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「落選を恐れる人間は、政治に携わるべきではない」

Bundesrätinnen und Bundesräte 2019
© Keystone / Peter Klaunzer

12月11日のスイス閣僚選で、緑の党のレグラ・リッツ党首は閣僚ポストの獲得を目指す。となると閣僚ポストを明け渡すのはどの政党か?最も危うい立場にあるとされているのはイグナツィオ・カシス外相。だが政治専門家はカシス氏が落選する可能性は低いとみる。


「マジック・フォーミュラー(魔法の公式)」はまだ通じる?

政党政治におけるいわゆる「マジック・フォーミュラー(魔法の公式)」の意味合いについては政治家もメディアも一致していない。連邦閣僚の7ポストは1959年に急進民主党外部リンクキリスト教民主党外部リンク社会民主党外部リンクから2人ずつ、国民党外部リンクから1人という配分に初めて定まった。

公式を考案した国民党のマルティン・ローゼンベルク元事務局長がこのツールを正当化したのは、これによって「支持率のあるた主要政党を協力体制へと導くことで、全ての政治勢力が国民と国民の利益のために働くよう差し向ける」ことになると考えたからだ。約30年間、公式は不動だったが、2003年に議会の勢力図が大幅に変わったことで、公式も適応させる必要ができた。配分は2:2:2:1のままだったが、最大勢力になった国民党はキリスト教民主党から閣僚1ポストを奪った。

今、公式がもはや適合していないと指摘する政治専門家は多い。だが適切な代替案は見つかっていない。

10月の総選挙で、緑の党は第5勢力に躍り出た。同党は内閣でもポスト獲得を狙うが、中道や右派政党は環境系政党の入閣を支持していない。理由に挙げるのは、1959年から定着している「マジック・フォーミュラー(魔法の公式、コラム参照)」。閣僚7人をどの政党に割り振るかを定める不文律だ。政治学者のミヒャエル・ヘルマン氏は柔軟な解決策を提唱する。

swissinfo.ch:人気のある緑の党のレグラ・リッツ党首は閣僚ポスト獲得を狙っています。彼女が立候補することに正当性はあるのでしょうか。

ミヒャエル・ヘルマン:もちろん。緑の党が立候補する理由は十分にある。得票率だけでなく、上院で5議席増やすことに成功した。これまで、下院だけで勢力を伸ばしたという主張では閣僚ポストは拒否されていた。

swissinfo.ch:誰が閣僚ポストを明け渡すことになるのでしょうか。

ヘルマン氏:最も疑問視されるのは、次のような現状だ。右派政党の急進民主党や国民党が議会の過半数をはるかに下回る。それにも関わらず、この2党が閣僚4ポストと過半数を握っている。

ただ国民・急進民主党が内閣の過半数を占めるのは例外的な状況と言える。魔法の公式が固まった1959年以降、ほぼ一貫して中道のキリスト教民主党が内閣のキャスティングボートを握ってきた。同党が急進民主党や国民党と組んで過半数をとるか、左派の社会民主党と組んで過半数をとるかを選んできたのだ。

swissinfo.ch:有権者の意思が内閣の構成に反映されるべきなのであれば、緑の党がポストを得るべきなのでしょうか。

ヘルマン:支持率だけを取り出してみれば、その通りだ。だが魔法の公式は、数学的に一義的に導き出せる配分ではない。必要な視点は一つだけではない。

社会民主党は総選挙で議席を大きく失った。緑の党と社会民主党は政治的に同等だ。つまり左派と環境系の政党が計3ポストも必要なのかという根本的な疑問がある。

Michael Hermann
政治学者のミヒャエル・ヘルマン氏 Keystone / Martin Ruetschi

swissinfo.ch:緑の党が閣僚ポストを得るのは4年後の総選挙でも勝利し支持を固めた時になる、ということを、今年気候変動を案じて緑の党に投票した若い有権者たちにどう説明しますか?

ヘルマン:これまでの考えは、裏打ちされた支持のもと生み出されてきた。スイスはそれでも極めて安定した国だが、以前に比べると浮動票が増えた。多くの有権者はその時々の状況に応じて右派に投票したり、次には左派あるいは環境系に投票したりする。

なぜ4年後まで待たなければいけないか、その説明は民主政治的に疑問があるようにみえる。今の議会は緑陣営が強く、彼らが発言権を持ちたいのは今だ。

swissinfo.ch:現在内閣を構成する4政党は、現職の閣僚を落選するのは好ましくないと主張しています。どう考えますか?

ヘルマン:望ましいのは、直近の選挙に現れた意見をすぐに反映できる柔軟なしくみだ。

現職閣僚が戦略的に辞任するという蛮行に終止符を打つか、現職が落選しても良いことにするか、どちらかだ。

swissinfo.ch:現職が落選してはならないという人の民主的な理屈はなんですか?

ヘルマン:落選を恐れる人間は、政治に携わるべきではない。公職は自身の人生計画通りにいくわけではなく、不本意な終わりを迎える場合もある。

結局のところ、(落選は)すべてがひっくり返るわけではなく、たった一つのポストを巡る問題だ。

Regula Rytz in der Altstadt von Bern
閣僚選に立候補している緑の党のレグラ・リッツ党首 © Keystone / Peter Klaunzer

swissinfo.ch:しかしそのたった一つのポストすら、ぐらつくことはないのでしょうか?それとも逆転劇が起こりえますか?

ヘルマン氏:これまでの発言を信じる限り、ポスト配分は変わらない。国民党の政治家も急進民主党の政治家も、自党出身の閣僚選出に反対票を投じることはない。キリスト教民主党議員の大多数も(カシス氏の)落選に貢献したくない。それにリッツ氏は自由緑の党や社会民主党の全議員の票を集めきれていないようだ。

swissinfo.ch:緑の党が勝つ見込みは小さいですが、リッツ氏は急進民主党にポストを明け渡すように主張している。2人の同党閣僚のうち、立場が危ういのはどちらですか?

ヘルマン氏:イグナツィオ・カシス外相だ。特に人気度の問題が大きい。カリン・ケラー・ズッター司法相は内閣での地位を確立し、より腰を落ち着けている。カシス氏を守るのは、唯一のイタリア語圏スイス代表者という点だけだ。

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(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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