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スイスに根付く生け花

生け花
スイスでも生け花は親しまれている swissinfo.ch

日本の生け花がここスイスにも根付いている。日本では生け花人口が年々減っているが、スイスも例外ではない。 

10月末、バーゼル・ラント準州シッサッハのアトリエ。4人の女性が花を手に机に向かっている。生け花の流派の1つ、未生(みしょう)流の指導者レグラ・マイヤーさんの教室の生徒たちだ。 

生け花には集中力が求められる。アトリエ内が静かなのはそのためだ。ハサミでパチン、パチンと枝を切る音だけが響く。 

この日の課題は「盛花」の斜型と呼ばれるスタイルだ。平たい花器に剣山を使って花を生ける。マイヤーさんが用意した花材はヒペリカム、オータムアスター、バーネットの3種類。それぞれを決まった角度で3方向に向くように配置しなければならない。生徒たちは慎重に、一つ一つの花材を剣山に刺していく。 

「右と左の花の高さがこんなに違っていてはだめ。バランスが崩れている」。マイヤーさんが生徒の作品を見て回りながら、時に厳しくアドバイスする。約30分後、全員が作品を完成させた。 

生け花教室
生徒にアドバイスするマイヤーさん(右) swissinfo.ch

マイヤーさんの教室は月1回。生徒のウルスラさんは、5年前からマイヤーさんの下で習っている。ウルスラさんは英国に住んでいたとき、趣味でフラワーアレンジメントを習っていた。スイスに帰国後、フラワーアレンジメントの教室を探していたところ、知人からマイヤーさんのことを聞いて興味を持ったという。 

700年の歴史 

生け花の歴史は6世紀頃にさかのぼる。そのころ仏教が日本に伝わり、仏前に花を備える風習が一般化した。これが生け花のルーツと言われているが、現在のように床の間に花を飾るようになるのは室町時代(1336〜1573年)に入ってからだ。書院造りの建築様式が生まれ、床の間に中国から持ち込まれた絵画や器物、花を飾るようになった。 

和室
日本の伝統的な和室。床の間に掛け軸や生け花を飾る photoAC

日本最古の流派、池坊(いけのぼう)はこのころに誕生した。明治時代(1868~1912年)には西洋の洋花を積極的に取り入れた小原流、20世紀に入ると自由なスタイルで知られる草月流が生まれ、これがいわゆる3大流派と言われている。 

日本いけばな芸術協会によると、この700年の間に誕生した流派は260超に上る。 

女性の教養の1つというイメージが強いが、華道とも呼ばれる生け花は男性中心の文化だった。だが明治維新後、政府が女子の教育科目に華道を取り入れ、昭和(1926〜1989年)に入ると、花嫁修行として習う女性が増えていった。 

生け花は日本国外にも広がった。1956年、世界のいけばな愛好家をつなぐ非営利文化団体「いけばなインターナショナル外部リンク」(本部・東京)が設立。世界各国で定期的に国際会議や生け花展を開催し、伝統文化の普及に努めてきた。現在、世界50カ国に160支部があり、7500人の会員が活動している。 

引き算の美学 

スイス人のマイヤーさんは1970年から10年間、夫の仕事で日本に滞在。東京で2年暮らした後、兵庫県神戸市に引っ越し、そこで生け花の教室に通うようになった。友人に誘われたのがきっかけだったという。 

レグラ・マイアーさん
レグラ・マイヤーさん swissinfo.ch

「自然を題材にした芸術という点に魅了された」とマイヤーさんは言う。10年後、指導者の資格を取得。いけばなインターナショナル神戸支部の会員になった。スイスに帰国して3年後、シッサッハのアトリエで生け花教室を始めた。 

西洋のフラワーアレンジメントが「足し算」の美学なら、生け花は「引き算」の美学だとマイヤーさんは言う。生徒のウルスラさんは「生け花は何もない空間も重要な要素。できるだけたくさんの花で空間を埋め尽ようとする西洋のフラワーアレンジメントにはない考え方」と話す。 

極東の文化であること以外の要素も、スイス人を惹きつけているようだ。いけばなインターナショナル・ジュネーブ支部のテルエ・ジルガル代表は「究極的な心の静寂を得ようと、瞑想やリラックス目的で生け花を学ぶ人もいる」と話す。 

高齢化の波 

いけばなインターナショナル・チューリヒ支部は1980年代に発足。マイヤーさんは発足当初に代表を務め、その後地元のバーゼルに支部を設立した。ジュネーブはもっと早咲きで、1969年から支部がある。最も多いときで国内の会員は400人に達した。 

日本では1980年代をピークに、生け花人口が減少している。指導者や生徒の高齢化に加え、女性のライフスタイルの多様化も、700年以上の歴史を持つこの伝統文化に影響している。 

スイスでも、生け花のコミュニティは縮小しているとマイヤーさんは言う。国内3支部の会員のほとんどは定年退職後の女性だ。会員数は半分の約200人にまで減ってしまった。 

マイヤーさんは「生け花インターナショナルの国際会議では、どうすれば新たな会員を獲得できるかが常に議題に上がる」と言う。地元の小学校を訪問して生け花をPRしたり、家族や友人を教室に招いたりと、各支部ができる限りのことはしているという。 

「できるだけ多くの展覧会やワークショップを開催し、より多くの人に生け花を知ってもらうことを続けていかないと」とマイヤーさん。50年以上、生け花に打ち込んできたマイヤーさんにとって、この伝統文化が廃れていくのはこの上なく悲しいことだと言う。 

編集:David Eugster 

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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