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幕末のあの年から、150年

「スイス人には一つのことを極める、または小さな部品の創意工夫に熱心だといった国民性があり、それは日本人と似ている」と梅本大使は話す Embassy of Japan in Switzerland

幕末の1858年、日本は列強の米・英・仏・露・蘭5カ国と修好通商条約(安政五カ国条約)を結んだ。その後の1864年、スイスとの間にもやはり修好通商条約を締結。当時、海運国ではない最初の国との条約締結として注目を浴びたといわれる。そのときから始まった日本とスイスの友好関係は、再来年の2014年で150年目を迎える。この国交樹立150周年を記念するロゴとキャッチフレーズの公募が10月1日、両国の大使館から発表された。

 いわゆる「ペリーの黒船」が浦賀沖に出現した1853年から、日本は帝国主義の列強に開国を迫られた。「日本は、ヨーロッパで生み出された膨張政策がその最盛期に向かっていたまさにその時に、世界史の激流に遭遇した。『砲艦外交』という言葉が当時の世界を支配したモデルを分かりやすく表現している」とスイスの歴史学者ロジャー・モッティーニ氏は、その著書『未知との遭遇、スイスと日本』の中で書く。

 スイスは、当時の帝国主義的秩序の中でイギリスが主導した世界市場の開放に伴う危険性を引き受ける準備ができていた国だという。「スイスは、その自由経済的姿勢では、大英帝国を凌駕(りょうが)し、織物貿易の分野では最も強力な競争相手になっていた」とモッティーニ氏は続ける。

 スイスは、狭い国内市場のせいで、19世紀中旬から海外市場への進出を目指し常に不安定な販路や市場に挑戦していった。その結果、列強の艦船の航跡に従い新たな国の岸を目指し、「最後には日本の海岸に上陸した」

 こうした、ほかの西欧諸国とは異なる姿勢で修好通商条約を求めたスイスと政治的混乱の中で次々に外国との国交を樹立していった日本。

 この二つの国の外交的・友好的な150年の歴史を日本側からハイライトするスイスでの企画を、梅本和義在スイス日本国大使に聞いた。

swissinfo.ch : スイスと日本の国交樹立150周年にあたっての企画のコンセプトは、どのようなものでしょうか。

梅本 : 実は150周年ということは、スイスでも日本でもあまり知られていない。従ってまず第一に、この歴史を広く多くの人に知ってもらいたいと思います。

日本の幕末にやってきたのは、みんな帝国主義の国なのです。そうした国々と、日本は開国して条約を結んでいます。この一連のグループの中にスイスも入っていたのです。

ただ、もちろんスイスは自国の軍艦を持っていないので、オランダ船に乗せてもらって来たわけですが。スイス政府の目的は通商。スイスの時計とか繊維の市場の拡大ということでした。これは、出発点からして、ある意味でモダンな時代の先駆けのようなものです。そのときから日本とスイスの付き合いが始まっています。

もう一つは、両国の共通性をハイライトしたいということです。

日本も天然資源が少なく、大半が山みたいなところで、みんなが勤勉に働いて今日の繁栄があった。スイスも同様にハンディのある国土の中で勤勉に改革を行い、世界でも高い経済成長を成し遂げた国。共通性があります。

その共通性が将来どう生かされていくのか。150周年記念というのは、150年経過したことが良かったというだけではなく、その基盤の上に今後さらに両国の関係を発展させていくことが大切。現実的な言い方をすれば両国がこの150年を利用して利益にしていく姿勢を持つことでさらに、両国の関係が深まっていく。そういう契機にしたいと思います。

世界経済をみると、科学技術、産業技術、ブランドの力などが重要になってくる。そうするとこれらはスイスも日本もいずれも秀たところを持った分野なので、この分野でさらに色々な協力が進んでいけばいいなと思います。

swissinfo.ch : どのようなイベントを考えていらっしゃいますか。

梅本 : 先ず文化的イベントというのが、相互理解を深める上で重要な要素かと思いますので、日本の文化の古いものと新しいものを持ってきて、スイスの多くの人に接してもらいたいと考えています。スイスは人口が少ないせいで、大きな文化的企画(歌舞伎やすもうなど)は、パリやロンドンに行きがちでしたが、今回はスイスにも文楽を持って来れないかと検討しています。

