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2020年9月のスイス国民投票 5つの案件

スイスの国民投票:戦闘機の新規調達は超僅差で可決

戦闘機
Keystone / Thomas Hodel

スイスで27日、国民投票が行われた。賛否が分かれていた戦闘機の新規調達は、50.1%の賛成と、超僅差で可決された。

スイスの有権者540万人(国外在住者含む)が是非を判断するのは、人の移動の自由協定の破棄、戦闘機の購入、父親の育児休業導入、子育て世帯への減税、狩猟法改正の5件。

保守派政党が提起したEUとの「人の移動の自由」協定の破棄を求めるイニシアチブ(国民発議)は否決。子育て世帯への減税も否決された。

父親の育児休業導入は可決された。

賛否が拮抗していた戦闘機の新規調達は、8670票差の超僅差で可決。同じく賛否が分かれていた狩猟法改正は、反対がわずかに上回った。

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移民は過去50年間、国内政治において繰り返し議論に挙がるテーマだ。特に、2002年に施行されたEUとの人の移動の自由を定めた協定は頻繁に登場する。今回、保守系右派の国民党(SVP/UDC)が、協定破棄を求めたイニシアチブ(国民発議)を提起し、必要な署名を集めて国民投票に持ち込んだ。スイスはEUに加盟していない。

有権者の61.7%がイニシアチブに反対。州の過半数も反対に回った。協定は今後も維持される。

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戦闘機の新規調達

連邦政府は老朽化したスイス軍の戦闘機を刷新するため、60億フラン(約6600億円)をかけて機体を刷新する方針を決定。議会もこれを可決した。しかし反対派がレファレンダムを提起し、最終決定は有権者の手にゆだねられた。

開票後は賛否が拮抗したが、最終的には賛成が50.1%に達し、8670票差の超僅差で可決された。

州別ではジュラ、ジュネーブ、ヴォー、ジュネーブ、ヌーシャテルなどフランス語圏の州が軒並み反対。イタリア語圏のティチーノ州も反対に回った。ドイツ語圏で反対が上回ったのは、バーゼル・シュタット準州、バーゼル・ラント準州だけだった。

ヴィオラ・アムヘルト国防相は27日夕会見し、超僅差の結果について「賛否が分かれる問題だったことは認識している」と述べた。連邦内閣は2021年中ごろまでに購入する機体を最終決定するという。

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父親に2週間の育児休業

連邦議会は、父親に2週間の育児休業を認める法案を可決。これに対し、保守派政党などがレファレンダムを提起し、国民投票に持ち込んだ。議会の案では、父親は子供の出産から6カ月以内に、2週間の育児休業を取得できる。これまでは父親の育児休業を保障する法律がなかった。

投票では、有権者の60.3%が父親の育児休業導入を支持した。

アラン・ベルセ内相は投票結果を受けての会見で「家族にとっては非常に良い知らせだ」と評価した。

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子育て世帯への減税

政府が上程した子育て世帯への減税案は、議会でも中産階級勢力の過半数が支持。ただ左派政党は「実際に恩恵を受けるのは高所得者世帯だけで、本当に必要なところに支援が行き渡らない」としてレファレンダムを提起した。

減税案は有権者の63.2%が反対票を投じた。

ウエリ・マウラー財務相は同日夕の会見で、連邦議会でもこの減税案は難航したとして「結果には驚いていない」とコメント。議会ではすでに、同案を土台にした新しいイニシアチブ(国民発議)があり、来年にも審議されるという。

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狩猟法改正

狩猟法改正の主な争点は、個体数が増えたオオカミの駆除に関する規制緩和だ。オオカミによる家畜被害に悩む農家は歓迎するが、環境活動家は野生動物の保護がおざなりになると反対している。

最終的には51.9%の反対で否決された。

州別ではヴァレー(ヴァリス)州、グラウビュンデン州など山間部の州で反対、逆にチューリヒなど都市部の州は賛成する傾向が見られた。

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また投票率は59.1~59.4%(提案ごと、確定値)で、女性に投票権が認められた1971年以来5番目に高い数値を記録した。スイス公共放送(SRF)によると、過去20年の投票率平均値は約45%。

州ごとの住民投票では、ジュネーブ州で最低時給23フラン(約2500円)を導入する労働組合のイニシアチブ(住民発議)が賛成多数で可決された。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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