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国立博物館特別展 −微妙な使命を負って−

第2次世界大戦中、在ベルリン・スイス大使館に掲げられていた国旗。展示会企画者マイヤーさんのお気に入りの1品 Landes Museum, Zurich

現在、スイス国立博物館 ( Landesmuseum ) で開催中の「微妙な使命を負って−スイス外交史 ( In Heikler Mission - Geschichten zur Schweizer Diplomatie )」はユーモアに富んだ展示会だ。

スイスの外交史となると、スイスの歴史を知らなければこの展示会は理解できないと倦厭 ( けんえん ) するかもしれない外国人のために、企画者のパスカル・マイヤーさんに特別案内を頼んだ。

展示会場に入った途端マイヤーさんは一瞬首を傾げた。「スイス史を深く知らない日本人のためにということになりますと、これがまず面白いかもしれません」と見せてくれたのが、こげ茶に変色した大きな地球儀だ。

傭兵派遣の金杯の賄賂

 スイスの大使たちが「次はどの国に派遣されるのか」と思いをはせた象徴としての展示か?そうではなく、これは「州間の取引」のシンボルなのだという。始めはザンクトガレン州の図書館にあったが、チューリヒ州がその所有権を主張して対立し、地球儀は2つの州を行ったり来たりした。この展示会にとって、スイスの外交は州間の取引から始まったというわけだ。
 
 次にマイヤーさんが示したのは、豪華な金杯だ。「外国からのこれは賄賂です」。勇敢だと人気があった傭兵の派遣をスイスに依頼する賄賂だという。また、スイスはヨーロッパの中心に位置していたことから交通の要地でもあり、通行を優遇してもらうためにも各国大使が賄賂を贈ったという。

 スイスが外交らしい外交を初めてしたのは、30年戦争後の講和条約の時。1648年にウェストファリア条約でスイスの独立を認めさせたのは、バーゼル州知事ヨハン・ルドルフ・ヴェトシュタイン ( 1594〜1666年 ) だ 。彼の肖像画の向かいに飾られている金杯は、ひときわ目立つ。その偉業を褒め称え、彼にバーゼル商工団から贈呈された物だという。もちろん賄賂ではなく「金杯は共和主義者の間で酒を飲み交わすという習慣を象徴したもの」というマイヤーさんの説明だ。

外交の成功と失敗

 スイスの外交で「成功したもの」が赤十字国際委員会 ( ICRC ) の設立。1864年に締結した第1次ジュネーブ条約の審議の模様が油絵で展示されている。当時は、デュフォー将軍の邸宅のサロンで、14カ国の代表が思い思いにソファーに着いたり立ったりして討議したことが分かる。
 
 一方「失敗だった外交と言えるのは、第2次世界大戦」と語るマイヤーさんは、ぼろぼろになったスイス国旗の前に立った。戦時中、ベルリンのスイス大使館に掲げられていた国旗だ。永世中立ということも、大使館の治外法権も無視され、ソ連軍によりドイツ国議会 ( Reichstag ) の隣にあったスイス大使館が襲われた。1945年1月に大使館員の多くは帰国していたが、残留した職員はソ連軍の捕虜となった。後に解放された職員は、スイスの国旗を抱えトルコを通って祖国に帰ってきたという。これまで同博物館に保管されていたが、1度も展示されなかった一品だ。

 「中立国として信頼され、困った人を保護してくれる国としてスイスを象徴する展示品として」マイヤーさんが選んだのが、オーストリア皇后エリーザベートがスイス内閣に託した彼女の日記。「皇后は自国オーストリア政府を信用できず、スイスに日記を託しました」。死後60年に公開された。「詩のほか、政治思想も書かれていましたが、たいした価値はありませんでした。この日記が注目されたのは、ロミー・シュナイダー主演の映画『エリザベート』が作られてからです」

 1950年代から1980年代まで、スイスが国際交渉の舞台として使われたことも、スイスにとって成功外交の1つだという。例として1985年のゴルバチョフ大統領とレーガン大統領の会談の写真がある。冷戦の終結の舞台となったのは、ジュネーブだったと示す。要人を迎えるスイスのフルグラー大統領 ( 当時 ) が笑みをいっぱいにたたえている。国際交渉の補助役を務めるうれしさからだろうが、国際舞台の主人公にはなりえない小国スイスを象徴する。

 そのほか、朝鮮半島の北緯38度線を朝鮮戦争以来、外国の代表者として初めて歩いて越えたミシュリン・カルミ・レ現外務大臣兼大統領の赤いズック靴 ( もちろんスイスの国旗がついている ) や、1950年まで使われていた大使の制服の数々。派手な外交を好まないスイスにあって、「きらびやかな社交」を好んだ在ベルリン大使夫人のドレスなども必見である。

swissinfo、 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ )

スイス国立博物館 ( Landesmuseum Zürich )
Museumstrasse 2
電話 +41 44 218 65 11
Infotel +41 44 218 65 65
開館 火〜日曜日 10〜17時まで
「微妙な使命を負って」は9月16日まで
特別展の入場料は10フラン オーディオガイドあり ( 無料 )

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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