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山が「少し」動いたスイス総選挙 結果分析

Keystone / Samuel Golay

10月20日に実施されたスイス連邦議会総選挙は、環境派と女性が勝者となった。これは今後のスイス政治にどんな意味を持つのか?

緑の党と自由緑の党が議席を伸ばしたのは、多くのスイス国民が緑豊かな国土を将来に受け継いでいく政治を望んでいる表れだろう。緑の党のレグラ・リッツ党首は選挙開票番組で「国民が政治のさらなる緑化を求めているのは明白だ」と強調した

地球規模で見れば、気候変動に対し小国スイスができることは決して大きくはない。だが環境を守るためにスイスが持つ知識と技術は多く、何より新しい道を踏み出せる方法がこの国にはたくさんある。有権者はそれを今回の総選挙で示した。多くの国では気候政策をとる余裕がない中、スイスは実行に移すことができる。スイスは他の国の手本、そして実験室になることができる。


政治変動に関していえば、スイスの議会構成が大きく変わることはほとんどない。だが今回、緑の党と自由緑の党が全州議会(下院)で計26議席増やし、議席占有率は選挙前より13ポイント拡大した。変化に乏しいスイス議会に、革新的な力が与えられた。最大の敗者となった国民党は12議席を失った。新興の極右政党が躍進し大政党に揺さぶりをかける欧州周辺国に比べれば微々たる変化だが、スイス議会史においては歴史的な大変動だ。 

多くの有権者は、これまでの議会に失望してきた。国民議会(上院)と下院の両議員はレファレンダムへの恐れから、医療保険料の高騰や圧迫される老齢年金財政、欧州連合(EU)との2国間枠組み条約など、国内に山積する課題の解決を先送りにしてきたからだ。それでも議会構成が大きく変わらなかったのは、スイス国民が明確な方向転換を求めながらも、これまでと同じように小さな歩みを重ねながらの政治を望み、革命は期待していないことの表れだ。

それでも、刷新された議会では暗礁に乗り上げていたEU関係や医療保険料問題が再び帆を上げることになりそうだ。社会政策にも追い風が吹いた。最も影響を受けそうなのは二酸化炭素(CO2)法を巡る議論だろう。新議会に対する要望は「適切な妥協点を探る議会に戻る」ことだ。

新しいスイス議会には多くの難題が待ち受けている。最大の問題はEUとの枠組み条約だが、選挙戦ではどの政党も火傷を恐れて論戦を避けた。急速に進む地球温暖化と生物多様性の危機に対しても、対応は待ったなしだ。だがどのテーマも、抜本的な解決策は見つかっていない。それどころか、解決策を探すことさえ始めていない。

人口動態も変化している。高齢化が進み、世代間に亀裂が生じている。デジタル革命で既存の職がなくなり、二極化が進む。都市・地方間の格差も広がる。農業や医療保険、金融政策は袋小路に入り込んでいると言っていい。

スイスがこれほど岐路に立たされていることは今だかつてない。問題から目を背ければ、4年後の総選挙で報いを受けることは必至だ。

今年6月にスイス全土で行われた女性ストライキでは、約50万人が女性の地位向上を訴えて街を歩いた。総選挙に出馬した女性も過去最多で、上下院とも女性議員比率の飛躍的な上昇が見込まれる。下院では32%だった女性比率が42%に伸びた。上院では46議席中女性は6議席だけだったが、11月以降の決選投票を経て3~4議席増える見通しだ。

州レベルでも歴史的な結果となった。オプヴァルデン準州とツーク州が初めて女性議員を連邦議会に送り込むことになったのだ。女性議員の割合が増えたのは少なくとも7州。政治団体オペレーション・リベロの共同党首フラヴィア・クライナー氏は大衆紙ブリックのインタビューで、選挙戦で女性の地位向上が環境に次ぐ重要争点となったことは、スイス社会の「意識の高まり」を象徴すると語った。「男性が我々に好意的なだけでは不十分だ。男性が女性を代表することはできない。男女が等しく代表されていれば、民主主義は向上する」

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閣僚を選出する選挙では毎回何らかの変化が起こる。今回選挙の最大の勝者、緑の党のレグラ・リッツ党首は、7人の閣僚のうち1ポストを獲得したい意向を述べた。新たな議席配分を考えればまっとうな要求だが、4大政党は「緊急性を欠く」とにべもない。スイスでは現職の閣僚を退任させる仕組みがないからだ。選挙結果も最終的な確報を待つ必要がある。今言えるのは、議会が中道左派になっても内閣が右寄りのままというねじれ状態が生じていることだ。閣僚の12月の閣僚選挙まで、政党間の激しい椅子取りゲームが続きそうだ。

(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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