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IV アルプス -9-

人々の生活

 一月も半ばを過ぎると外来客はほとんど去って、村は静かになる。村の生活は元の地味なものに帰る。おしなべてスイス人の生活の趣味は簡素であるように見える。勤勉で質素な彼らは、高級な絹織物とか、刺繍とか、精密な機械とか、優れた乳製品や薬品を作るが、多くは輸出されるものであって、自分たちは贅沢を好まない。通貨は安定し、国民所得もヨーロッパの高水準に達していてそうなのである。いろいろの要因もあろうが、私には風土的要因も大きいと思われる。大部分が山岳地帯に住む人々にとっては、気持も精緻で勤勉なのが、最も安定した生活態度となるのであろう。ホテル経営にしても、スイス人は世界で最も巧者であるとの定評があった。宿の主人ボス氏にそのこつを聞いたとき、観光事業は親切が半分だといった。つましい旅行者をも心置きなく楽しませるので、どの宿も戦前からの常連が多い。一週間以上の逗留客にはパンション制があって宿代を割引もする。セントラルヒーティングもなく、客室には給湯給水の設備もない時代であったが、どんな田舎の宿屋に行っても徹底して清潔であり、食物も勝れておった。
 ベルンとかチューリヒのような都会ではアパート住居であるが、一歩郊外や農村に出ると住居は木造のシャレーが多い。木造の二、三階建の緩やかな勾配の屋根をもった建物で、山村では屋根の上に石を置いてある様子は信州の家と変りない。花の季節には、どの家の窓にも赤いゼラニュームの鉢植が飾られる。スイス人はゼラニュームが余程好きと見える。
 スイスの男子は年齢の制限はあるが、みな兵役の義務をもっている。ブラヴァンド君も訓練に何日間か出ていった。そして鉄砲はみな個人の家に持ち帰って保管している。間違いの起ったことはないそうである。といえば刑務所の屋上に国旗が立つことがあるという。これは受刑者皆無を意味すると聞いた。
 ブラヴァンド君がベルン州のプレジデントをしているとき、私はその家の客となったが、精々四間の小さなアパートであって、朝八時、私が寝ている間に出勤していた。このプレジデントになる前、連邦の建設大臣を勤め、国内の道路、学校、病院、発電所などの建設を司っていた。アルプスのグリムゼルに大きな発電所を山腹の中に作ったが、現場視察に行っても、現業員は大形な出迎えなどせず、仲間同士平常の調子である。スイスには勲章の制度はない。アメリカ人はエリート意識が少ないと思ったが、およそスイス人ほどエリート意識をもたない国民は他にないだろうと思った。スイスは自国民もそうであろうが、外国人にも肩の凝らない国である。

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