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国民投票 -柔軟な年金受給年齢-

受給額が減らないのなら、早く引退したいと思うスイス人は多い Keystone

11月30日に行なわれる国民投票では、国民年金の受給を62歳から任意に選べることを求めるイニシアチブの是非が問われる。

労働組合、緑の党、社会民主党などが支持するイニシアチブは、これに伴う国庫の負担は少ないと主張するが、政府と連邦議会は負担増を理由に反対している。

低所得者も早期退職

 現在、女性は64歳、男性は65歳になると満額の国民年金を受けられる。また受給額の減額を受け入れれば、年金受給年齢より2年前に退職を希望することもできる。イニシアチブは、早期退職を希望する人は低所得者であり、健康上の理由を抱えた労働者が多いのが現状だと主張する。そこで、年間所得11万9340フラン ( 約959万円 ) 以下の労働者は、男女共に62歳で早期退職を認めること、さらに65歳になったら誰でも満額受給できるようにすることを要求している。

 理由としてイニシアチブ提起グループは「早期に退職する人の多くは、所得の高い労働者。普通の労働者は、早期退職すると一生、満額受給できないので、したくてもできない」ことを挙げる。10月16日のスイス通信社の報道によると、社会民主党 ( SP/PS ) のクリスティアン・ファヴラ党首は
「早期退職は高所得者の特権で、まったく不公平」
 と語った。また緑の党 ( die Grüne/les Verts ) のフランチスカ・トイシャー副党首も「現在の国民年金は柔軟性に欠け、不公平で非社会的。特に女性に不利である」と指摘した。

 イニシアチブ提起グループの計算によると、1カ月の保険金支払額を6.5フラン ( 約522円 ) 上げるだけで、採算は合うという。

政府は増額を懸念

 一方、政府はイニシアチブを支持していない。理由は、国民保険への負担増だ。「国民保険は1948年に制定されたが、年齢が当時より引き下げられてた上、スイス人の寿命は60年前より大幅に長くなっている。しかも、今後高齢者数はますます増加する見込みにある」
 という背景を上げ、年間の負担増は約15億フラン ( 約1205億円 ) に上ると算出する。

 さらに、適用される年間所得の上限である11万9340フランは、国民年金の最高限度額を受けるために最低必要な所得額の1.5倍という設定だが、9割の国民がこれに相当することを上げ、実質的な適用年齢の引き下げであり
「働ける人でも、働きたくない人が国民保険を利用することになる」
 とイニシアチブ提起グループの計算の甘さを指摘している。しかも、上限が高く定められているため、満額受給でなくとも十分退職後の生活を営める人まで対象になっていると主張している。

 イニシアチブに反対する右派政党グループも
「国民年金を維持するためには、これまで以上に人々に働いてもらわなければならない。適用年齢の引き下げは、国民年金が抱える問題をさらに深刻にする」
 というコミュニケを出している。

swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ )

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