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米議事堂混乱は「不穏、衝撃的、歴史的」 スイス紙の反応

1月6日、米連邦議会議事堂を襲撃するトランプ氏支持者たち
1月6日、米連邦議会議事堂を襲撃するトランプ氏支持者たち Copyright 2020 The Associated Press. All Rights Reserved

米ワシントンで6日、トランプ米大統領支持者が連邦議会議事堂に乱入した前代未聞の事件について、スイス紙は米国の民主主義にとって悪夢だと報じた。ある日刊紙はトランプ氏に「手錠をかけて」ホワイトハウスから連れ出すべきだと批判した。

「2021年1月6日は米国の歴史に残る」と大衆紙ブリック外部リンクは述べた。「昨日、世界中がワシントンの様子にショックを受けた。ドナルド・トランプ現米国大統領の支持者が、由緒ある議事堂を襲撃し、議員は逃げ惑い、上院本会議場の警備員らは武器を手にしていた。世界で最も安全な建物の1つは突然、暴徒に占拠された」

警察によると、この事件で4人が死亡。1人は銃撃によるもので、3人は医療救急対応の中で死亡した。逮捕者は52人に上った。

独語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガー外部リンクは社説で、今回の事件を「米国の民主主義は、最低の地点まで沈んだ」と表現した。「米国は無政府状態に陥った。国家とその法律を軽蔑しているドナルド・トランプ大統領が、大衆を鼓舞して連邦議会議事堂に嵐を呼び込んだ。この男が責任を負わなければならないところまで、ついに来た。彼は米国を嘲笑し、民主主義を破壊し、クーデターを呼びかけている。他のいかなる民主主義国でも、これはクーデター未遂とみなされる。 トランプ氏はその代償を払わなければならない」

世界中のテレビ視聴者やソーシャルメディアのユーザーは、暴徒が米国の民主主義の最も神聖な場所を占拠したとき、下院の議場内での銃撃や警察官と殴り合う異常な画像を見た。

同紙の社説は「これらの恥ずべき画像は、米国の集団的記憶に刻まれるだろう」とし、「南北戦争以来、この国は民主主義の神殿、自らの憲法秩序の象徴、そして誰もが首(こうべ)を垂れる国家宗教の舞台背景を提供した、感情の積み重なる首都のアンサンブル(調和)に誇りを持ち、大部分が団結していた。今、その教会が冒涜されている。それはアメリカ人の大多数の心を深く傷つけるだろう」と分析した。

同紙は、米国の将来を「自己浄化の激しいプロセス」に直面しているとみる。

「議会襲撃に肯定的な側面が1つあるとすれば、トランプ氏の狂気にまだ賛同する者は誰であろうと、彼と共倒れするということだ。その点では、抗議者たちは議員を追い出しただけでなく、トランプ氏をホワイトハウスから追い出した。それは彼の任期が終わった日だった。彼は手錠をかけて外へ連れ出されるべきだ」

抗議者が米連邦議会議事堂に侵入しようとした時。ドアの後ろで銃を構える警察たち
抗議者が米連邦議会議事堂に侵入しようとした時。ドアの後ろで銃を構える警察たち Copyright 2020 The Associated Press. All Rights Reserved

「破壊的な狂気 」

フランス語圏のル・タン外部リンク紙は、トランプ氏を政権に留めることは「犯罪的」であるとした。

「彼は憎しみと嘘で(暴徒たちを)養い、まるで皇帝ネロの現代版のごとく、彼の破壊的な狂気の単純な見物人を装い、最後の演説はまるで爆弾に点火する導火線のような攻撃的な口調で行われた。彼が民主主義にとって危険な存在であることを否定し続けることができるだろうか」

2021年1月6日の傷跡は深く、永続的なものになるだろうと同紙は述べた。

「ドナルド・トランプ氏の遺産は、反乱行為を推進することによって、二極化した国家をさらに分裂させたことだ。ジョージア州の上院2議席を民主党が獲得したおかげで、ジョー・バイデン氏には上院・下院ともに民主党が過半数を握る議会が付く。しかし、彼はすぐに現在では不可能と思われる課題に取り組まなければならないだろう:すべてが分離しているように見える2つの陣営の和解だ」

米連邦議会議事堂に乱入したトランプ氏の支持者
米連邦議会議事堂に乱入したトランプ氏の支持者 Keystone / Jim Lo Scalzo

まだ「機能している民主主義」

独語圏の日刊紙NZZ外部リンクは、そこまで悲観的な見方ではなく「連邦議会議事堂での制御の喪失は警告のサインだが、米国の民主主義の終焉ではない 」と報じた。

「我々がここ数時間の間に連邦議会議事堂から見たシーンは、不穏で、衝撃的で、歴史的なものだ。米国テレビのジャーナリストやジョー・バイデン次期大統領は、そのようなシーンは発展途上国では時々報じられるが米国からではない、現代世界における民主主義の守護者で模範であるアメリカからではない、と繰り返した」

しかし、20日にバイデン氏が第46代大統領に就任することは確実だとして「すべての恐怖にもかかわらず」、これまでの関係を保っていくことが必要だと述べた。「米国が有権者の意思を尊重し、機能している民主主義国家であることに変わりはない」。

NZZは、議事堂での事件は「スキャンダル」だと認めたが「それが反映しているのは大統領の現状に過ぎず、米国そのものの現状ではない。水曜日(6日)に議会を占拠したのは数百万人ではなく、数千人の過激派だった」と指摘した。

その一方で、同紙はトランプ氏が単に政治の大舞台から姿を消すわけではないと予測する。

「約7400万人の有権者が先の大統領選でトランプ氏に投票した。落選候補者への投票数としては過去最多。共和党も民主党も、今後数年間はトランプ氏の影響力や支持者の過激派から距離を置きながらも、彼に投票した有権者の大部分、つまり何百万人もの一般市民を把持していく芸当が求められるだろう。ただその芸当が成功するかどうかは、誰にも分からない」

(英語からの翻訳・上原亜紀子)

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