ポルトガルのポルトからフリブールへ

冒険心でスイスにやって来たポルトガル人菓子パン職人


菓子パンに情熱を傾けるポルトガルの若いパン職人は、好奇心と働く意欲を胸に、スイスという新天地に旅立った。パン一斤一斤に思いを込めて、文化の違いを乗り越えていく。

 スイス西部の冬は身を切るような冷たい風が吹く。人々は下を向き、コートの中に身を縮めて歩いている。私は靴についた雪を払い、温かいパン屋の店内へと入った。

 「ボン・ジーア!」とカウンターの女性店員はポルトガル語で「おはようございます!」と挨拶をし、私の注文を待つ。

 クリームの入った菓子パンや甘いクロワッサン、スイスでは「ベルリナー」、その他の国ではドーナツと呼ばれることが多い揚げパン「ソーニョ」、糸状の卵菓子やクリームがトッピングされたお菓子が所狭しと並んでいる。しばし、ここはスイスだろうかと思わずにはいられなかった。

 パン屋の香りは郷愁を誘う。ブラジルでも、ポルトガル語圏の他の国でも、パン屋を営むのは決まってポルトガル人だ。この店の常連客の間にもある種の親近感がある。一方、「ボン・ジーア」に対して遠慮がちに「ボンジュール」と返し、一体どこに来たのだろうかと興味深げに店内を見回している客もいる。

 「顧客の6、7割はポルトガル人だ」とマヌエル・フェルナンド・デ・オリヴェイラ・ロペスさんは話す。ここでは、ネロ・ロペスという名前の方がよく知られている。「時々、客に挨拶をする前に顔立ちからどこの人かを店員が当てようとするが、いつも当たるわけではない」と店長のロペスさんは笑う。


スイスで3番目に大きいポルトガル人コミュニティー

 実際、スイスをよく知らない観光客や外国人は、ポルトガル人客の多さに驚く。

 スイスには、約27万人のポルトガル人が住んでいる。スイスで3番目に大きい外国人コミュニティーだ。その多くがフランス語圏のスイスに暮らす。例えば、ヌーシャテル州で最もよくある姓は、同州に伝統的な「ジャヌレ」や「ロベール」を大きく上回って、「ダ・シルバ」になった。

 ヌーシャテルに近い、ロペスさんがパン屋を構えるフリブールでも状況は似ている。フリブールやビュール・ラ・チアにある店ではポルトガル人訛りのフランス語をよく耳にする。また、通りでポルトガル語が話されているのはよくあることだ。

 隣接する国から来て、スイスで2大外国人コミュニティーを形成するイタリア人とドイツ人とは異なり、ポルトガル人はスイス人とはかなり違う文化を持つ。特に食文化は大きく異なる。しかし、年月とともに、ポルトガル料理店は、ワインセラーやフォンデュ・レストランと同じように街の一部になっていった。フリブールでもそうだ。


材料は同じでも出来上がりは違う
 「パン自体は同じだ。材料も同じだが、製パン技術や習慣に違いがある」とロペスさんはスイスでもポルトガルでも主食であるパンについて指摘する。ポルトガル人はスイス人の2倍、場合によっては3倍以上のパンを食べるという。

 「ポルトガル人は毎日パン屋へ出掛けて3~5斤のパンを買う習慣がある。焼きたてのパンを買うために日に2回行く人もいるだろう。その点、スイスでは、2~3日おきにパンを買う」

 ロペスさんは、そのようなスイスの習慣に店を合わせた。様々な小さめのロールパンとともに、大きめの全粒粉パンも売っている。レーズンや砂糖漬けの果物が入ったドイツのクリスマス用パン菓子「シュトーレン」のような典型的な季節ものも置く。

 スイスに住むポルトガル人の多くはスイスの習慣を取り入れ、数日ごとにしかパン屋に行かないようだ。もしかすると他にも理由があるのかもしれない。

 「スイスなどの外国に移住したポルトガル人はいつもお金を使い過ぎないようにしている。貯金するために外国に来ているのであって、使うためではないからだ」とロペスさんは説明する。「朝食のために毎日パン屋に来るようなことはしないで、週に1度か2度、あるいは週末だけ来る」 ​​​​​​​


スイスに来たきっかけ

 では、ロペスさんはどうして来店頻度の高い常連がより多くいるポルトガルにとどまってパン屋を開こうとしなかったのだろうか?

 「私がスイスに来たのは冒険するためだ。多くのポルトガル人がするように、何かの必要に迫られて来たわけではない」とロペスさんは話す。「スイスのチョコレートは有名で、私はチョコレートが大好きなので、その手の製菓技術にとても興味があった」

 しかし、ロペスさんが菓子パンや菓子の世界に入ったのはまったくの偶然からだ。ポルトガルでの義務教育が終わる頃、若いロペスさんは勉強をやめて、働き始めることにした。現在37歳。「製菓は最初に巡って来た就職口だった。製菓の仕事を知れば知るほどに、より専門性を身につける必要を感じた」と当時を振り返る。

 「プロから専門的な指導を受けられる場所を探し始めた。それこそが私の進みたい道だった」。かくしてポルトガル北部の小さい村出身のロペスさんは、ポルトガル第2の都市ポルトにある料理専門学校に通い始めた。


 ロペスさんはじきにオーダーメイドケーキのエキスパートになった。小さな像をあしらった立体の芸術作品だ。チョコレートを扱うことへの情熱から、ロペスさんはスイスに興味を持つようになった。

