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証人保護 沈黙の掟を打ち破る証人保護プログラム

(AFP)

スイスの警察は、事件の目撃者や事件に関して証言できる人を保護する制度「証人保護プログラム」を初めて導入した。特に対象となるのは、人身売買、テロリズム、組織犯罪に関係する事件だ。しかし、保護を希望する人全員に適用されるわけではない。

 警察機関なら証人の保護は当然のように思われるかもしれない。ハンフリー・ボガート、ハリソン・フォード、メル・ギブソン、ホーマー・シンプソンがフィクションの世界で描き出してみせるほど、一般の人々の意識に浸透しているからだ。

 ところがスイスではこれまで証人保護プログラムは制度化されておらず、証人が保護されるか否かはケースバイケースで判断されていた。

 「ある種の犯罪に関しては、鍵を握る人々と話すことが非常に重要だ。しかし、彼らが命の危険を感じたり身に危害が及ぶ不安を感じたりすれば、話をしてもらえないということが近年はっきりしてきた」と言うのは、連邦司法警察省警察局(fedpol)のジャン・リュック・ヴェズ局長だ。

 連邦警察がこの新制度を導入したことにより、法の欠落部分が埋められる。さらに、スイスは昨年後半に批准した「欧州評議会人身売買対策協定条約」に即した義務を果たせるようになる。

 連邦および州の検察は1年に10件から15件の事件について、証人の保護を要請する見通し。費用は約200万フラン(約1億9700万円)と見積もられ、州と連邦当局の間で折半される。また連邦警察局はおよそ140件について州に助言を与えるとみられる。

 証人を保護するかどうかは最終的に連邦警察局長が決定する。「私の責任は重大だ。証人の命がかかっているのだから」とヴェズ局長。

証人保護の規則

新しい証人保護プログラムに関する法律は2011年に連邦議会に承認され、2013年1月1日に発効した。

年間費用は200万フラン(約2億円)の見込み。国と州が半分ずつ負担する。各州は人口に応じて負担する。

プログラムは地方検察あるいは連邦検察の要請を受けて証人を保護する。最終決定権は連邦司法警察省警察局(fedpol)局長にある。

保護が終了するのは、明らかな脅威がなくなった場合、あるいは被保護者が繰り返し警察との取り決めを破り、その結果保護が保証できなくなったり、警護員の安全が保証できなくなったりした場合。また証人が要請した場合にも保護は終了する。

今回の法改正により、外国籍の証人が居住許可を得ていない他州にも住むことが可能になり、また外国の証人保護プログラムで保護されている証人がスイスに避難することもできるようになった。

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新しい生活

 証人保護プログラムの適用は人身売買、テロリズム、組織犯罪の絡む事件に限られる。では、どんな人が保護を受けられるのだろう?証人本人だけというのが理想だが、実際には証人の子どもや配偶者も含まれる可能性がある。

 警察が考えた架空のシナリオの一例は次のようなものだ。麻薬の売人にチューリヒでの売春を強要された若いキューバ人の母親マリアの証言をとるため、証人保護プログラムの担当官が介入する。売春斡旋業者たちに散々殴られたマリアは話す気になっているが、身の安全を確信できればという条件つきだ。

 証言と引き換えに、連邦警察はマリアに新しい名前と住む場所を提供する。新住所は国外になるかもしれない。さらに、キューバに残してきた幼い子どもも呼び寄せられるように取り計らう可能性もある。

 今年初めに発表された連邦警察の年間報告書では、人身売買事件の捜査が難しいのは被害者が強い圧力をかけられ、自分の身に起こったことを報告したがらないためだと指摘されている。

 被害者団体はこのプログラムの導入を歓迎している。まだ完璧とは言えないにしても、最初の一歩としては好ましいと考えているからだ。

 「証人だけでなく、被害者も保護するプログラムであるべきだと私たちは考えている」と、移民女性と人身売買被害者の支援組織FIZのドロ・ウィンクラーさん。「被害者の女性たち全員が証人というわけではなく、訴訟を起こしたり情報提供したりしたいというわけでもないが、保護は全員が必要としている」

