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国民投票 失業保険改正法案を問う

失業保険改正法案に対し、右派と左派政党はまったく意見を異にしている Keystone

失業保険の赤字を埋めるため、収入の増額と同時に給付額を節約する改正法案を今年3月に政府と連邦議会は承認した。これに対し左派政党を中心とする反対者がレファレンダムを起こした。

9 月26日の国民投票では、この改正法案の是非が国民に問われる。25歳以下の若者の給付期間が短縮されるなど、若年層に不利な改正も含まれ、反対者は給付額を節約するのではなく、収入の増額のみを行うべきだと主張している。

収入の増額

 金融危機とその後の緩慢な景気回復の中で、2003年に改正された失業保険 ( ALV/AC 、日本では雇用保険に当たる) 公庫は、今年6月の段階で約70億フラン ( 約5959億円 ) の赤字を計上している。

 これに対し政府と連邦議会は、収入の増額と同時に給付額を節約するという2本立ての対策を盛り込んだ改正法案を3月19日に承認した。

 まず収入の増額では、現在、雇用者と被雇用者が半額ずつ負担している給料総額の2% の失業保険料率を2.2%に引き上げるという改正案を挙げる。さらに、年収が12万6000フラン ( 約1000万円 ) から31万5000フラン ( 約2700万円 ) の富裕層は、一時的な「互助手段」として、給料総額の1%を余分に支払うことが盛り込まれている。

 ところで、この収入の増額に関しては、たとえ改正法案が国民に否決されたとしても、「失業保険公庫の赤字が一定額を超えた場合には保険料率を引き上げることができる」という条項が、現行の2003年改正法に謳 ( うた ) われているため、保険料率は2.2% を超える2.5% になる可能性が高いと政府は説明している。

給付額節約

 一方、給付額を節約する対策では、今までは失業保険料を1年間払い込めば失業時に1年半の給付が得られるのに対し、改正案では1年間の払い込みは1年間の給付、1年半の払い込みは1年半の給付という具合に、払い込み期間と給付期間が同じになる。同様に、55歳以上の被保険者は、現在1年半の払い込みで2年間の給付を得ているが、改正案では1年半だけの給付になる。
 
 また、25歳以下で子どものいない若年層は、給付期間が現在の400日間から200日間に短縮される。

 給付の始まりを待つ待機期間の延長も盛り込まれており、大学や専門学校などの卒業直後に職に就けない若年層は、最低で120日間給付を待たなければならず、現在認められている例外的な取り扱いも廃止される。

左派は収入の増額にのみ賛同

 こうした55歳以上の中高年層と25歳以下の若年層の失業者の待遇が悪くなる改正法案を、左派の社会民主党 ( SP/PS ) の議員クロード・レンヴァルト氏は
 「失業者にさらに節約を強いる改正法に、社会民主党は真っ向から反対する」
 と語る。

 さらに、
 「連邦政府はこうして失業者に節約を強いる一方で、集まった資金を大手銀行にまたも公的資金として注入し、それはトップ経営陣の高額のボーナスや給与として使用されるだろう」
 と批判する。

 これは、金融危機で赤字に陥った銀行最大手UBSに対し、政府が2008年に60億フラン ( 約5100億円 ) の公的資金を注入したにもかかわらず、経営陣が高額のボーナスを受け取っていた事実を皮肉っている。

 結局左派政党は、今回の改正法案に対し、失業保険料率を引き上げ収入の増額を行うことには賛成するが、給付額の節約には断固として反対している。

 一方、右派の国民党 ( SVP/UDC )のジャン・フランソワ・リム氏は、今回の改正案はそれ程失業者を犠牲にしておらず、スイスの失業保険はヨーロッパでもかなりうまく機能しているものの一つだと主張し、さらに
 「銀行の経営陣の高額ボーナスには、われわれも反対しているが、これと失業保険改正法案は関係のないもので、左派のインテリ層が反対のための理論武装に使っているだけだ」
 と言う。

 またリム氏は、改正法案が否決された場合、政府が言うように失業保険料率そのものが2.2% より高い2.5% になる可能性を考慮にして国民は判断すべきだとも訴える。

 どちらの意見に賛同するか、国民は9月26日に決断を迫られている。

現行の改正法は2003年の失業率が2.5 % で約10万人の失業者が出た年に施行。現在失業率は3.3%で、失業者は約13万人に上る。
失業保険公庫は、今年6月の段階で約70億フラン ( 約5959億円 ) の赤字を計上している。
この改正法案が承認されれば、年間6億4600万フランの収入の増額と、6億2200万フランの節約で合計約12億フラン ( 約1000億円 ) の年間収入になり、今後およそ15年後に黒字になると見られている。

連邦政府はこの改正法案を全面的に支持。一方、連邦議会では、下院の国民議会で賛成91票、反対64票、また上院の全州議会で、賛成32票、反対12票で承認された。
連邦議会で改正法案を否決できなかった反対派の左派政党と労働組合が中心となって、レファレンダムを起こした。

ところで、ベルンの調査機関が9月初旬に行ったアンケートによると、失業保険改正法案に対し、26 %の国民が「全面的に賛成」し、22% が「どちらかといえば賛成」している。
賛成者の意見の中で最も多いのは、失業保険制度をうまく利用して、私腹を肥やす国民が多いというもので、68%を占めた。また、2番目に多い賛成意見は、反対すれば、失業保険料率がさらに高くなるというものだった。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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