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末はモナコかEUか?

スイスの独立性と他国との協力を考える Keystone

日ごとに外国からの圧力が増すスイスは、その独立性を保っていけるのか、それとも欧州連合への更なる歩み寄りを強いられるのか?4月26日、ルツェルン市で開催された「ヨーロッパ・フォーラム」で各界の専門家たちが討論した。

銀行の守秘義務については、政府はこれほど弱腰になるべきではなかったとクリストフ・ブロッハー元司法相は主張した。

スイス政府は弱腰

 「交渉をしようとしているときに、( 脱税の疑いのある国の ) グレーリストを振りかざしてくる。そうするとスイスは頭を垂れてしまう。わたしがいまでも閣僚だったら、グレーリストには反応しなかった」
 とブロッハー氏は、彼独特のジェスチャーで手を大きくかざしながら語った。
「スイス国家の独立性が脅かされていると声高に言うのは、インテリ階層による間違った戦略だ。スイスは独立国家でありたいのか、否か。それだけの問題だ。自分で自分のことを決められることこそ、国の最大の財産だ」

 これに対し
「討論や対立の末、スイスは一つの国家としてまとまった。スイスは、一つの国としてまとまりたいという意志の元に各州が集結している」よって、ブロッハー氏のスイスの独立性を強調した発言には感謝したい、とチューリヒ大学の哲学部教授のゲオルク・コーラー氏は皮肉を交えて応じた。

 「永世中立国であり、国家間の紛争などと距離を置くことでスイスは長い間、成功している国としての見本であり続けた。問題は、こうした形態が根こそぎ崩れ去ってしまったのではないかということだ。冷戦が終わり、スイス国内では文化の対立が起こっている。それは、今まで通りのスイスを支持するグループと、歴史の大きな流れが変わったことを指摘しこれに適応する必要を主張するグループの対立だ」
 
 さらに「リュトリの丘で誓いを立てたスイス」を見捨てることは難しいとコーラー氏。リュトリの丘でスイスは約700年前に独立宣言をし、第2次世界大戦時にはスイスの結束を誓い合った。しかし、スイスは一人凝り固まるのではなく、欧州連合 ( EU ) はスイスの敵なのか、それ以上のものなのかを見極める必要があると主張する。

 元連邦書記のフランツ・フォン・デニケン氏も、EUへの加盟が独立国家としてのスイスのためになるという意見だ。
「EUと2国間協定を結ぶことで、スイスは独立国家としての立場を強めたというが、実際は違った。このためスイスは、将来をEU諸国とともに設計するという余裕はなくなってしまった。現在のEUとの関係は、EUの基準をスイスが受け入れることにとどまっている。このままでは、スイスの意見は通らなくなる」
 と語る。

「ばかばかしい」協定はノー

 一方、ブロッハー氏は「スイスがEUに加盟すれば、生活水準が大幅に低下する」と主張する。スイスの通貨がユーロではなかったからこそ、今回の金融危機でも大きな被害は無かったと言う。2国間協定は「スイスの有利さを帳消しにするものではない。スイス政府は将来もEUとの協定関係でいけるのかどうか、細かい問題までも虫眼鏡で見ている。ばかばかしい協定にはノーと言うべきだ」
 と指摘した。

 コーラー氏によるとブロッハー氏の言う永世中立は、「永世中立のおばけ」だ。「EUとの協定や条約は、威厳を示したい政治家や能力の無い者によって結ばれたのではない」と語り、重要なのは
「フェアーな関係を築いているという評判やそれを認めてもらうことにある。便乗者と見られたら、勝負に挑む前から負けている」
 と指摘した。

 さらに、コーラー氏は、スイスが多数の外国とそれぞれ2国間協定を結ばなければならないのは「スイスが富裕層の金庫番」になっているからだという。隣国はスイスが各国といちいち協定を結ばなければならないようにしたのは、ここ数年他国がスイスのことを勉強し周到に準備を進めてきたからであると言う。

協力態勢の強化

 デニケン氏は、EU諸国の圧力に対しスイスは
「蒸し風呂に入れられたようなもので、それまで絶対に受け入れを拒否していた内容を受け入れてしまった」
と指摘し、これにより国の独立性が徐々に失われていったと言う。脱税か申告漏れかという問題はすでに1990年代に論議されていたことを挙げ
「経済協力開発機構 ( OECD ) の基準をもっと早くに受け入れていたなら、スイスはより多くのものを得ただろう。利害を共にする諸国とは協力体制を強化するべきだ。スイスは世界貿易機関 ( WTO ) とは、多くのものを得た」
 と語る。

 これに対しブロッハー氏が
「スイスは何も必要ない。外国人の銀行顧客に対して、その国の政府とスイスが協力するようになれば、外国から富裕層がスイスに引っ越してくる」
 と答えると、デニケン氏は
「スイスをモナコにしたいなら、そうすることもできる。しかし、スイスが抱く大志を将来も持ち続け、連邦制度を誇りに思い、将来の国を作って行こうとするなら、EU加盟しかない」
 と反論した。

アンドレアス・カイザー、ルツェルンにて、swissinfo.ch
( 独語からの翻訳、佐藤夕美 )

4月26日開催。今年で18回目となる。
ヨーロッパ諸国から経済、科学、政界の代表者が集まり討議する場。議題はヨーロッパに関する、スイスと関連のあるものが選ばれる。

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