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パレスチナ「国家」に格上げへ スイスの中立は保てるか

イスラエルとハマスが休戦合意した後、破壊された学校へと向かうパレスチナの少女 Keystone

国連総会は29日、パレスチナの国連参加資格を「オブザーバー機構」から「オブザーバー国家」へと格上げするかどうかを決定する。スイス政府はパレスチナの格上げを支持しているが、こうした政府の態度はスイスの中立性を損なうと危惧する声もある。

 スイス政府は28日、国連におけるパレスチナの地位を「オブザーバー国家」へと格上げすることに賛同すると公式発表した。

 スイスはこれまで中東紛争の仲介役として国際的な信用を築いていたが、パレスチナの格上げを支持することでこの信用に傷がつき、さらにはスイスの中立性が危ぶまれるとの批判が挙がっている。だが、歴史家で連邦反人種主義委員会長のゲオルク・クライス氏はその心配はないとみる。

 

 「ある領土が直接または間接的に他国から占領されるなど、国際法に関する問題が起きた場合、諸外国が中立的な姿勢を取ってその問題に関わらないということはあってはならない。もしスイスが中立という立場からパレスチナ問題の解決に踏み込まないのなら、パレスチナだけでなくスイスも損害を被るだろう」

 クライス氏はまた、人権問題の場合は中立的な態度はことさらあってはならないと付け加える。

政府判断に対する反応

 「スイス政府の決定には驚いた」と、50年以上にもわたりスイスとイスラエルの友好関係に携わるスイス・イスラエル協会(GSI)のコリーナ・アイヒェンベルガー会長は話す。「スイス政府のこれまでの方針では、スイスがパレスチナを国家として承認するのは、イスラエルとパレスチナが交渉を重ね、互いを独立国家として認めた場合においてだった。今のスイス政府の態度は、この方針から逸れている」

 アイヒェンベルガー氏はさらに、スイス政府の今回の決定は中立国にはあまりふさわしくなく、スイスは国連総会の採決で棄権した方がいいと語る。

 一方、スイスとパレスチナの関係強化を目指すスイス・パレスチナ協会(GSP)のダニエル・フィシャー会長は、スイスがパレスチナの国連参加資格の格上げに賛同していることを喜ぶ。

 「これは中立の問題などではない。その反対だ。中立とは、国際法からみて正しい立場を取ること。パレスチナの国家承認は国際法や国連決議のもとで行われるものだ。スイスがパレスチナの国家承認を支持しないなど、考えられない」

変わりゆく中東政策

 スイスのミシュリン・カルミ・レ前外相は現役時代、イスラエルに批判的な外交姿勢を取り、中東問題には熱心だった。しかし、後任のディディエ・ブルカルテール現外相はイスラエル・パレスチナ問題に関しては慎重な態度を取っている。その結果として、スイスとイスラエルとの緊張関係は緩みつつある。

 スイスは長い間、イスラエル寄りの外交を行ってきた。1977年から1987年までスイスの外相を務めたピエール・オベール氏は、スイス・イスラエル協会の会長も務めていた。スイスは1975年、スイスがユネスコに支払う支援金の額を削減したが、これにはユネスコがイスラエルを批判したことに憤慨したオベール氏の働きかけがあったとされる。

 オベール氏以降、スイスはバランスの取れた中東政策を行ってきた。パレスチナ人の権利を擁護し、イスラエルがパレスチナの一部を占領して住宅地を建設することに反対の意を唱えてきた。また、2006年、パレスチナ自治区ガザで行われた選挙でイスラム組織ハマスが勝利した際、この勝利を承認したのもスイスだった(米国と欧州連合は未承認)。

 イスラエルは建国当時は敵国に囲まれた小国で、軍事力も弱かった。しかし、現在は中東地域で最大の軍事力を誇り、周辺4カ国の軍事費合計以上の資金を自国の軍隊につぎ込んでいる。こうしたイスラエルの変化が、スイスの中東政策に大きな影響を与えたと、前出のクライス氏は見る。

 「今や強国となったイスラエルは、正当防衛の名のもと、あらゆることを思うがままに押し進めようとしようとしている。イスラエルのこうした態度に反発することが、反イスラエル的もしくは反ユダヤ主義的だとは言えない。その反対に、現在のイスラエル政府を支持することはイスラエルにダメージを与え、またイスラエル国内の野党勢力をおじけさせる」

イスラエルからの圧力

 今回の国連総会決議に際し、イスラエルはスイスに対し間接的に圧力をかけている。在スイスのイスラエル大使によれば、イスラエルは「スイスのように、イスラエルと友好関係にあり、志を同じくするすべての国」に対し、パレスチナが提出した国連総会決議案に断固として反対するよう求めている。また、イスラエルはパレスチナとの直接和平交渉のみが紛争への解決につながると主張している。

 クライス氏はこう言う。「イスラエル政府は、不当かつ不適切な要求を出しているが、問題は各国がそれに応じるか否かだ」

パレスチナは、パレスチナ解放機構(PLO)が1970年代に「オブザーバー機構」として国連に承認された。これは国際機関と同等の格付け。1998年には国連総会での発言権を得たが、主権国家とはみなされなかった。

パレスチナは昨年、国連の正式加盟国としての承認を要請したが、採択はされなかった。今回の国連総会では、パレスチナを「オブザーバー機構」から「オブザーバー国家」へと格上げするかどうかを決める。ちなみに、この採択が行われる11月29日は、1947年にパレスチナが分割され、イスラエルが建国された日である。

スイスも2002年に国連に正式加盟するまでは「オブザーバー国家」として国連に参加。地位の格上げは国連総会の賛成過半数で決定する。正式加盟とは違い、国連安全保障理事会の承認は必要ない。

パレスチナの「国家」格上げ案に対し、すでにヨーロッパの数カ国が賛成を表明している。一方、米国、カナダ、ドイツ、英国は反対している。

国際刑事裁判所はこれまで、パレスチナが国家として承認されていないことを理由に、パレスチナ紛争で起きた数々の戦争犯罪の審議を拒否してきた。しかし、パレスチナが「オブザーバー国家」へと格上げされることで、こうした犯罪が今後、国際刑事裁判所で裁かれる可能性があると、一部の専門家はみる。

(独語からの翻訳・編集 鹿島田芙美)

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