・モフタールの作品は、写真、インスタレーション、オブジェなど多岐に渡る。建築空間やオブジェが、権力の様々な体現化とどのよう関わっているかを探る。カイエダーティストでは、自分が撮った写真に、どこかで見つけた写真やオブジェ、短いテキストを添えて紹介している。ノハ・モフタール、1987年ジュネーブ生まれ、チューリヒとニューヨークを拠点に活動。 左:壁枠、2016年、ルーカス・ウールマンと共同制作:「Meaning Can Only Grow out of Intimacy」、ローザンヌ。右:「Colonel Astral」、2020年

8人のカイエダーティストは、9月20日~26日までメッセ・バーゼルで開催される「2021年スイス芸術大賞他のサイトへ」で紹介されている。

(独語からの翻訳・シュミット一恵)

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