 ウィンクラーさんは、被害者の保護は現在、市民社会と州の手によって行われていると話し、「私たちのしていることは証人保護プログラムとそれほど変わらないが、資金や人手、活動の機会が限られている」と付け加える。

映画の中の証人たち

証人保護を受けて生活するジレンマとリスクは何十年も前から映画に取り上げられている。アル・パチーノの「フェイク」、ハリソン・フォードの「刑事ジョン・ブック 目撃者」、もっと最近ではヒュー・グラントの「噂のモーガン夫妻」などだ。

1937年の映画「札つき女」では、熱血漢の地方検事(ハンフリー・ボガート)がクラブのホステス(ベティ・デイヴィス)に、ギャングである雇い主に不利な証言をするよう説得する。彼女の罪のない妹がこの雇い主の不愉快な「パーティ」で誤って殺されてしまったのだ。

メアリー・ドワイト・ストローバー : 話せって言わないで。あいつに殺されるわ。

デヴィッド・グレアム : これが奴の責任だと証明する手助けをしてくれれば、奴を誰も殺せないようなところに入れてやる。

メアリー・ドワイト・ストローバー : あなたはあいつがどんな男か知らないのよ!誰にも止められない男よ。急にいなくなって二度と消息がわからなくなった人が何人もいるわ。私はそんな目に遭いたくない。

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マフィアを標的に

 スイスはまた、特に伊カラブリア州が拠点のンドランゲタを筆頭とするイタリアのマフィアにとって、非常に都合のいい市場でもある。連邦検察庁(Bundesanwaltshaft/ MPC)によると、スイスはマフィアの汚れた資金を洗浄する一種の後方支援基盤となっているという。マネーロンダリング(資金洗浄)は銀行や信託、不動産投資を通じて行われている。

 ンドランゲタはイタリアで強い勢力を誇っており、数年前から勢力範囲を北へ広げている。スイス当局は諜報活動を強化することでこれを迎え撃ちたい考えだ。その中には、組織内のより良い報提供者を見つけ、必要に応じて保護することも含まれる。

 「マフィア組織の掟の一つは誰も口を割らないということだ」とヴェズ局長。「マフィアについての情報が欲しければ、その情報を持っている鍵となる人間を見つけなければならない」

 当局は証人保護プログラムが、特に組織犯罪関連での捜査において突破口になると期待している。近年、検察側の多大な努力にもかかわらず法廷で頓挫し、軽い判決しか下りなかったケースがたくさんあるからだ。

 ヴェズ局長は効果があるはずだと考えている。「このプログラムによって、この種の犯罪に対する捜査の効率は必ず上がるはずだ」

 しかし、マフィアの裏切り者とその仲間を保護することは慎重に考慮されるだろう。検察にとってこういった証人は貴重ではあるが、本人の犯した罪に対する責任が免除されることはないからだ。

 連邦警察はまた、証人保護プログラムが適用されたとしても、金銭その他の義務から解放されるわけではないと指摘している。つまり、証人宛ての請求書は証人本人が払い続けなければならないということだ。

 ある人を保護するかどうかを決定する際には、保護にかかる費用もまた考慮される。連邦警察によると、1件につき5000フランから15万フランかかる見込みだという。

 「我々が証人保護を引き受けない場合もあるだろう」とヴェズ局長は認めるが、そういった場合は証人に立ってもらうことも断念するという。

 詳細は明らかにされていないが、証人保護プログラムは極めて複雑な仕組みになっており、連邦警察、州警察、検察、地方政府、さらには外国の政府の協力さえ必要になる。

 ヴェズ局長によると、最も難しい点の一つは手続きを秘密にしておくことだという。

 「この手続きに関わる機関全てが、情報の極秘性を認識することが重要だ。もしこのプログラムについて少しでも情報が漏れれば、証人たちの身に危険が及ぶ」


(英語からの翻訳 西田英恵), swissinfo.ch


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