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JSA 北緯38度線

韓国兵が境界線を監視 swissinfo.ch

大韓民国 ( 韓国 ) と朝鮮民主主義人民共和国 ( 北朝鮮 ) の軍事境界線、北緯38度線には今も兵士が駐屯し、境界線を監視し続けている。ここにはスイスからも平和監視軍が派遣され、平和維持に一役買っている。

筆者はこの非武装地帯を訪れ、派遣されている5人のスイス兵の1人に会った。

 「これからJSA ( 共同警備区域 ) に入ります。わたしの指示に厳格に従ってください。銃撃が開始される可能性はいつでもあります」とガイド役の兵士が注意する。

非武装地帯でにらみ合う兵士

 1953年に朝鮮戦争の休戦協定が締結した後、スイスとスウェーデンの平和監視軍が板門店に駐屯している。JSAは約800平方メートルの広さだが、唯一北と南の直接の接点となっている。ここは北朝鮮・中国両国軍と国連軍との休戦協定の調印があった場所に近い。

 1984年、ソ連大学生が板門店の境界線を越え南に亡命しようとし、北朝鮮軍と国連軍の発砲となり4人が死亡するという事件を最後に、現在のところいたって平和に見える。しかしここは、北と南の和平が訪れない限り、非武装地帯 ( DMZ ) が南北を分ける境界線だ。

 休戦交渉があった小屋の向こうには、やや大きめの2つの建物と物見の塔が向かい合って建っている。境界線には双方の兵士がずらりと向かい合い「敵」を無言でにらみつけている。時には、双方がたった30センチの距離で接近し、どちらかが境界線を越えると、すぐ撃ち合える体制になっている。

監視兵権外交官

 「攻撃されそうだと感じることはありませんが、この地帯を非常に重要だと思っています。ここでは危険が現実のものとしてあり、軽視できません」
 とスイス平和監視軍指揮官のゲルハルト・ブリュッガー少将は言う。ブリュッガー少将と4人のスイス将校と5人のスウェーデン兵はJSAから数メートル離れた場所で生活し任務に携わっている。スイスは永世中立国として、54年もの間この地域に平和監視軍を派遣してきた。

 「休戦協定で定められているように、われわれの任務は協定における双方の合意が守られているかどうかを確かめることにあります。ここに駐屯し、情報を交換し、報告書を作成し、1日に最低1度JSAに入り、全員が休戦状態にあることを確認します」

 スイス兵は1960年から非武装で、監視兵兼外交官という立場にある。
「われわれの存在は象徴的なものであり、われわれがここに居るということに意味があります。ソウルなどJSAから遠いところに駐屯しても意味がないのです」
 ブリュッガー少将はここに駐屯してすでに3年になる。

天国の静寂

 平和監視団の宿舎は北と南の境界線の近くにある。静かだ。牧歌的とさえいえる。しかし、散歩に出ようと思うならはっきりと表示のある小道以外は歩かないことだ。地雷がいたるところに埋まっているからだ。

 任務を熱心に遂行するマルクス・フィッシャー少佐は「天国の静寂」とこの地を形容する。
「自然の真っ只中での任務です。インフラも充実していますし、都会のソウルまで車で1時間です。個人的にいえば、ここに来てとても満足しています」
 
 来客は世界でも最も厳格な境界線から10メートル離れたところに宿泊する。屋外ではオレンジ色のライトが、朝鮮半島につけた生傷のように、南北を分断するフェンスや有刺鉄線を照らし出す。木々の向こうから聞こえてくる野生のガチョウと発電機のモーターの音を別とすれば、何も聞こえない。ここでは平和を実感するが、しかしその平和は「偽りの平和」でもあるのだ。

 平和監視軍は当初、休戦協定を経て結ばれるはずの平和協定が締結されるまでの時間の限られた任務と考えられていた。しかし、それから54年間が過ぎ去った今も、交渉が再開されるめどはまったく立ってない。スイス軍の駐屯もいつ終了するのかは分からない。

 「スイス軍がいなくても、DMZの安全状況は変わらないでしょう。しかし、平和協定の調印前に撤退することは、政治的に悪い影響を与えることになります」
 とブリュッガー少尉は言う。平和監視軍は休戦協定のきわめて重大な要素と少尉は見ている。もし駐屯が中止されれば、休戦協定が崩壊し、その代替となるものも無く南北の対立に火をつけることになるという。

swissinfo、マルツィオ・ペスキア、板門店にて 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 訳

3年間に及ぶ朝鮮戦争の後1953年7月27日、北朝鮮・中国両国軍と国連軍との休戦協定が調印された。
大韓民国 ( 韓国 ) は、協定履行に障害は無いとしながらも調印を拒否した。休戦協定とそれに付属する合意が取り交わされ、韓国と北朝鮮は現在も休戦中となっている。

休戦協定により北と南を分かつ境界線と非武装地帯が設定され朝鮮半島は2分された。また、平和監視軍の派遣も定められ、ポーランド ( 1993年まで ) 、スウェーデン、チェコスロバキア、スイスが駐屯することになる。チェコスロバキアも自国が2分したことから、象徴的な意味しかない。スイスは当初146人を派兵したが、1994年からは縮小し、現在5人の将校が駐屯するのみになっている。

JSAの様子は、韓国映画「JSA (共同警備区域JSA )」( 2001年 ) でも分かる。
監督:パク・チャヌク 
出演:ソン・ガンホ、イ・ビヨンホン、イ・ヨンエ他

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