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EU拡大にスイスが思うこと

EU拡大に伴って、スイスに安価な労働力が流入するのではないかと懸念されている。 swissinfo.ch

EUとの人の行き来の自由化については、スイス-EU間による条約で、認めれれている。しかし、5月1日からEUがチェコやポーランドなど中東欧に拡大するにあたり、スイスの態度は慎重で、新しいEU加盟諸国からの人の流入に関しては、7年間の猶予期限をもうけることにした。

中東欧諸国からの人の行き来を認めると、スイス国内へ安い労働力が流入するという好ましくない影響が懸念されるためで、即刻の自由化には右派も左派も反対している。

EUの非加盟国であるスイスは、これまでEUと二国間条約を結び、EU諸国との格差を縮めるよう努力してきた。人の行き来については、現在のEU15カ国とは自由化され、労働者の流入も段階的に認めてゆくことで合意している。しかし、EUが中東欧へ拡大すると、安価な労働力がスイスに流入する懸念があると、これまでの人の行き来の自由における条約の見直しを主張する意見がある。

排他主義の懸念や雇用市場における懸念

 4つの政権党の中でも右派の国民党はEU拡大の前に、スイスはEUと新たな交渉をすべきであるとの意見だ。しかし、国民党の主張は、ジュネーヴ大学政治学科のルネ・シュヴォク教授から見ると非論理的で、「中東諸国からの侵入は受け入れられないという表現からして排他的」と同教授。「一瞬にして千人単位の人間がスイスに押し寄せるかもしれないということ自体非論理的だ」と指摘する。 一方、労働組合からも、労働賃金のダンピングが起こるのではないかという懸念の声があがっている。「他の欧州諸国と違い、スイスは最低賃金が法律で定められていない。業種別の組合が雇用者と申し合わせて契約をすることはあるが、すべての労働者がこの恩恵にあずかっているわけではない。政府によるダンピング防止策が必要であろう」とシュヴォク教授は、労働組合の懸念には理解を示した。

大量の移民が流入するという懸念の現実味

 現在のEU加盟国でもEU拡大による移民の流入に、スイスと同じような懸念を抱く国があり、実際現EU諸国への人の行き来の自由については、向こう2年間の猶予期限が設けられている。

 一方、英国のダイアナ・ヴァリス欧州会議議員は、こうした懸念は根拠のないものという意見である。「現在、スイスや現EU諸国へ移民が流れ出る理由となる社会的状況はない。調査でも同様の結果が出た。スペイン、ポルトガル、ギリシャがEUに加盟の際にもこうした現象は起こらなかった。好景気であれば市民は自国に留まりたいと思っているものだ」と語る。

暫定期間を設け、受け入れには慎重

 中東欧からの移民の受け入れについては、7年の暫定期間を設けることで合意しているものの、EUが拡張する今年5月1日からにするのか、それ以降にするのかの話し合いがなされていない上、段階的な受け入れの具体的方法もまだ検討中である。

 しかも、たとえ政府が条件を決めてもスイスへの外国人の流入を懸念する国民党などが反対し、国民の署名を集めてレファレンダムが成立することも考えられる。国民の審議を通し、7年間の暫定期間後に実施される案が否決される可能性もある。

スイス国際放送 ジョナタン・サマートン (佐藤夕美 (さとうゆうみ)意訳) 

5月1日にはEU加盟国がこれまでの15カ国から25カ国に拡大する。
現EU加盟国15カ国との人の行き来の自由化については、第1条約で取り決められ、02年6月1日に発効。
EU拡大に伴い、中東欧諸国からの人の流入受け入れについては7年の暫定期間を設けることで合意した。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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