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パンデミックでも各党議席に変化なし? 2023年総選挙予想

Das Fresko Die Landsgemeinde
全州議会(上院)の議場に描かれた「ランツゲマインデ(青空議会)」のフレスコ画。中世から続く直接民主制の一形態は、今日も2つの州で続いている Keystone/Peter Klaunzer

世紀に1度のパンデミック(世界的流行)は、4年に1度の総選挙でスイス連邦議会の構造を大きく変えることはなさそうだ。2023年の総選挙に向けたスイス公共放送協会(SRG SSR)の世論調査では、安定を好むスイス有権者の意識が改めて浮き彫りとなった。

スイス連邦議会の4年の任期が折り返しを迎えた。2年後には上下院の選挙が行われる。新型コロナウイルスの流行下に選挙が行われた多くの国々では勢力図が塗り替わったが、スイスでは今のところ安定感が際立つ。2021年10月時点、連邦議会において大きな地殻変動が起きる見込みはない。

調査会社ソトモが実施した世論調査「選挙バロメーター外部リンク」によると、国民党(SVP/UDC)が第1党の座を守るのは確実だ。保守右派の同党は、19年の前回選挙で議席占有率を3ポイント近く落としたが、それをボトムに1ポイント増とわずかながら議席を取り戻しそうだ。20年秋の前回世論調査と比較すると2.5ポイントも取り戻している。社会民主党(SP/PS)も第2党を維持するが、占有率はこれまでの減少傾向を引き継ぎ1ポイント下がる予測となっている。

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興味深いのは第3党だ。現在は急進民主党(FDP/PLR)と中央党、緑の党が三つ巴の戦いを繰り広げている。その背景には急進民主党が継続的に支持を落としていることにある。世論調査では議席占有率は1.5ポイント減る見込みで、減少幅は全政党で最も大きい。キリスト教民主党と市民民主党が合併してできた中央党の占有率予想も、旧2党の占有率の合計を0.5ポイント下回る。

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世論調査によると、23年総選挙の勝者は自由緑の党となりそうだ。19年総選挙の結果に比べると、次回選挙では議席占有率を2ポイント伸ばす見込み。これまでの上昇気流を引き継ぎそうだ。緑の党は19年選挙で履いたゲタを維持するにとどまる。

総選挙の結果が「マジックフォーミュラー」と呼ばれる連邦内閣の政党構成に与える影響は限定的だ。だが今回の世論調査の通りに議席が配分されれば、このフォーミュラーにも多少の変化が生じる可能性はゼロではない。

自由か気候変動か

自由緑の党や緑の党がどれだけ議席を伸ばすのかは、世論が気候変動をどう受け止めるかにかかっている。選挙バロメーターでは、回答者の約半数が「気候変動」を国内で最も重大な政治的課題だと捉えていることが示された。「パンデミックとの戦い」を上回ったのは、ワクチン接種が進み経済が正常化しつつあるため、この問題の緊急性が下がっていることが背景にある。欧州連合(EU)との2国間枠組み交渉の決裂を受け、「対EU関係」への関心も少し高まっているが、政党支持率を吸引するほどの力はない。

ただパンデミックは有権者の政治的関心の価値基準を変える力はあったようだ。連邦政府が感染対策として個人の自由を制限したことは激しい批判の対象になった。今、全有権者の6分の1は自由権を最重要課題の1つと捉えている。反EU・反移民政策では支持を集められなくなってきた国民党にとって、自由権が争点になったことは追い風となっている。

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もう1つ見逃せない変化がある。1年前に広がっていた失業や経済危機への不安感が大幅に後退したことだ。これは経済・社会問題を中核テーマとする急進民主党や社会民主党への支持率に反映されている。2党は皮肉なことに、コロナ危機を受けた連邦政府の経済対策が成功したことで支持を失っている。

大統領は好感度アップ

パンデミックとの戦いにおいて、連邦内閣は常に強い批判にさらされている。人数としては少数派だがその声は大きく、政府が講じた措置に対して数カ月にわたり精力的に抗議活動を行っている。特に批判の矢面に立っているのが保健行政を司るアラン・ベルセ内務相で、世論調査では最も影響力のある閣僚としても名が挙がっている。対極に座すのがイグナチオ・カシス外務相だ。

大半の連邦閣僚の好感度は2019年から少ししか変わっていない。はっきりと向上したのはギー・パルムラン氏だけだ。パンデミック・イヤー2年目に采配を振るう大統領を、応援したくなる国民が増えたとみられる。反対に、高い前評判とともに19年初めに司法警察相に着任したカリン・ケラー・ズッター氏は好感度を下げている。

調査はswissinfo.chの親会社であるスイス公共放送協会(SRG SSR)の委託を受け、調査会社ソトモが実施。調査期間は2021年9月29日~10月3日で、有権者2万7967人から回答をえた。標準誤差は±1.3ポイント。

(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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