スイスの視点を10言語で

国民議会も脱原発を採択

キリスト教民主党員の提案を採択。スイス政府の脱原発案を支持 Keystone

6月8日、国民議会 ( 下院 ) が脱原発をめぐる三つの議案を可決。スイスは脱原発の実現にまた一歩近づいた。

しかし、代替エネルギーの確保など未決の問題点は数多く、実際に原発を停止するまでの道のりはまだ遠い。

 国民議会では全州議会 ( 上院 ) に先立って脱原発をめぐる議論を行った。その結果、緑の党 ( GPS/Les Verts ) による「できる限り早い脱原発」、国民党から分離した市民民主党  ( BDP/PBD ) による「新原発建設の禁止」、キリスト教民主党 ( CVP/PCD ) による「再生可能エネルギーおよびエネルギー効率の促進」の三つの議案が可決された。

 これらの決定でスイスの脱原発が確定したわけではない。だが、国のエネルギー政策の方向転換が明白に示された。賛成票を投じたのは左派、環境保護派、中道派。

秋の総選挙にも影響

 「この決定は福島原発事故に誘発されたものだ」

 8日の国会演説ではこのような言葉が何度か聞かれた。また、複数の国民議会議員が

「スイスのエネルギー政策は福島原発の大惨事が分岐点となった。国民の大半は、事故後初めて原発の危険性に気付いた」

 と述べた。

 

 脱原発に反対しているのは保守派の国民党 ( SVP/UDC ) だ。今回の議論を秋の総選挙後に延期させようとしたが、失敗に終わった。国民党は年々支持者を増やしており、今年の選挙でもさらなる飛躍を目指している。そのため脱原発支持派は、世論が脱原発に傾く中、有権者の党離れを防ぐために議会の決定を遅れさせようとしたと国民党を非難している。

 中道派の急進民主党 ( FDP/PLR ) も完全な脱原発には反対だ。将来、原発の安全を約束できる技術が開発された場合には、再び原発を利用すべきだと主張する。脱原発反対派は、

「代替エネルギーを確保しないまま原発を廃止し、スイスのエネルギー供給と経済を危険な状態に陥れる可能性がある」

 と賛成派を批判する。

 これらの議案は16日、全州議会で取り上げられる予定だ。採択された場合は、来年、法改正について連邦議会で話し合われる。だが、レファレンダムで国民投票に持ち込まれれば、最終的に決定を下すのは有権者だ。

各紙の反応

 国民議会で脱原発が可決された翌日9日、スイスの各紙はこれを歓迎しながらも懐疑の色をあらわにした。

 チューリヒの日刊新聞「ターゲス・アンツァイガー ( Tages Anzeiger ) 」は、政治家が心底脱原発を望んでいるとは思えない様子だ。

「国民議会が決定したのは、新原発建設を断念すべきだということだけ。これは、福島原発事故の後ではいずれにしても想定できたこと」

 と批判する。

 しかし、決定したその中期的脱原発でさえも「あまり信用できない」と書く。緑の党の中には、原発だけでなく代替エネルギー源の開発にも反対する1派が存在するからだ。

 その点に注目しているのはフランス語圏の日刊紙「ル・タン ( Le Temps ) 」も同じ。ベルン州とヴァレー/ヴァリス州にまたがるグリムゼル ( Grimsel ) 峠のダムの堤高を高くする改修工事計画が持ち上がったが、賛否両論があり問題になっている。これを「再生可能エネルギーの発展を妨げる象徴」と説明する。

 チューリヒの別の日刊新聞「ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング ( NZZ ) 」は、「現存の原発が廃止となるまで、多くの新技術が開発されるだろう」と将来を読み、新原発に関する最終決定はまだ下されていないと論じる。また、エネルギー消費量を操作するための具体策に関して、中道派各党が消極的な態度しか見せないことを批判している。スイス政府は再生可能エネルギー促進の支援策として、新たな税導入や補助金の引き上げなどを検討しているが、特に急進民主党はこれらの案に難色を示したままだ。

 「今回の決定ではキリスト教民主党と市民民主党の協力の元、社会民主党 ( SP/PS ) のエネルギーを専門とする政治家が『舞台裏のプロンプター』として働いた」

 と表現するのはアールガウ州の日刊新聞「アールガウアー・ツァイトゥング ( Aargauer Zeitung ) 」だ。そのため、左派の現実政治が大勝利を収めたとみている。

( 独語からの翻訳・編集、小山千早 )

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部