逆にスイスも日本で文化的なイベントを行う。東京のスイス大使館では、準備委員会を作り、スイス人芸術家の展覧会ができないか、またはスイスのオーケストラなどを呼びたいといったことを考えているようです。

新しいものでは、建築の分野で何かできないかと思っています。両国とも建築に優れ活躍している人が多いので、例えば日本の建築家がスイスに来て講演するとか、あるいはスイスの建築家が日本に講演に行くとかそういうことができたらいいなと思っています。特に建築は専門分野の人は(両国が建築で世界的に優れていることを)よく知っているが、一般の人は知らない。だからこそ、この分野をハイライトしたいと考えています。

swissinfo.ch : イベントは大使館を中心に行われますか?

梅本 : 150周年は、政府間の行事というよりは、150周年という枠組みを作り、連絡調整協議会のようなものを立ち上げて、さまざまな企画を行う人に積極的に参加してもらう形にしたいと考えています。

スイスにある商工会議所や日本人会の方々などに参加・支援していただきたい。あるいは、スイスの美術館や博物館で150周年をテーマにした企画がすでにあり、これらも150周年の枠組みの中に入ってもらおうと思います。そのためにも10月1日に公募したロゴとキャッチフレーズの作成が重要になってくる。ロゴを、こうしたすべての企画に付けていきたいと思っているからです。

一方、個人のレベルで、このスイスの国には一つのことを極めるという、日本人と共通した国民性のせいで、生け花、茶道、また柔道・剣道などでその道を極めたような方が沢山いらっしゃる。

実は日本にもヨーデルの会とかアルプホルンの会などがあって、それを極めている人はたくさんおられますが。そういう方々に、是非登場して披露していただけるような機会や場ができればいいなとも思っています。

実際調べてみると、本当に両国にはいろいろなレベルでの交流があります。人口との比率で日本との交流に関わっている人を数えると、ものすごく多いと思います。絶対量にするとほかの国に比べはるかに多い。その辺りもハイライトできないかと思っています。

swissinfo.ch : もう一度スイスと日本の共通点ですが、国際政治の舞台でも同じような傾向を持った国だとおっしゃっていますが。

梅本 : そうなのです。実はドイツ語圏の日刊紙ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング(NZZ)に掲載された記事ですが、スイスが今年国連加盟10周年ということで、ジュネーブ大学が国連での投票態度のパターンにおいて、スイスに一番近い国はどこかと統計を取りました。そうすると、それが日本だったのです。これには親しみを覚えました。

また、私の経験ですが、国連の安保理改革で、運営の仕方をもう少し改善できないかといった話を、日本はスイスと一緒にやっている。安保理に対しもっと透明度を高めてほしいとか、もっと効率的にできないかといったことをスイスは一生懸命やっていますが、日本も賛成していて、一緒に仕事ができているのです。

2009年にスイスと日本は経済連携協定を結びました。これも、世界貿易機関(WTO)で一緒にやってきた同志だからです。つまり非常に高度な工業国で工業製品を輸出し、同時に山国という地形的なハンディがあるため農業も保護している。また山が多いことをネガティブに捉えるだけではなく、それが国土保存に役立っているんだという発想の仕方が非常に類似している。そういう国とまず、経済連携協定を結んだのだということです。

この協定はうまくいっています。例えば、スイスではある特殊な分野のさらに小さなパーツの製造だけをやっていてそれでは世界一、といった小さな企業がたくさんあり、そうしたところを日本の企業が買収したり協同研究したりしている。実は日本にもそういう中小企業が多いからです。

そして、科学技術についても、物質、素材、ロボットなどの分野でお互いの国が優れているということをハイライトしたいという考えを持っています。

10月1日に在スイス日本国大使館と在日本スイス大使館が、同時にロゴとキャッチフレーズの公募を発表。両方の大使館に応募できる。締切は、2012年11月30日。

応募資格は日本またはスイスに居住する人、および日本国籍またはスイス国籍を保有する人(現在の居住地は問わない)。

デザイナーなどの専門家を選考委員会に入れ、両国の大使館が連絡を取り合いながらショートリストを作成し、その中から最終的に選考する予定。

キャッチフレーズに関しては、独語、英語、日本語など、どの言語でも応募できる。一位に入賞したものは、多言語に翻訳される。

選ばれたロゴとキャッチフレーズは、さまざまな企画・イベントに使用される。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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