 そしてポルトガル製品を専門に扱う会社で働かないかと友人に誘われるかたちで、ロペスさんがスイスに移住する機会は巡って来た。

パン職人としてスイスで生計を立てる

 ロペスさんにとって、スイスに来ることは難しいことではなかった。勤める会社がスイスで生活できるよう取り計らってくれたからだ。会社の同僚は語学に堪能で、アパートの借り方や必要な事務手続きのやり方を知っていた。

 しかし、スイス文化について学ぶのはもっと時間がかかった。移住前、ロペスさんは旅行でスイスに来たことがあるだけだった。印象に残ったのは、雪や山、チョコレート。スイスでの日常生活については、ほとんど何も知らなかった。

 スイスで働き始めてすぐ、ロペスさんはパン職人として生計を立てることはポルトガルと同じようにスイスでも大変骨が折れるということに気づいたという。

 「ポルトガルでは働くために生きていたようなものだが、それはスイスでも変わらない」とロペスさんは話す。「空き時間はほとんどない。時間ができたときは、仕事のための勉強や研究に使う」

 「パン職人は、週7日、昼夜を問わず働く必要がある」


 時が経っても、ロペスさんはスイス料理特有の味や技術を研究し、新しい商品のインスピレーションを得ている。

 「スイスの菓子パンはあまり種類が多くない」とロペスさんは指摘する。「スイス人は少しの種類しか作らないが、その一つひとつがとても良く出来ている」

 そして、スイスには、ロペスさんも好きになったチーズがある。特にタルトやキッシュといった美味しい郷土料理に入っているチーズが好みだ。また、フリブール地方の「ヴァシュラン・グラッセ」と呼ばれるデザートに入っているアイスクリームとメレンゲとムースの組み合わせにもロペスさんはとても興味を持っている。

 ロペスさんは、スイスに来たことやパン職人という仕事を選んだことを悔やんではいない。今では7人の従業員を雇う店主として、パンや菓子パンをフリブールのレストランや市場に卸している。

 従業員や顧客を大切にし、良い仕事をすることで、スイスにいる限りついて回るホームシックや長い冬に耐える強さをロペスさんは身につけた。

パステイス・デ・ナタ

材料:


「パステイス・デ・ナタ(カスタードクリーム入りの小さいタルト)」40個分


タルト生地 

小麦粉 272グラム

塩 小さじ1/4(1グラム)

冷水 1カップ+小さじ1(207ミリリットル)

無塩バター 227グラム(室温に戻しておく)

 

カスタードクリーム

小麦粉 大さじ3(27グラム)

牛乳 1+1/2カップ(296ミリリットル)

砂糖 264グラム

シナモン・スティック 1本

水 3/4カップ(158ミリリットル)

バニラエッセンス 小さじ1/2(3ミリリットル)

卵黄 6個分(泡立てておく)


粉砂糖

シナモンパウダー

作り方 :


タルト生地を作る 

1.ドウフック(パン生地用のアタッチメント)を付けたスタンドミキサーに、小麦粉、塩、冷水を入れ、柔らかくなるまで約30秒混ぜる

2.台に打ち粉(分量外)をして、生地をたたいて正方形に成形する。生地に打ち粉をして、ラップをかけ、室温で約15分間休ませる

3.生地を延ばして、45センチ四方の正方形に成形する

4.生地の端を整える。四方を端から2センチを残して、2/3の生地に1/3のバターを塗る

5.バターを塗っていない1/3の生地を内側に折りたたむ。反対の端から1/3の生地をその上に折りたたみ、端をつまんで閉じる

6.台に打ち粉をして、生地を延ばして、もう一度45センチ四方の正方形に成形する。手順4.5.を繰り返す

7.生地を延ばして45センチ×53センチの長方形に成形する。残りのバターを生地の表面全体に塗る

8.生地を端から丸太状にきつく巻く。巻き終わったら、余分な端を落とし、半分に切る。それぞれをラップでくるみ、冷蔵庫で2時間あるいは一晩寝かせる


カスタードクリームを作る

1.ボウルに小麦粉と大さじ4杯の牛乳を入れ、なめらかになるまで混ぜ合わせる

2.砂糖、シナモン・スティック、水を小鍋で沸騰させる

3.別の小鍋で、残りの牛乳を沸騰させ、手順1.のボウルに入れ、混ぜ合わせる

4.手順2.の小鍋からシナモン・スティックを取り除き、手順3.のボウルに入れ、混ぜ合わせる。バニラエッセンスを加える。溶いた卵黄を混ぜ合わせる

5.カスタードクリームをストレイナーで濾し、ラップをかけておく


焼成 

1.オーブン皿を上段に乗せ、290度で予熱する

2.冷蔵庫から丸太状の生地を出し、軽く打ち粉をした台の上に置く。2cmの幅に切る

3.切った生地を、油を引いた12個取りのマフィン型の底に置く

4.両方の手の親指を水に浸け、生地を型の底で平らにする。さらに生地を延ばし、へりを立ち上げる

5.型の3/4の高さまでカスタードクリームを注ぐ

6.型をオーブンに入れ、生地の端が茶色になるまで約8~9分間焼く

7.焼きあがったら、型に入れたまま粗熱を取る。粗熱が取れたら型から外して、網の上に移す。粉砂糖とシナモンパウダーを振りかける

8.作業1.~7.を繰り返す

レシピの詳細こちら(英語)