民主主義に甘やかされているのか、スイス人
4年に1度ある連邦議員選挙に投票に行くのは有権者の4割にとどまる。国民投票の投票率はそれ以下。ヨーロッパ諸国と比較してもスイスの投票率は低い。
スイスは直接民主制の国として、国民が積極的に政治に参加すると思われているが、投票しない人が多いのが実状である。なぜか?
ヨーロッパ諸国の議員選挙や大統領、首相選挙の投票率は、50%から90%に上る。フランスの大統領選挙の投票率は85%だった。スイスで80%以上の投票率であったのは1919年のこと。以来、投票率は徐々に下がり、過去20年間で見ると42~46%の間で上下している。
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民主主義に満腹
スイス国民は「民主主義に満腹」しているのだろうか。スイスでは直接民主制が敷かれ、イニシアチブやレファレンダムが多くあり、年に3、4回も国民投票や州民投票が行われ、国民は積極的に政治に参加していると思われているはずなのだが、実状は異なる。
政治学専門のヴェルナー・ザイツ教授は「ほぼ3カ月に1度、国民投票があり、国民は疲れ気味だ。他国のように4年に1度の投票だけであれば、スイス人ももっと投票に行くだろう」と認める。スイスでは、半世紀にもわたり、政権党である4つの政党がお互いの意見を調整しあって政治を行う合議制で政治が行われていることも、投票率の低さの理由だという。「スイスの政治は合議制のおかげで非常に安定しているが、そこには国民の倦怠感も否めない。他国では投票が直接政治を動かす原動力となるが、スイスではその力が欠ける」とザイツ教授は指摘する。
「ただし、欧州経済圏 ( EEA ) への加入問題や軍隊の廃止を求めたイニシアチブによる国民投票など重要案件については、国民の関心度も高く投票率も70%以上になることも忘れてはいけない」とザイツ教授は言う。投票率はケースバイケースであり、スイスの民主主義は機能しているのだという。
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社会階層の違い
連邦統計局の調査によると、若者より年配者、低学歴者より高学歴で専門職に就いている人のほうが投票に行くことが分かっている。「スイスの民主主義は、中産階級に支配されている。政治システムの質が高いことの証でもある」とザイツ教授は分析する。
投票率を上げるため、ザイツ教授の提案は、政治への参加層に偏りができないよう、政治家や政府がすべての国民に語りかけ、各政党はその政策をはっきりと説明することだという。インターネットなどを使うことで投票率を上げるという試みは、結局高学歴の国民に向けたものであり、大幅に投票率が伸びるとは期待できないとみる。
投票率が結果を左右するのか?
だんまりを決め込んでいる若者や低学歴者が定期的に投票をしだした場合、結果にどのような影響が現れるのであろう。「長い間、投票者の層が広まるにつれ左派がその恩恵を得ると考えられてきた。低収入者が左派的政治を支持すると思われてきたからだ」と言うのはベルン大学政治学科のゲオルク・ルッツ教授だ。
こうした予測は、以前のスイスであれば正しかったかもしれないが、現在は通用しないという。社会的な非優遇者は現在、右派の国民党 ( SVP/UDC ) に投票する傾向にあるからだ。いずれにせよ「投票に行く人が国民全体の意見を代表しているとみなすことができる。投票に行かない人は、そもそも政治に興味がなく、政党の主張が分からないからだ、投票しない人が投票したとしても、結果に大きな影響はない」とルッツ教授はいう。
swissinfo、アルモンド・モンベリ 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 意訳
<各国の近年の投票率>
日本参議院議員選挙 ( 2007年 ) 59%
フランス大統領選挙 ( 2007年 ) 85%
イタリア国会議員選挙 ( 2006年 ) 83%
オーストリア連邦議員選挙 ( 2006年 ) 75%
ドイツ連邦議員選挙 ( 2005年 ) 77%
スイス連邦議員選挙 ( 2003年 ) 45%
20世紀初頭は20歳以上の男性に限って参政権があった。当時の投票率は約80%だった。
第2次世界大戦以降、投票率が徐々に低下していった。過去20年間の投票率はおよそ42~46%の間で上下しているが、国民の関心が高かった国民投票では78%を記録した。
1970年に女性の参政権が認められ、1977年には在外スイス人の投票も可能になったが、投票率に大きな変化はなかった。
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