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ローザンヌ国際バレエコンクール、3人で挑戦の旅

新井花奈さん(16)と阿部夏香さん(16)がローザンヌに到着したのは、コンクールが始まる2日前の1月24日夜22時。18時間もかかる旅の後だが「全然疲れていません。コンクールを楽しみにしています」と元気な声が返ってきた。2人は、アクリ・堀本バレエアカデミーの堀本美和先生に付き添われてスイス入りした。この3人の「挑戦の旅」を、スイスインフォのカメラが追った。

今年のコンクールには70人が参加する。そのうち21人が日本人。国別に見ると、ここ数年日本の参加人数がトップを占める。その理由を堀本さんに尋ねると「日本には、スイスのようにダンサーが公務員として給料の保証がある劇団やカンパニーがない。そのため、プロとして活躍したければ海外に出るしかない。ローザンヌ・バレエコンクールはそのための最高の場」と言う。

「だからと言って、コンクールで緊張してはだめと2人には言っている。楽しんで、西洋のダンスを最大限に学び、また日本人の良い所、まじめで努力家である点をアピールしてほしい」

堀本さんは、もう10年も連続してローザンヌに生徒を連れてきているベテラン。日本のバレエスクールの中では突出した存在だ。「毎年、うちでは出発前にスクールでちょっとしたセレモニーをやるんです。残っている生徒たちがそれぞれに、メッセージを紙に書いて袋に入れ、その袋をコンクールの参加者に渡す。今年夏香は、袋を開く前から、涙が出てきて泣いていた。やさしい子なんです」と話す。

おばあちゃんもお母さんもバレエを趣味としてやっていたから、自然に3歳でバレエを始めたという夏香さん。やさしい性格の中から固い決心ものぞかせこう言う。「ロイヤルバレエスクールに行きたいです。それが夢」

花奈さんは、コンテンポラリーの課題作品に「春の祭典」を用意した。彼女がこれを踊ると、まるで野獣に変身したように荒々しい。「生贄にされる人の恐怖などをイメージしながら踊っている。こんな動きが大好き。でもクラシックも大好きです」。そのためにカナダのロイヤル・ウイニペッグ・バレエスクールに行きたいと言い、プロになったら日本には戻り難くなるかもしれないが、それは承知しているとも話す。

傍から堀本さんが「プロのダンサーとしての幸せは、息長く楽しく踊れること。そのためには、カンパニーや劇団の芸術監督に気に入られることが一番大切。そして、ここローザンヌはそういう監督に会えるチャンスの場でもある。でも若いこの2人には、まだこんなことは分からないと思います」

堀本さんの話を神妙に聞いている2人。でも、頭の中は、目の前のチャレンジ「ローザンヌバレエコンクール」のことでいっぱいにちがいない。それも当然。人生ではじめての国際コンクールなのだから。
(制作:スイスインフォ、写真:トマス・ケルン、文:里信邦子)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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